「枯葉」は、ジャズピアノを始めた人がほぼ必ず最初に手渡されるスタンダードナンバーです。セッションに行けば必ず誰かが呼ぶ曲で、「ジャズの1曲目は枯葉から」と言われることも少なくありません。
ところが、楽譜を買って開いてみると「Cm7」「Am7(♭5)」「D7」とコードネームが並び、右手のメロディは弾けても、左手で何を押さえればジャズに聞こえるのかが分からない――そんな経験はないでしょうか? クラシックを長く弾いてきた方ほど、「楽譜どおりに弾いているのに、なぜか枯葉に聞こえない」という壁にぶつかりがちです。
- 枯葉のコード進行は、なぜ「ジャズの最初の1曲」に選ばれるの?
- ジャズピアノで枯葉を弾くとき、左手と右手は何をすればいい?
- 「簡単な曲」と言われるのに、どうして弾いてみると難しいの?
この記事は、ピアノの基本的な読譜はできるけれど、ジャズのコードや即興にはまだ自信がない方に向けて書いています。コード進行の仕組み→左手の押さえ方→5つの練習ステップ→アドリブ→名演の聴きどころの順に読み進めれば、今日から鍵盤の上で手を動かせる内容にしました。
なお、メロディや歌詞の楽譜は掲載していません。メロディはお手持ちの楽譜(リードシート)で確認しながら読み進めてください。
枯葉とは?ジャズピアノの定番曲になった理由

枯葉(英題:Autumn Leaves、原題:Les Feuilles mortes)は、フランス生まれのシャンソンがアメリカでジャズ・スタンダードになった、少し珍しい出自の曲です。ジャズピアノの定番曲になった最大の理由は、コード進行がジャズの基本形「ii-V-I(ツー・ファイブ・ワン)」でほぼ組み立てられていて、しかも転調がないことにあります。
枯葉の生い立ち|バレエ音楽からシャンソン、そしてジャズへ
枯葉の作曲者は、ハンガリー出身でフランスで活躍したジョゼフ・コスマ、フランス語の詞は詩人ジャック・プレヴェールです。メロディのもとになったのは、第二次世界大戦末期のパリで上演されたローラン・プティのバレエ『ランデヴー(Le Rendez-vous)』のための音楽でした。
その後、マルセル・カルネ監督の映画『夜の門(Les Portes de la nuit)』(1946年)で使われ、イヴ・モンタンの歌で広く知られるようになります。1950年にはジョニー・マーサーが英語詞をつけ、ジョー・スタッフォードが英語で初めて録音しました。マーサーの英語詞は原詩の直訳ではなく、「舞い落ちる枯葉を見ながら、過ぎた夏の恋を思い出す」という短い情景に絞り込まれています。この「秋」のイメージが、曲の切なさと結びついて世界中に広まりました。
ピアノ弾きとして知っておきたいのが、1955年にロジャー・ウィリアムズが録音したピアノ・インストゥルメンタル版の枯葉が、全米チャート1位を4週続けて獲得したというエピソードです。ピアノの器楽曲として初めての全米1位とされ、ピアノと枯葉の縁はこのころからすでに深かったことがわかります。
なぜ枯葉は「ジャズピアノの最初の1曲」に選ばれるのか
枯葉がジャズピアノの入門曲として選ばれる理由は、大きく4つあります。
- ii-V-Iがメジャーとマイナーの両方で出てくる:ジャズで最も多いコードの流れを、1曲で両方練習できます。
- 転調がない:曲の途中でキーが変わらないので、スケール(音階)を1つ決めれば最後まで弾き通せます。
- コードの流れが規則的:ルート(コードの土台の音)が4度ずつ進むので、次のコードを予測しやすいです。
- テンポを選ばない:ゆっくりのバラード風でも、軽快なスウィングでも成立します。
