※本記事は一部PRを含みます
ドビュッシーの「アラベスク第1番」の難易度は、全音ピアノピースでC(中級)、ヘンレ社の9段階で4(中級)です。水がさらさらと流れるような冒頭のアルペジオを聴いて、「いつかこの曲を弾けるようになりたい」と思った方も多いのではないでしょうか。
ところが実際に楽譜を開いてみると、右手と左手で三連符を受け渡す冒頭、右手が3つ・左手が2つで刻む「2対3」のリズム、ささやくようなピアニッシモなど、聴いた印象とは違う「仕掛け」が次々に出てきます。Yahoo!知恵袋には「楽譜を見ただけで嫌になるくらい難しそうなのに、本当に中級なの?」という質問が投稿され、「弾ける」と「美しく弾ける」はまったく別物という経験者の回答が集まっていました。
- 「ドビュッシーのアラベスクは、ピアノを習って何年目くらいで弾けるの?」
- 「アラベスク第1番の、具体的にどこが難しいの?」
- 「第1番と第2番、亜麻色の髪の乙女や月の光と比べて、どれから弾けばいい?」
この記事は、ソナチネやブルグミュラーを弾いている方、大人になってからピアノを再開して「流れるような曲を1曲仕上げたい」と考えている方に向けて書いています。国内外3つの難易度指標を確かめたうえで、年数ではなく「今の進度」で判断できるチェック表、小節番号つきの難所と対策、挫折しないための練習ステップを順番に解説します。
アラベスク第1番の難易度は?全音C・ヘンレ4・海外では「上級」の評価も
ドビュッシーのアラベスク第1番の難易度は、日本の指標では「中級」、海外の検定では「上級」に位置づけられています。全音ピアノピースでは6段階中のC(中級)、ドイツのヘンレ社(G. Henle Verlag)の9段階では4(中級)、一方でカナダ王立音楽院(RCM)の2022年版シラバスでは最上位のLevel 10に掲載されています。数字がばらつくのは、「音を並べる難しさ」と「曲として仕上げる難しさ」のどちらを測っているかが違うからです。
| 指標 | アラベスク第1番の評価 | 読み方 |
|---|---|---|
| 全音ピアノピース(日本) | C(6段階中3番目) | 「中級」。月の光・亜麻色の髪の乙女・夢想も同じC |
| ヘンレ社(ドイツ) | 4(9段階中) | 1〜3がやさしい、4〜6が中級。中級の入り口 |
| RCM 2022年版シラバス(カナダ) | Level 10 | Level 9〜10はAdvanced Certificateの範囲=上級 |
出典:全音ピアノピース公式サイト「難易度から探す」、G. Henle Verlag商品ページ(HN 380)、RCM Piano Syllabus 2022 Edition(2026年10月時点)
全音ピアノピースではNo.197「2つのアラベスク」でC(中級)
全音楽譜出版社の全音ピアノピースでは、アラベスクは第1番と第2番をあわせた「2つのアラベスク」(No.197)として出版されており、難易度はA〜Fの6段階のうちC(中級)です。同じCには、ドビュッシーの「月の光」(No.196)、「亜麻色の髪の乙女」(No.202)、「夢想」(No.200)が並んでいます。全音の基準でいえば、アラベスク第1番はドビュッシー入門の定番グループの1曲です。
ただし、知恵袋の回答者が指摘していたように、全音の「C」は「普通にピアノを習った人のゴール」と言えるくらい高いレベルでもあります。上にはD・E・Fが控えているので相対的には「中級」ですが、ブルグミュラーやソナチネを弾いている段階から見れば、十分に「憧れの曲」です。
ドイツ・ヘンレ社の9段階では「4」、月の光は「5」
原典版(作曲者が書いた楽譜にできるだけ忠実な版)で知られるヘンレ社は、ピアノ曲の難易度を1〜9の9段階で示しています。1〜3がやさしい、4〜6が中級、7〜9が難しいという区分で、「2つのアラベスク」(HN 380)は4。中級の入り口にあたる評価です。参考までに、同じヘンレの基準でドビュッシーの「月の光」は5、ベートーヴェンの「月光ソナタ」第1楽章は4、「悲愴ソナタ」は7、「熱情ソナタ」は9とされています。
