結婚式場で流れる曲と聞くと、どのような曲を連想しますか?
近年では、ポップスや映画音楽を取り入れるカップルも増えており、「伝統を守るか」「自分らしさを出すか」という選択肢の一つになっていますが、やはり結婚式で流れる音楽=”クラシック”と連想される方が多いのでは無いでしょうか。
このイメージは、クラシック音楽が「儀式性」を持っていることや、歌詞が無い器楽曲であることから宗教や国境を超えて利用しやすく、厳かさと華やかさを両立させることができることが関係しています。
実際、クラシック音楽は教会と深い関わりを持ち、宗教儀式の中で演奏されることが多く、厳かで格式のある雰囲気を自然に纏っています。
そうしたイメージもあり、今でも結婚式という特別な1日を、より感動的で心に残るものにするためにも、音楽の存在は欠かせません。
そこで、本記事では現在も結婚式で多々利用されることが多い代表的なクラシック音楽に焦点を当て、作曲家そして曲について解説していきます。
音楽の力で、一生に一度の瞬間をより美しく彩るヒントとして、ぜひご参考にしてください。
結婚式が始まる前の受付会場・開場で流したいクラシック曲
結婚式は新郎・新婦だけでなくその家族・友人など会場に来席した人、全員にとっても思い出に残るイベントです。
会場に着いた瞬間のワクワク感やこれまでの出来事を胸に思い起こしたりと、人によってそれぞれ異なる思いを持ち会場に来場されることでしょう。
そうしたゲストが式場に足を踏み入れるその瞬間、どのような空気を感じて欲しいでしょうか?
期待と緊張が入り混じる空間をやさしく包み込む曲として人気なのが、エリック・サティの《ジムノペディ 第1番》。1888年に発表されたこの作品は、フランス近代音楽の先駆者であるサティによる、ミニマルで内省的な作品です。
ゲストが式場に足を踏み入れるその瞬間、どんな空気を感じてほしいですか?
期待と緊張が入り混じる空間をやさしく包み込む曲として人気なのが、エリック・サティの《ジムノペディ 第1番》。
1888年に発表されたこの作品は、フランス近代音楽の先駆者であるサティによる、ミニマルで内省的な作品です。
まるで霧が晴れていくように、静かに心を解きほぐしてくれるその響きは、式の冒頭にふさわしい清らかさを持っています。
非常にゆっくりとしたテンポ(Lent)の指示で始まり、3拍子のリズムが心地よく揺れるように続き、聴く人の心を穏やかに整える傾向があります。
印象派の先駆けとも呼ばれるサティの和声は、単純でありながらもどこか夢の中のような響きを持ち、親交のあるドビュッシーの浮遊感や非現実感を持つ和声が特徴の1曲です。
歌うような旋律ではなく、あくまで空間を包み込むよなメロディーラインであり、前に出過ぎない静かな佇まいが魅力の1曲です。
結婚式が始まる前のエントランスでは、式場に来ているゲストは期待と少しの緊張を抱えて会場に訪れています。
この曲の柔らかで温かい響きが緊張をそっとほぐし、落ち着いた空気を生み出します。
豪華さや派手さではなく、静けさと品のある雰囲気を大切にしたい式にピッタリで、ジムノペディのゆったりとした音の流れが、「特別な時間がこれから始まる」という静かな高揚感を演出してくれることでしょう。
クラシックに詳しくない方でも、CMや映画などで耳にしたことがある人が多く、「聴いたことがあるけれど、なんだか心に染み渡る」といった印象を持ちやすく、
年齢を問わず多くの方に心地よい印象を与えることができる1曲です。
少し明るく、軽やかな雰囲気を出したいなら、モーツァルトの《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》もおすすめです。
1787年に作曲されたこの作品は、モーツァルトの中でも特に親しまれているセレナードで、明快なリズムと親しみやすい旋律が特徴。
冒頭から軽快で歯切れの良いリズムが続き、聴く人の心を晴れやかにしてくれる一曲で、第一楽章がソナタ形式で書かれているため、整った構造のハーモニーに豊かな旋律美が広がります。
流れるような展開が、式が始まる場面とも重なりぴったりの曲です。
さらに、管楽合奏による演奏は華やかさと同時に品の良さを保ち、フォーマルなシーンに自然と溶け込み結婚式のようなセレモニーに拡張に高い印象を与えます。
冒頭の印象的なフレーズが、まさに今からしきが始まるという高揚感とリンクし、ゲストの視線を自然と入り口に引き寄せ、これからのセレモニーへの期待感を高めます。
アップテンポの曲でありながらも、激しすぎることがないため気品を保ち賑やか過ぎないものの、印象には残る絶妙なバランスであることが入場シーンを心地よく彩ります。
モーツァルトの中でも特に有名なこの曲は、年齢や音楽の好みに関係なく多くの方が親しみを持てる一曲であり、式のスタートを緊張感ではなく温かさで包み込みます。
結婚式の新郎新婦登場シーンで流したいクラシック曲
新郎新婦の入場は、結婚式の中でもひときわ注目が集まる瞬間で、”扉が開きふたりが歩みを進める場面”は会場の空気を一変させるほどの存在感があります。
印象的なシーンでもあり、ドラマティックに演出するためにも、音楽にはこだわりを持ちたいと考えているのではないでしょうか。
クラシック音楽ならではの壮麗さや奥行きが加わることで入場の瞬間はより感動的に残るものになります。