ジャズピアノ歴7年の方がスタンダード30曲を体感の難易度で★5段階に分けた記事でも、枯葉は「Blue Bossa」「Fly Me to the Moon」とともに★1、つまり「まず最初に取り組む曲」に置かれています。そして同じ記事では、枯葉で身につけたGマイナーのii-Vが、後の「You’d Be So Nice to Come Home To」で役に立ったと書かれています。枯葉は入り口であると同時に、他の曲へ持ち越せる「型」の貯金箱でもあるのです。
「枯葉は簡単」は本当?――曲は易しく、表現は難しい
知恵袋には「枯葉の難易度はどのくらい?」という質問があり、回答はきれいに2つに分かれていました。「マイナーのダイアトニック進行だけでできていて曲自体は易しい」という意見と、「誰もが知っている曲だからこそ、下手には弾けないし、いじらないと埋もれる」という意見です。
どちらも正しいと思います。音を外さずに1コーラス弾くだけなら、枯葉はFのブルースの次くらいの難易度です。しかし「枯葉らしく、自分らしく聞かせる」となると、簡単なコード進行の上で何をするかが全部あらわになるので、むしろ難しい。この記事の前半(コード進行・左手・練習ステップ)は「音を外さず弾く」ための章、後半(アドリブ・名演)は「自分らしく聞かせる」ための章だと思って読んでください。
ジャズという音楽そのものの成り立ちや時代ごとの流れは、ジャズの歴史と有名アーティストを紹介した入門記事でまとめています。あわせて読むと、枯葉がジャズの中でどう扱われてきたかがイメージしやすくなります。
枯葉のコード進行をやさしく解説|ii-V-Iの連続でできている

枯葉のコード進行は、B♭メジャーのii-V-IとGマイナーのii-V-iが交互に現れる形でできています。ジャズでよく演奏されるト短調(Gマイナー)で見ると、仕組みがとてもきれいに見えます。なお、原曲のキーはイ短調(Aマイナー)で、ジャズのセッションではト短調が標準です。歌の伴奏ではホ短調(Eマイナー)で呼ばれることもあるので、セッションでは「Gmで」「Emで」とキーを必ず伝えましょう。
Aセクション8小節のコード進行を度数で読む
ト短調でのAセクション(曲の最初のまとまり)は、一般的に次のコード進行で演奏されます。度数(キーの中で何番目の音を土台にしたコードか)を並べると、規則性が見えてきます。
| 小節 | コード | 役割 | ひとことで言うと |
|---|---|---|---|
| 1 | Cm7 | B♭メジャーのii | 「これから動くよ」の合図 |
| 2 | F7 | B♭メジャーのV | 緊張が高まる |
| 3 | B♭maj7 | B♭メジャーのI | 明るく落ち着く |
| 4 | E♭maj7 | つなぎ(B♭のIV/GmのVI) | 長調から短調への橋渡し |
| 5 | Am7(♭5) | Gマイナーのii | 少し陰りのある合図 |
| 6 | D7 | GマイナーのV | 短調へ強く引っ張る |
| 7〜8 | Gm(Gm6やGm7も) | Gマイナーのi | 切なく着地する |
表の「ii」「V」「I」は、キーの2番目・5番目・1番目の音を土台にしたコードという意味です。前半4小節は明るいB♭メジャー(変ロ長調)へ、後半4小節は切ないGマイナー(ト短調)へ着地しています。B♭メジャーとGマイナーは同じ調号(♭2つ)を持つ平行調なので、明るさと切なさを行き来しても不自然に聞こえないのです。
ルートが4度ずつ進む「循環」の気持ちよさ
表のコードのルートだけを並べると、C→F→B♭→E♭→A→D→Gとなります。どの音も、前の音から完全4度上(=完全5度下)に進んでいることがわかるでしょうか?