海外の検定(RCM)ではLevel 10=上級。なぜ評価が分かれるのか
カナダ王立音楽院(RCM)の2022年版ピアノシラバスでは、「2つのアラベスク」の第1番・第2番ともにLevel 10のレパートリーリストに掲載されています。RCMではLevel 9〜10が上級資格の範囲なので、海外の検定基準では「上級曲」の扱いです。
ヘンレの4とRCMのLevel 10を同じ物差しで比べることはできません。ただ、この2つの数字のあいだにこそ、アラベスク第1番の本質があります。つまり、譜読みをして音を並べるだけなら中級の入り口、旋律を歌わせ、伴奏を小さく保ち、ペダルで響きを濁らせずに仕上げるなら上級の課題、ということです。
| 段階 | 難しさの感じ方 | 主な課題 |
|---|---|---|
| 譜読み | 中くらい | ♯4つのホ長調、三連符、臨時記号 |
| 両手合わせ | 急に難しくなる | 6小節目からの2対3、左右の独立 |
| テンポを上げる | 難しい | アルペジオの粒ぞろい、跳躍、拍の維持 |
| 仕上げ | さらに難しい | 弱音の芯、声部のバランス、ペダル、ルバート |
\ドビュッシーのアラベスクを弾けるようになりたい方へ/
アラベスク第1番はピアノ何年目で弾ける?年数より進度で判断

「ドビュッシーのアラベスクはピアノ何年目で弾けるのか」は、練習してきた年数ではなく、今どの教材まで進んでいるかで判断するのが確実です。目安はブルグミュラー25の練習曲を終え、ソナチネアルバムやツェルニー30番に取り組んでいる頃。子どもなら発表会の曲として選ばれることが多い時期、大人なら再開して基礎を取り戻した後の「最初の目標曲」として選びやすいレベルです。
目安は「ソナチネ〜ツェルニー30番」の頃
アラベスク第1番は、指が速く回ることより、三連符を均一な粒で途切れさせずに流す力が問われます。ソナチネでアルベルティ・バス(ドソミソのような分散和音の伴奏)や音階を弾き込んできた人なら、アラベスク第1番の譜読みは比較的スムーズに進むはずです。一般的には「ツェルニー30番を終えた頃」が一つの目安とされますが、ツェルニー30番と並行して取り組む人も多く、「終了していないと弾けない」というものではありません。
知恵袋には「未就学児でピアノ歴1年半の娘に弾いてもらいたい」「小4の息子の次の曲に」といった相談も見られます。進度の速い小学生が発表会で弾くことはありますが、それは年齢に対してかなり進んでいるケースです。「○年目」「○年生」より「ソナチネに入ったか」を基準にしましょう。
挑戦前の進度チェック表(4つ以上で原曲OK)
次の6項目のうち、4つ以上当てはまれば原曲の楽譜で挑戦してOKです。2〜3つなら時間をかけるつもりで、1つ以下ならやさしく編曲された楽譜から始めるのがおすすめです。
| チェック項目 | アラベスク第1番のどこで必要? |
|---|---|
| シャープ4つの調(ホ長調)の譜読みができる | 曲全体(ホ長調) |
| 三連符を均等な長さで弾ける | 冒頭から続く三連符のアルペジオ |
| 右手と左手で、別々のリズムを同時に弾いたことがある | 6小節目から出てくる2対3 |
| アルペジオを両手で受け渡して弾ける | 冒頭と再現部(71小節〜) |
| 伴奏を小さく、旋律を大きく弾き分けられる | 19小節からの歌うフレーズ、中間部 |
| ブルグミュラー25を終え、ソナチネに入っている | 全体の譜読みの速さ |
「全部できていないと弾いてはいけない」という意味ではありません。2対3や弱音のコントロールは、アラベスクを練習しながら身につけられる技術です。ただし、ほとんどの項目が初めての場合は、毎日1小節目から通すより、2対3・アルペジオ・弱音を切り離して練習するほうが結果的に早く仕上がります。
大人の再開組こそ「リベンジ曲」に向いている