入場の定番といえば、リヒャルト・ワーグナーの《婚礼の合唱》
これは1850年、オペラ《ローエングリン》の第3幕に登場する場面で用いられた楽曲で、荘厳で堂々たる旋律が印象的です。
もともと、ワーグナーのオペラ《ローエングリン》第3幕でエルザとローエングリンの結婚式の場面で歌わられる合唱曲で、ストーリー上でも実際に新郎新婦が入場するシーンに使用されている1曲です。
音楽は安定した4拍子で進行し、荘厳で穏やかな響きがあることも清らかな雰囲気が近いの場に相応しいとされている一曲です。
メロディも高貴で清らかな印象を与えるため、式典・フォーマルな場でも非常に相性が良いです。
しかし最近では、より温かく柔らかな雰囲気を求めて、パッヘルベルの《カノン ニ長調》を選ぶ方も増えています。17世紀にドイツの作曲家ヨハン・パッヘルベルによって書かれたこの曲は、穏やかな和声進行と繰り返される優美な旋律で、感動の涙を誘います。
クラシックの優雅な旋律を取り入れることで、入場の一歩一歩に気品と感動を添えてみてはいかがでしょうか。
誓いを捧げる静謐のとき──指輪交換・誓いの言葉
ゲストの視線が1点に集中し、空気が張り詰めるこの瞬間。
ここで流れる音楽は、言葉にできない感情をそっと代弁してくれる存在です。
静かな深みを与えるのは、バッハの《G線上のアリア》。
18世紀の《管弦楽組曲第3番》の第2曲「アリア」を、19世紀のヴァイオリニスト・ヴィルヘルミがヴァイオリンのG線だけで弾けるように編曲したことから、この名前で親しまれるようになり、深く柔らかな音色が、ふたりの誓いを厳かに包み込みます。
結婚という2人の誓いを深い祈りをより一層強めたいのであれば、シューベルトの《アヴェ・マリア》も。
1825年に作曲され、後にカトリックの祈祷文と結び付けられたこの作品は、純粋な愛と祈りの象徴ともいえるでしょう。
「亡き祖母が好きだった曲だったから」「神聖な気持ちを込めたかった」という理由で選ぶ方も多く、個人の思い出や感情と深く結び付くことが多いようです。
幸せの余韻を響かせて──退場・再入場
退場の場面は、新たな人生の始まりを象徴する瞬間です。会場全体に感動と祝福の空気が満ちるこのタイミング、どんな音楽がその気持ちを後押ししてくれるでしょうか?
華やかで伝統ある選曲なら、メンデルスゾーンの《結婚行進曲》が有名です。1842年、シェイクスピアの戯曲『夏の夜の夢』に付けられた劇付随音楽の中の一曲で、王室の結婚式で使用されたことで一躍、世界中の結婚式の定番となりました。華やかで明快なリズムが場面を一気に盛り上げ、「まるで映画のようだった」と多くの新郎新婦に語られる、華やかさの象徴です。
一方、再入場や披露宴の盛り上がりに使われることが多いのが、ヴィヴァルディの《四季》より《春》第1楽章。
1725年に発表されたこのバロック作品は、自然の恵みや命の芽吹きを音で描いたもので、軽快なリズムと明るい旋律が会場に爽やかな風を吹き込みます。「春に結婚式を挙げたからテーマに合っていた」「自然を感じられる音楽にしたかった」というように、季節感やテーマを大切にする方に選ばれています。
クラシックの軽やかな旋律を取り入れれば、退場や再入場のひとときが自然と祝福ムードに包まれるはずです。
余韻を結ぶ、幸せの時間──披露宴・歓談・送賓
披露宴や送賓の時間は、形式的な進行から少し離れ、ゲストと共に過ごす温かな時間。だからこそ、ここでは空気になじむ心地よい音楽が求められます。
格式と華やかさを兼ね備えた選曲として定評があるのが、ヨハン・シュトラウスⅡの《美しく青きドナウ》。
1867年に発表されたこのウィンナ・ワルツは、流れるような旋律が優雅な雰囲気をつくり、披露宴の背景音としても、送賓の締めくくりとしても重宝されます。「格式あるホテル婚にぴったりだった」「音楽が空間を上品にしてくれた」といった声も多く聞かれます。
また、より夢のような空間を演出したいなら、チャイコフスキーの《花のワルツ》がおすすめです。
1892年のバレエ《くるみ割り人形》の終盤に登場するこの曲は、優雅で幻想的な雰囲気が特徴。披露宴のクライマックスや送賓時に使用することで、現実を一瞬忘れさせるような「魔法のような時間」をつくり出します。「まるで童話の世界みたいだった」と感じたゲストも多く、記憶に残るひとときを締めくくる最高の一曲といえるでしょう。
結びに──音楽は、記憶に残る贈り物
音楽は、言葉よりも長く記憶に残るといわれます。数年後、あるいは数十年後、ふと耳にしたクラシックの旋律が、あなたの結婚式の記憶をよみがえらせるかもしれません。そのとき、そこにあった感情や空気感までもが蘇るのです。
結婚式というかけがえのない一日には、目に見える装飾や演出だけでなく、耳に届く音楽が大きな役割を果たします。なかでもクラシック音楽は、その歴史的な深みと美しい旋律によって、言葉では表しきれない感情をそっと引き出してくれます。式の始まりから終わりまで、シーンに寄り添う音楽があることで、空間はより豊かに、そしてふたりらしさを込めた物語性が生まれます。
今回紹介したクラシック音楽たちは、ただ美しいだけでなく、それぞれが歴史と意味を持っています。
その一曲一曲が、これからの歩みにも温かく寄り添ってくれるはずです。