この動きは五度圏(12の音を5度ずつ並べた円)を一方向にぐるりと回る形で、クラシックの和声でも「5度下行」と呼ばれる、最も自然に聞こえる進み方のひとつです。枯葉が初めて聴いても懐かしく感じられるのは、このルートの動きが大きな理由です。
コードの基本的な仕組みに不安がある方は、ピアノコードの一覧表と覚え方の記事で、メジャー・マイナー・セブンスの作り方を先に確認しておくとスムーズです。
曲全体の形式はAABC|Aを覚えれば7割わかる
枯葉は全体で32小節、A(8小節)→A(8小節)→B(8小節)→C(8小節)のAABC形式で書かれています(資料によってはAABA’と書かれることもあります)。
- A・A:上の表のii-V-Iの組み合わせがそのまま2回繰り返されます。
- B:Aの前半と後半の順番が入れ替わり、マイナーのii-V-i(Am7(♭5)→D7→Gm)から始まってメジャーのii-V-I(Cm7→F7→B♭maj7→E♭maj7)へ進みます。
- C:マイナーのii-Vで始まったあと、ルートが半音ずつ下がる小節(Gm7→C7、Fm7→B♭7、E♭maj7→Am7(♭5)→D7→Gm)を通って終わります。最後の4小節は「ターンアラウンド」と呼ばれ、イントロにもそのまま使われます。
つまり、Aセクションの8小節を覚えてしまえば、曲の多くの部分が「見たことのある動き」になります。全部を一度に覚えようとせず、まずAセクションから攻略するのが近道です。
楽譜によって違う3か所|迷ったときの読み方
枯葉は楽譜(リードシート)によってコードの書き方が少しずつ違い、初心者が「どれが正しいの?」と迷いやすい曲です。よく違いが出るのは次の3か所です。
| 場所 | 楽譜による違い | まずはこう弾く |
|---|---|---|
| Aの7〜8小節目 | Gm/Gm6/Gm7/G7 | テーマはGm6、アドリブではG7と考えると次のCm7へ自然に流れる |
| Cセクションの「2拍ずつ動く」小節 | Gm7 C7/Fm7 B♭7 と細かく動く楽譜と、Gmのまま通す楽譜 | 慣れるまではGmのコードトーンで通してOK |
| Cセクション後半のE♭7 | E♭maj7と書く楽譜とE♭7と書く楽譜 | 曲中で1回しか出てこない場所。D7へ半音ずつ下がる音使いを試す |
7〜8小節目のGm6をアドリブではG7と捉えるのは、ジャズピアノの練習ブログでもよく勧められている考え方です。G7にすると、次のCm7に向かうドミナント(V7)として機能し、コードの色合いが豊かになります。
枯葉の弾き方①|左手はシェル・ヴォイシングから始める

ジャズピアノで枯葉を弾くとき、最初の壁になるのが左手です。おすすめは、コードの音を全部押さえずに「ルート+3度+7度」だけを弾くシェル・ヴォイシングから始める方法です。シェル(shell)は「貝殻」の意味で、コードの骨組みだけを残した押さえ方のことです。
シェル・ヴォイシングとは?3度と7度がコードの性格を決める
コードの響きを決めているのは、実は3度と7度の2音です。3度は「明るい(メジャー)か暗い(マイナー)か」を、7度は「落ち着く(maj7)か、次へ進みたがる(7)か」を決めています。逆に5度の音は省いても響きがあまり変わりません。
そこで左手は、ルートの上に3度と7度を乗せた3音だけを弾きます。音が少ないぶん指の負担が軽く、右手でメロディを弾く余裕も生まれます。
| コード | ルート+7度+3度の例 | ポイント |
|---|---|---|
| Cm7 | C・B♭・E♭ | 3度がE♭(短3度) |
| F7 | F・E♭・A | 7度が短7度のE♭ |
| B♭maj7 | B♭・A・D | 7度が長7度のA |
| E♭maj7 | E♭・D・G | B♭maj7と同じ形を平行移動 |