アラベスク第1番は、子どもの頃に弾いたけれど納得いかなかった、という大人の「リベンジ曲」としても人気です。noteで練習記録を公開している大人の学習者は、小学生の頃に研究会でアラベスクを弾いて酷評された経験から、レッスンを再開して最初の課題にこの曲を選んだと書いていました。先生の第一声は「ベートーヴェンみたいね」。最初の6音のバランスだけで何度も弾き直しになり、「小学生の自分に弾ける曲ではなかった」と振り返っています。
ドビュッシーの音楽は、音色の変化や「間」の感覚が鍵になります。この詩的な表現は、人生経験を積んだ大人のほうが共感しやすい面があります。指が速く動く小学生より、ゆっくり弾いても「歌」を作れる大人のほうが、アラベスクらしい演奏に近づけることも多いのです。再開組の方は、ぜひ最初の目標曲の候補に入れてみてください。大人の独学の進め方は大人のピアノ独学は何から始める?60日で1曲弾ける練習の順番でも解説しています。
ドビュッシー「アラベスク」とは?20代の作品と曲名の意味

ドビュッシーの「2つのアラベスク」は、作曲者が20代後半だった1888〜1891年頃に書かれた初期のピアノ曲です。1891年にパリのデュラン社から出版されました。後年の「月の光」や前奏曲集に比べると、ロマン派の香りをまだ残した、親しみやすい作品です。第1番はホ長調・4分の4拍子・全107小節、演奏時間は約3分半〜4分です。
1891年出版、初期のドビュッシーの代表作
ヘンレ社の解説によると、2つのアラベスクは出版当初はあまり注目されず、広く人気を集めるようになったのは1906年以降だったそうです。今では、ドビュッシーのピアノ曲の中でも特に親しまれている作品の一つになっています。
第1番はホ長調で、テンポ指示は「アンダンティーノ・コン・モート(少し動きをもって、やや歩くような速さで)」。第2番はト長調で「アレグレット・スケルツァンド(やや速く、おどけて)」と、2曲は対照的な性格を持っています。
「アラベスク」は唐草模様、そしてバッハ
アラベスクとは、植物のつるが曲線を描いて絡み合うような唐草模様(アラビア風の装飾模様)のことです。ドビュッシーは自然の曲線としてのアラベスクに惹かれていたといわれ、同時代のアール・ヌーヴォーの装飾美術とも響き合う作品だと評されています。またドビュッシーは、アラベスクという言葉をバッハの音楽とも結びつけて語っていました。旋律の線が絡み合って模様を描く、という発想です。
感情や情景を音楽にすることはよくありますが、「模様」を音楽にするというのは珍しい発想ではないでしょうか。この背景を知ると、冒頭で右手と左手が受け渡していくアルペジオが、まさに「つるが伸びていく線」のように聴こえてきます。ある演奏者は「一音一音が模様になり、最後に大きな幾何学模様が完成するイメージで弾いた」と書いていました。弾き手ごとに違う模様ができあがる、と考えると練習も楽しくなります。
アラベスク第1番の構成|107小節の「曲の地図」を持とう
アラベスク第1番は、A(1〜38小節・ホ長調)→B(39〜70小節・イ長調)→A’(71〜88小節)→コーダ(89〜107小節)という三部形式+コーダでできています。練習を始める前に、楽譜に「A」「B」「A’」「コーダ」と大きく書き込んでおくだけでも、今どこを弾いているのか、どこで雰囲気を変えるのかが明確になります。
- A(1〜38小節):三連符のアルペジオを両手で受け渡す冒頭。6小節目から2対3が始まり、17小節目で冒頭の動機が戻り、19小節からは長い歌うフレーズになります。
- B(39〜70小節):イ長調に転じ、左手のアルペジオが消えて4つの声部が対話するような書法に。Tempo rubato(テンポを自由に揺らす)の指示があり、43小節目の2拍目にはsfz(突然強く)が置かれています。65〜68小節の和音は、西洋離れした独特の響きがする、この曲の隠れた聴きどころです。