| Am7(♭5) | A・G・C | 5度(E♭)は省略してOK |
| D7 | D・C・F♯ | F♯がGへ向かう導音 |
| Gm6 | G・E・B♭ | 6度のEで切なさが増す |
表では、ルートの上に7度、さらに3度を重ねる並びにしています(ルート・3度・7度の並びでもかまいません)。どちらの並びでも、手の形がほとんど変わらないまま横にスライドしていくことに気づくはずです。クラシックで「全部の音を正確に押さえる」訓練を受けてきた方ほど、「音を省いていい」という発想に最初は抵抗があるかもしれません。でもジャズでは、省くことが上手さです。
ガイドトーンをつなぐと、和音が「流れる」
シェル・ヴォイシングに慣れたら、3度と7度の音の動き(ガイドトーン・ライン)に耳を向けてみましょう。
たとえばCm7の7度B♭は、次のF7では半音下のA(F7の3度)に移ります。Cm7の3度E♭は、そのままF7の7度として残ります。このように、枯葉では「片方の音は動かず、もう片方が半音か全音だけ下がる」というなめらかな動きが最後まで続きます。
手を大きく跳ばさずに弾けるので、左手が安定し、聴いている人にもコードの流れが自然に伝わります。ガイドトーンだけを片手で弾き、歌うようにつなげる練習は、地味ですが効果の大きい練習です。セッション向けの解説でも「ガイドトーンを歌うように追うと、コード進行が自然に浮かび上がる」と勧められています。
慣れてきたら|ルートを抜く「ルートレス」への入り口
シェルで1コーラス弾けるようになったら、次の段階は「ルートを弾かない」ヴォイシングです。ベーシストがいる場面ではルートはベースが担当するので、ピアノの左手は3度・7度に9度や13度を足した響き(ルートレス・ヴォイシング)に進めます。
たとえばCm7なら「E♭・G・B♭・D(3・5・7・9)」、F7なら「E♭・A・D(7・3・13)」のような形です。ビル・エヴァンスの左手がまさにこの響きで、後述する『Portrait in Jazz』の枯葉で聴くことができます。ただし、ひとりで弾くときはルートが無いと土台が消えてしまうので、まずはシェルで十分です。
枯葉の弾き方②|初心者でも仕上がる5つの練習ステップ

枯葉をジャズピアノで弾けるようになるには、いきなり両手で合わせず、「左手だけ→右手だけ→両手→リズム→アドリブ」と段階を分けるのが近道です。以下の5ステップを、1ステップずつ「止まらずに1コーラス弾ける」状態にしてから次へ進みましょう。
| ステップ | やること | 合格ライン |
|---|---|---|
| STEP1 | 左手でルートだけを1拍目に弾く | コード表を見ながら止まらず32小節 |
| STEP2 | 左手をシェル・ヴォイシングにする | ゆっくりのテンポで止まらず32小節 |
| STEP3 | 右手でメロディ、左手は全音符のシェル | メロディとコードが同時に途切れない |
| STEP4 | 左手のリズムを変える(2拍目・4拍目を意識) | メトロノームを2・4拍目で鳴らして崩れない |
| STEP5 | 右手でフェイク→アドリブに挑戦 | 1コーラスをスケールの音だけで埋められる |
STEP1〜2:左手だけでコード進行を体に入れる
最初の2ステップは右手を使いません。左手だけでコード進行を最後まで止まらずに弾けることが、枯葉攻略の土台です。メトロノームはゆっくりめに設定し、次のコードを1拍前に頭の中で言うようにすると、コードを見失いにくくなります。
コードを覚えるときは「Cm7・F7・B♭maj7・E♭maj7」と名前で暗記するより、「メジャーのii-V-I→つなぎ→マイナーのii-V-i」というブロックで捉えるのがおすすめです。ブロックで覚えておくと、他の曲で同じ流れが出てきたときにすぐ応用できます。
ここで、コードトーン(1・3・5・7の音)を「1-3-5-7-5-3-1」と上がって下がる練習も足しておくと、STEP5のアドリブで効いてきます。3度から始める「3-5-7-1-7-5-3」、5度から始める「5-7-1-3-1-7-5」のような転回形まで、どのコードでもどこからでも弾けるようになるのが理想です。曲が32小節と長いので、前半16小節・後半16小節に分けて練習してもかまいません。
STEP3〜4:メロディを乗せ、ジャズらしいリズムにする
メロディは、市販の枯葉の楽譜(ジャズ・スタンダード集など)で確認してください。STEP3では左手を全音符(1小節に1回)にして、右手のメロディに集中します。
メロディが安定したら、STEP4で左手のリズムを変えていきます。ジャズらしさを出すコツは、メトロノームを2拍目と4拍目で鳴らすことです。ジャズでは2拍目と4拍目にアクセントを感じるのが基本で、この感覚が身につくだけで、同じ音でもぐっとスウィングして聴こえます。ゆっくり弾くときも「ただ遅く弾く」のではなく、裏拍を意識してスウィング感を作る機会にしてください。スウィングのリズムそのものについては、スウィング・ジャズの特徴を解説した記事も参考になります。
セッションで困らない|イントロとエンディングの定番
1コーラス弾けるようになったら、曲の「入り方」と「終わり方」も決めておきましょう。セッションでは次の形が定番です。
- イントロ:曲の最後の4小節(Am7(♭5)→D7→Gm→Gm)をそのままイントロとして弾きます。これを「ターンアラウンドをイントロに使う」と言います。
- テンポ:♩=140〜180程度のミディアム・スウィングが標準です。バラードやボサノバ(Aセクションをラテンのリズムで弾く)にする編曲もあります。
- エンディング:最後の2小節を何度か繰り返しながら少しずつ遅くし(リタルダンド)、Gm(maj7)(G・B♭・D・F♯)で締める形が多く使われます。
- ソロの長さ:初めてのセッションなら、アドリブは1コーラス(32小節)で十分です。
イントロとエンディングを持っているだけで、「ちゃんと枯葉を弾ける人」に聞こえます。ひとりで練習するときも、イントロから入ってエンディングで終わる「通し」を習慣にしてみてください。
枯葉でアドリブに挑戦|使えるスケールと考え方

枯葉は、アドリブ(即興演奏)の最初の練習曲としても定番です。結論から言うと、Aセクションのほとんどは「Gナチュラルマイナー・スケール(=B♭メジャー・スケールと同じ音)」だけで成立し、D7のところだけF♯を使えば、まずは外れない音で即興ができます。
ひとつのスケールで大部分をカバーできる
Gナチュラルマイナー・スケールは「G・A・B♭・C・D・E♭・F」の7音です。先ほどの表のCm7からAm7(♭5)までのコードは、すべてこの7音の中の音だけでできています。転調がないので、1つのスケールを覚えれば、曲の大半でこのスケールが「使える音」になります。
例外はD7です。D7にはF♯が含まれるため、ここではFをF♯に変えたGハーモニックマイナー・スケール(G・A・B♭・C・D・E♭・F♯)を使います。F♯は次のGmのルートへ半音で解決するため、マイナーのii-V-iらしい「切なく着地する」感じが強調されます。
| コード | まず使う音 | 注意する音 |
|---|---|---|
| Cm7〜E♭maj7 | Gナチュラルマイナー(G A B♭ C D E♭ F) | 特になし。コードの3度・7度を狙うと安定 |
| Am7(♭5) | 同上 | B♭(♭2)はルートAとぶつかるので長く伸ばさない |
| D7 | Gハーモニックマイナー(FをF♯に) | Fを伸ばさない |
| Gm | Gナチュラルマイナー | Gm6ならEを使うとおしゃれ |