- A’(71〜88小節):冒頭の再現。77小節からpoco a poco cresc.、80小節前後でstringendo(だんだん速く)と、曲中で数少ない高まりを見せます。
- コーダ(89〜107小節):97小節で旋律が左手から右手へバトンタッチされ、105小節からは角を削ぎ落とした音で静かに閉じます。
とくにA’は冒頭とほとんど同じ音型なので、冒頭をしっかり仕上げておけば、曲のかなりの部分を一度に攻略できることになります。
映画やテレビでも使われてきた名曲
アラベスク第1番は、映像作品やCM、テレビ番組のBGMとして繰り返し使われてきました。タイトルは知らなくても「あ、この曲」と感じる人が多いのはそのためです。発表会で弾くと、聴く側にもなじみがあるぶん拍手をもらいやすい反面、ちょっとしたミスも目立ちやすい曲でもあります。
アラベスク第1番の難しいポイント|小節番号でわかる5つの難所と対策

アラベスク第1番の難しいポイントは、冒頭のアルペジオの受け渡し、6小節目からの「2対3」、親指のアクセント、弱音とペダル、中間部のテンポの揺らし方の5つです。どれも速く弾くための技術というより、流れを途切れさせず、響きを濁らせないための技術です。
| 難所 | どこに出てくる? | 何が難しい? | 対策のポイント |
|---|---|---|---|
| アルペジオの受け渡し | 1〜5小節、71小節〜 | 右手と左手の境目で音の粒がそろわない | 両手を1本の線として聴く |
| 2対3のリズム | 6小節〜、主部の随所 | 右手3つと左手2つを同時に弾く | 1拍を6分割して理解→机→1音→原曲 |
| 親指のアクセント | アルペジオ全般、27小節 | 親指が入るたびに音が飛び出す | 録音して周期的なアクセントを確認 |
| 弱音とペダル | 6小節〜のpp、曲全体 | 小さくすると音が抜ける、ペダルで濁る | 鍵盤との接触を保つ、ペダルなしで練習 |
| テンポの揺らし | 39〜70小節(中間部) | 揺らしすぎて拍を見失う | 戻る場所を決めてから揺らす |
難所1:冒頭のアルペジオを両手で受け渡す(1〜5小節)
アラベスク第1番の冒頭は、三連符のアルペジオが右手から左手、左手から右手へと受け渡されながら下りていきます。両手の境目で音量や音の粒が変わると、流れが「ガタン」と途切れて聞こえます。最初は両手を1本の線として、メトロノームを使って同じ強さでつなげる練習をしましょう。
ここで大切なのは、指を一音ずつ高く上げないことです。確実に弾こうとするほど手や前腕が固まり、音型の途中で引っかかります。最初から和音を弾くときの手の形を作り、指だけを動かすイメージで、手首をやわらかく横に移動させます。黒鍵は細いので、指を少し寝かせたほうが安定します。知恵袋の経験者の多くが「この曲は片手ずつさらうと曲にならないので、最初から両手で合わせたほうがいい」と答えていたのも、旋律が左右でつながっているからです。
難所2:右手3つ・左手2つの「2対3」(6小節〜)
アラベスク第1番では、6小節目から右手が三連符、左手が8分音符という2対3のリズム(ポリリズム=異なるリズムを同時に弾くこと)が何度も出てきます。知恵袋のベストアンサーでも「クロスリズム(左2:右3)があるので、弾けるようになるまで左右を合わせるのに苦労した」とあり、この曲の最初の壁になるのはほぼ間違いなくここです。
わかりやすいのは、1拍を6等分して考える方法です。1拍を「1・2・3・4・5・6」と細かく区切ると、右手の三連符は1・3・5、左手の8分音符は1・4で鳴ります。鳴る順番を書き出すと「両手 → 右手 → 左手 → 右手」の4回。ここで注意したいのは、4回の間隔は等間隔ではなく「2・1・1・2」だということです。順番だけ覚えて4つを均等に並べると、2対3とは別のリズムになってしまいます。
練習の順番は「机 → 1音 → 簡単な音型 → 原曲」がおすすめです。
- 机や膝を叩く:右手で3回、左手で2回を同じ1拍に入れます。鍵盤を考えなくていいので、どこで鳴るかだけに集中できます。「右2・左3」の逆も練習すると左右の独立が進みます。