「スケールを走らせる」だけではメロディになりません。スケールの中でもコードトーン(1・3・5・7)を小節の頭で狙い、その間をスケールの残りの音でつなぐのがコツです。練習ブログでは「コードトーンだけでもアドリブは十分に聴ける音楽になる」と言われています。
「メロディを崩す」ところからアドリブを始める
スケールが分かっても、いきなり自由に弾くのは難しいものです。おすすめは、枯葉のメロディのリズムを少しずらしたり、音を1〜2個足したりする「フェイク」から始める方法です。メロディという手すりがあるので、迷子になりにくくなります。
慣れてきたら、各コードの3度か7度の音を小節の頭で狙ってみてください。前の章で練習したガイドトーンがここで生きてきます。ガイドトーンを線としてつなぎ、その間をスケールの音で埋めていくと、コード進行に沿った「歌うアドリブ」に近づきます。
中級者の使い方|枯葉は「新しいことを試す実験室」
枯葉を何十回も弾いて「飽きた」と感じたら、それは次の段階に進むサインです。中級者向けの解説では、枯葉の価値を「転調がなくコードが規則的だからこそ、新しい奏法を試すのに集中できる曲」と位置づけています。難しい曲で新しいことに挑むと集中が分散しますが、枯葉なら実験そのものに集中できるわけです。
具体的には、次のような「縛り」を1つ決めて1コーラス弾いてみてください。
- D7をオルタードで弾く:D7の小節でDオルタード・スケール(D・E♭・F・G♭・A♭・B♭・C)を使い、♭9・♯9・♭13の緊張感を出す。
- ii-Vのフレーズを2つだけ用意し、繰り返す:メジャー用(Cm7→F7)とマイナー用(Am7(♭5)→D7)のフレーズを1つずつ作り、曲中の該当箇所すべてで使う。メジャーとマイナーの響きの違いが耳で分かるようになります。
- コードトーンとテンションだけで1コーラス:スケールを封印し、1・3・5・7に9度を足した音だけでメロディを作る。
- Gm6をG7に読み替える:A・Bセクションの8小節目をG7として、次のCm7へ向かうドミナントの動きを作る。
どれも「枯葉が弾ける」から「枯葉で自分の音が出せる」へ進むための練習です。ジャズの即興がどんな理論から広がってきたのかを知りたい方は、モードジャズの理論と名盤を解説した記事も読んでみてください。コード進行中心のアドリブとの違いがわかると、枯葉の練習の位置づけがはっきりします。
枯葉の名演を聴き比べ|ジャズピアノの聴きどころ

枯葉は数えきれないほど録音されていますが、ジャズピアノを弾く人ならまずキャノンボール・アダレイ『Somethin’ Else』とビル・エヴァンス『Portrait in Jazz』の2つを聴き比べるのがおすすめです。同じ曲でも、アレンジやピアノの役割がまったく違うことに驚くはずです。
| アルバム(リーダー) | 録音 | ピアノ | 聴きどころ | おすすめ度 |
|---|---|---|---|---|
| Concert by the Sea(エロール・ガーナー) | 1955年9月/ライブ | エロール・ガーナー | ピアノ・トリオで弾く枯葉の華やかさ | 入門 |
| Somethin’ Else(キャノンボール・アダレイ) | 1958年3月/Blue Note | ハンク・ジョーンズ | マイルスのテーマとハンクのコンピング | 必聴 |
| Portrait in Jazz(ビル・エヴァンス) | 1959年12月/Riverside | ビル・エヴァンス | ベースとのインタープレイ、ルートレスの左手 | 必聴 |
| Wynton Kelly!(ウィントン・ケリー) | 1961年 | ウィントン・ケリー | ブルージーでスウィンギー、フレーズを真似しやすい | 初心者向け |