- 両手とも1音だけで弾く:鍵盤の上で発音位置を確認します。
- 左手を弾きながら右手の音名を歌う:いきなり両手にすると、リズムに集中しすぎて変なところにアクセントがつく癖がつきます。左手だけ弾きながら右手を歌うと、自然な流れのまま合わせられます。
- 原曲の6〜7小節に戻る:原曲の半分くらいのテンポで、ペダルを外して合わせます。
知恵袋のベストアンサー回答者は「考えながら合わせようとしてドツボにはまった」「左右それぞれ弾けるようになったら、何も考えずに合わせるとよい」とも書いていました。6分割は「理解するための道具」であって、最終的には右手は右手の流れ、左手は左手の流れを保ったまま、数えずに流せる状態を目指します。
難所3:親指が飛び出す「でこぼこ」のアルペジオ(27小節の変え指)
三連符のアルペジオで意外に苦労するのが、どの指でも同じ音の強さで弾くことです。親指は力が入りやすく、薬指は力が入りにくいため、意識しないと強弱がでこぼこになります。録音したときに一定間隔でアクセントが聞こえるなら、親指の打鍵を疑ってみてください。
具体的な工夫として、ある演奏者は27小節目の全音符を人差し指で弾いてから親指に変え指する方法を紹介しています。親指で弾くと力が入って音が強くなりやすいからです。また、34〜36小節で音階的に上がっていく部分は、8分音符と4分音符を同時に打鍵して音がずれないように、35小節からの左手伴奏に付いたレガートとスタッカートの両方の記号は「短く切る」より「強調する」イメージで弾くとまとまります。
アルペジオを一度和音にまとめて押さえてみるのも有効です。「どの和音を分散しているのか」が見え、次のポジションへの移動が整理しやすくなります。
難所4:弱音とペダル|ペダルを外すと「本当の実力」が見える
6小節目からはピアニッシモ(pp)で、ささやくように小さな音で弾く指示があります。弱い音を出そうとして鍵盤の表面をそっと触るだけになると、音が鳴らなかったり、旋律まで消えてしまったりします。必要なのは「力を抜いて何もしない」ことではなく、鍵盤との接触を保ったまま打鍵の速さをコントロールすること。小さい音でも芯を残し、その中でさらに旋律と伴奏の差を作ります。
ペダルはもっと注意が必要です。ドビュッシーだから響きを豊かにしたい、とつい踏み続けたくなりますが、和声が変わっているのに踏んだままだと前の音と次の音が混ざります。さらに厄介なのは、ペダルを踏むと音がつながるので、2対3が崩れていても「きれいに弾けている」ように錯覚してしまうことです。練習の初期はペダルを外し、リズム・指のつながり・旋律と伴奏のバランスを確認してから、必要な響きを足していきましょう。
中間部ではペダルの「ブレンド効果」(複数の和音をあえて混ぜて色を作る)を試す余地もあります。ただし「1拍ごとに踏み替えれば正解」という機械的なルールはなく、グランドピアノと電子ピアノでも響きの残り方が違います。耳で濁りを判断するのが基本です。
難所5:中間部のテンポの揺らし方(39〜70小節)
中間部ではイ長調に転じ、左手の流れるようなアルペジオがなくなって、歌うような旋律が現れます。ここはTempo rubatoの指示どおりテンポを揺らして表情をつけたい部分ですが、揺らしすぎると拍が迷子になり、曲がまとまらなくなります。「どこで遅くして、どこで元のテンポに戻るか」を楽譜に書き込んでから揺らすと、自然な表情になります。
43小節目の2拍目に置かれたsfz(スフォルツァンド)は、ここだけ際立たせてすぐにデクレッシェンドします。テヌートは少しもったいぶるくらいで構いません。65〜68小節の和音は、重厚なのに西洋とは違う装飾的な響きがする、この曲の隠れた名場面です。1和音ずつゆっくり弾いて、どんな響きなのか確かめてみてください。中間部の終わりでディミヌエンド・リタルダンドして再現部へ戻るときは、遅くした後に次のテンポが見えなくならないよう、基準の拍を頭の中に残しておきましょう。
アラベスク第1番と第2番はどっちが難しい?ドビュッシー入門曲と比較

アラベスク第1番と第2番は、求められる技術の種類が違うだけで、難易度はほぼ同じです。同じ全音Cのドビュッシー入門曲「亜麻色の髪の乙女」「月の光」と比べると、アラベスク第1番は「指を動かす」要素が多く、亜麻色の髪の乙女は「響きを作る」要素が多い曲。月の光はその両方を求められます。
第1番と第2番の違い|2対3が苦手なら第2番から
第2番はト長調で、「アレグレット・スケルツァンド(やや速く、おどけて)」の指示どおり軽快でリズミカルな曲です。第1番の優雅な雰囲気とは対照的に、素早いパッセージ、スタッカート、鮮やかな転調が特徴です。
- 第1番の難しさ:2対3のポリリズム、流れるようなレガート、繊細な音色のコントロール
- 第2番の難しさ:指の速い動き、軽快なタッチ、リズムの正確さ
指の速さに自信がない人には第1番のほうが取り組みやすく、2対3のリズムがどうしても苦手な人は第2番から入る選択肢もあります。一般的には同程度の難易度と見なされることが多く、両方を弾き比べてみるのがいちばん確実です。
ブルグミュラーの「アラベスク」とはまったく別の曲
ピアノ学習者が「アラベスク」と聞いて最初に思い浮かべるのは、ブルグミュラー「25の練習曲」の第2番かもしれません。名前は同じですが、ドビュッシーのアラベスクとはまったく別の作品で、難易度もずっとやさしい初級曲です。
| ドビュッシー:アラベスク第1番 | ブルグミュラー:アラベスク Op.100-2 | |
|---|---|---|
| 時代・様式 | 印象主義(近代) | ロマン派 |
| 難易度 | 中級後半〜上級初期 | 初級(ピアノ1〜2年目) |
| 雰囲気 | 流麗・優美・幻想的 | 快活・エネルギッシュ |
| 主な技術課題 | 2対3、ペダル、声部バランス | 指の敏捷性、均一なタッチ、スタッカート |
ブルグミュラーのアラベスクを弾けたからといって、すぐにドビュッシーのアラベスクに進めるわけではない点に注意しましょう。
亜麻色の髪の乙女・月の光と比べると
ヘンレの難易度では、アラベスク第1番が4、月の光が5。多くのピアノ指導者は、アラベスク第1番や「夢想」でドビュッシーのスタイルに慣れてから「月の光」へ進むことを勧めています。月の光は極めて繊細なpppのコントロール、中間部のアルペジオの粒ぞろい、楽譜に書ききれないルバートの感覚と、アラベスクより一段上の成熟が求められるからです。
一方、海外の掲示板でも「アラベスク第1番と月の光はどちらが難しいか」はよく議論されるテーマで、2対3が苦手な人はアラベスクのほうを難しく感じるという意見も少なくありません。難易度表は目安にとどめて、「自分はどの技術で止まりやすいか」で選ぶのが現実的です。
ソナチネで指を動かす曲に慣れている人はアラベスクから、ゆっくりした曲で音色を磨きたい人は亜麻色の髪の乙女から入ると、無理なくドビュッシーの世界に入れます。月の光の難しさはドビュッシー「月の光」の難易度と弾き方のコツで詳しく解説しています。
大人・初心者がアラベスク第1番を弾くなら|挫折しない練習ステップ6

大人やブランクのある方がアラベスク第1番を弾くなら、2対3と冒頭のアルペジオを最初に攻略し、曲を4つの区分に分けて練習するのが近道です。曲の最初から順番に弾き進めるより、難所を先に片づけ、冒頭以外の場所からも弾き始められるようにしておくほうが、途中で挫折しにくくなります。
ステップ1:2対3を「机→1音→音型→原曲」で切り離して練習する
難所2で紹介した順番です。原曲の音で練習を始めると、音程・運指・鍵盤の位置・強弱まで同時に考えることになり、何が原因で失敗しているのかわからなくなります。リズムだけを先に体に入れてから鍵盤に移ると、間違った動きを何十回も反復せずに済みます。
ステップ2:冒頭のアルペジオをメトロノームで均一に