| Scenery(福居良) | 1976年7月/Trio Records | 福居良 | 日本人ピアニストによるトリオ演奏 | 入門 |
| Still Live(キース・ジャレット) | 1986年7月/ECM | キース・ジャレット | 10分を超える長尺のトリオ演奏 | 中級以上 |
| Revelations(マッコイ・タイナー) | 1988年/ライブ | マッコイ・タイナー | ソロピアノ、神秘的なイントロと熱量 | 中級以上 |
キャノンボール・アダレイ『Somethin’ Else』(1958年)
『Somethin’ Else』は、アルト・サックス奏者キャノンボール・アダレイ名義でBlue Noteに残された唯一のアルバムで、1958年3月9日にルディ・ヴァン・ゲルダーのスタジオで録音されました。メンバーはマイルス・デイヴィス(トランペット)、ハンク・ジョーンズ(ピアノ)、サム・ジョーンズ(ベース)、アート・ブレイキー(ドラムス)です。
1曲目の「枯葉」は約11分の大作で、ライナーノーツによれば選曲の多くをマイルスが担い、演奏でも主導的な役割を果たしています。マイルス本人は、この枯葉のアレンジの着想をピアニストのアーマッド・ジャマルから得たと語っています。
ピアノを弾く人は、ハンク・ジョーンズが管楽器のソロの後ろでどんなタイミング・どんな音域でコードを入れているかに注目して聴いてみてください。伴奏(コンピング)のお手本として、何度聴いても発見があります。
ビル・エヴァンス『Portrait in Jazz』(1959年)
『Portrait in Jazz』は、ビル・エヴァンス、スコット・ラファロ(ベース)、ポール・モチアン(ドラムス)のトリオが1959年12月28日に録音し、Riversideからリリースしたアルバムです。ここでの枯葉は、ベースがただ伴奏するのではなく、ピアノと対等に会話するような「インタープレイ」が聴きどころです。冒頭のイントロは「エヴァンス節」として有名で、完全採譜の楽譜も出回っています。
ちなみにオリジナルLPはモノラル盤とステレオ盤で、収録された枯葉のテイクが異なります。のちのCDでは両方のテイクが収録されたため、聴き比べてみるのも面白いでしょう。
エヴァンスの左手は、ルートを弾かずに3度・7度・9度などで和音を作る響きが特徴的で、前の章で触れたルートレス・ヴォイシングの「答え合わせ」になります。
初心者がコピーするなら|ウィントン・ケリー『Wynton Kelly!』(1961年)
「エヴァンスは難しすぎて真似できない」と感じたら、ウィントン・ケリーの枯葉を聴いてみてください。ブルージーでスウィンギーな持ち味で、テンポ感もフレーズの長さも、初心者がコピーするのにちょうどいい録音です。右手のフレーズを2小節だけ耳で取って、自分のアドリブに混ぜるところから始めると、「名演を聴く」が「練習」に変わります。
ほかにも聴いておきたい枯葉
エロール・ガーナーの『Concert by the Sea』は、1955年にカリフォルニア州カーメルで録音されたライブ盤で、ピアノ・トリオならではの華やかな枯葉が聴けます。キース・ジャレットの『Still Live』は、1986年7月にミュンヘンで録音されたスタンダーズ・トリオのライブで、10分を超える長い演奏の中でピアノが「歌っている」ように聞こえる即興が味わえます。マッコイ・タイナーの『Revelations』はソロピアノ版で、神秘的なイントロから情熱的なフレーズへなだれ込む構成が印象的です。
ピアノ以外では、サラ・ヴォーンの『Crazy and Mixed-Up』(1982年)がおすすめです。テーマを歌わず全編スキャットで通す大胆な枯葉で、ジョー・パスのギターが伴奏しています。「メロディを崩す」とはどういうことかが、声で体感できる1曲です。
枯葉以外のスタンダードも聴いてみたい方は、ジャズピアノの名曲・有名な曲15選から次の1曲を探してみてください。
枯葉のジャズピアノでよくある質問
枯葉をジャズピアノで弾こうとしたときに迷いやすいポイントを、Q&A形式でまとめました。
Q. 枯葉はどのキーで練習すればいいですか?
ジャズのセッションではト短調(Gマイナー)で演奏されることが多いため、まずはト短調で覚えるのがおすすめです。歌の伴奏ではホ短調(Eマイナー)など歌い手に合わせてキーが変わることもありますが、度数(ii-V-I)で理解していれば、キーが変わっても同じ考え方で対応できます。セッションで枯葉を呼ぶときは、「枯葉、Gmで」とキーまで伝えるのがマナーです。
Q. 枯葉は本当に簡単な曲ですか?
「音を外さずに1コーラス弾く」という意味では、ジャズ・スタンダードの中で最も易しい部類です。転調がなく、ii-V-Iの繰り返しだけでできているからです。一方で、知恵袋の回答にもあったように、誰もが知っている曲だからこそ、平凡に弾くと埋もれるのも事実です。「簡単だから最初に弾く」のではなく、「簡単だからこそ、自分の音を試せる」曲だと考えると、長く付き合える1曲になります。
Q. クラシックしか弾いたことがなくても、枯葉は弾けますか?
弾けます。むしろ読譜や指の基礎があるぶん、STEP3(メロディを乗せる)までは早く進めることが多いでしょう。クラシック経験者がつまずきやすいのは、コードネームから自分で和音を作る点と、2拍目・4拍目に重心を置くリズム感です。コードを「楽譜に書いてある音」ではなく「自分で選ぶ音」として捉え直すことが、最初のハードルになります。
Q. 楽譜はどんなものを選べばいいですか?
枯葉の楽譜は、大きく3種類あります。
| 種類 | 内容 | 向いている人 |
|---|---|---|
| リードシート | メロディとコードネームだけ(ジャズ・スタンダード集、Real Bookなど) | この記事の練習ステップで進める人 |
| ピアノソロ・アレンジ譜 | 左手まですべて書いてある(初中級〜中上級のレベル別、1曲数百円でダウンロード可) | まず完成形を弾いて雰囲気をつかみたい人 |
| 弾き語り譜 | 英語詞つきの伴奏譜 | 歌の伴奏をしたい人 |
この記事の練習ステップで進めるなら、リードシート形式がおすすめです。自分でヴォイシングを選ぶ練習になり、他のスタンダードにも応用が利きます。アレンジ譜は「答え」を見る教材として、リードシートと併用すると効果的です。
まとめ|枯葉はジャズピアノの「型」が詰まった1曲
この記事では、枯葉をジャズピアノで弾くためのコード進行の仕組み、左手の押さえ方、練習ステップ、アドリブの考え方、名演の聴きどころを紹介しました。冒頭の3つの疑問に答えると、次のとおりです。
- なぜ枯葉が「最初の1曲」なのか:メジャーのii-V-Iとマイナーのii-V-iが交互に現れ、転調がなく、ルートが4度ずつ規則的に進むから。
- 左手と右手は何をすればいいのか:左手はルート+3度+7度のシェル・ヴォイシング、右手はメロディ→フェイク→アドリブの順に段階を踏む。
- 「簡単な曲」なのになぜ難しいのか:音を外さず弾くのは易しいが、誰もが知る曲だからこそ「自分の音」が問われるから。
枯葉で身につけたii-V-Iの型・シェル・ヴォイシング・ガイドトーンは、ほかのジャズ・スタンダードにそのまま持ち越せます。まずはAセクションの8小節を、左手だけで止まらずに弾くところから始めてみてください。
枯葉を1コーラス通せるようになったら、次はジャズピアノの名曲・有名な曲15選から2曲目を選んでみましょう。スウィングのリズムをもっと深めたい方はスウィング・ジャズの特徴を解説した記事もあわせてどうぞ。