1〜5小節の三連符を、メトロノームに合わせてゆっくり弾きます。両手の境目で音が大きくなったり小さくなったりしないか、親指だけ飛び出していないかを耳でよく確認しましょう。メトロノームは細かい音を一つずつ追わせるためではなく、基本の拍を一定に保つために使います。
ステップ3:曲を4つの区分に分けて、難所の前後をつなぐ
1〜38小節・39〜70小節・71〜88小節・89〜107小節の4つに分け、それぞれをさらに4〜8小節の単位に区切ります。難所が弾けるようになったら、難所だけで終わらず、「前の2小節+難所+次の2小節」のように接続練習をしましょう。17〜18小節のように素材が戻ってくる境目は、16〜19小節とまたいで練習すると流れが自然になります。
ステップ4:旋律だけ→伴奏だけ→極端な差をつけて合わせる
この曲では旋律・内声・伴奏が同時に存在します。全部を同じ強さで弾くと、音は合っていても平面的に聞こえます。まず旋律だけを取り出して鼻歌で歌い、どこへ向かうフレーズなのかをつかみます。次に伴奏だけをかなり弱く弾き、旋律をはっきり、伴奏を極端に弱くした状態で合わせてから、自然なバランスに戻すと、手の役割が整理しやすくなります。
ステップ5:ペダルは指でつなげてから
アルペジオの多い曲ほど、ペダルに頼るとごまかしがききやすくなります。指だけでなめらかに弾けるようになってからペダルを加えると、濁りのない響きになります。和音が変わっても前の音が残っていないか、録音で確認しましょう。
ステップ6:通して録音し、冒頭以外からも弾き始める
最後に、曲全体を通して録音してみましょう。4分間の中で、どこで流れが止まっているかがひと目でわかります。演奏中は「伴奏はかなり弱くしたつもり」「三連符は均等なつもり」でも、録音では違って聞こえることがよくあります。確認するポイントは次の6つです。
- 2対3が途中で崩れていないか(片方の手を待っていないか)
- 三連符の粒がそろっているか、最後の音だけ短くなっていないか
- 親指に周期的なアクセントがついていないか
- 旋律より伴奏が前に出ていないか
- 和音が変わってもペダルが残りすぎていないか
- クレッシェンドと同時に無意識に走っていないか
仕上げに近づいたら、39小節・71小節・89小節・100小節など、いろいろな場所から単独で弾き始められるようにしておくと、本番で途中が飛んでも立て直せます。
\独学で止まりがちな「仕上げ」こそ、先生の耳を借りたいところ/
アラベスク第1番の難易度に関するよくある質問
Q. 手が小さくても弾けますか?
弾けます。アラベスク第1番には大きめの和音形や跳躍もありますが、分散和音として移動する場面がほとんどなので、手の大きさよりも手首をやわらかく使って腕ごと横に移動できるかどうかが大切です。楽譜の指番号は版によって違い、すべての手に合う唯一の正解ではないので、合わなければ運指や受け渡しを見直しましょう。痛みや強い緊張が出る状態で繰り返すのは避けてください。
Q. ブルグミュラーの「アラベスク」が弾ければ大丈夫?
前述のとおり、ブルグミュラーの「アラベスク」はまったく別の初級曲です。25の練習曲の中でも早い段階で取り組むことが多い曲なので、ドビュッシーのアラベスクに挑戦する前に、25の練習曲を一通り終えておくのがおすすめです。
Q. 発表会に向いていますか?
向いています。約4分と発表会にちょうどよい長さで、聴く人にもなじみのある曲です。ただし冒頭のアルペジオは緊張で崩れやすいので、本番前には冒頭の数小節だけを何度も「弾き始める」練習をしておくと安心です。有名な曲だけにミスが目立ちやすいので、速さより「自分がコントロールできるテンポ」を優先しましょう。
Q. 原曲のテンポで弾けないと人前で弾けませんか?
そんなことはありません。アラベスク第1番のテンポ指示「アンダンティーノ・コン・モート」は、もともと急ぎすぎない速さです。曲中にはrit.・Tempo rubato・stringendoなどの速度変化もあるので、「このBPMが正解」と決める曲でもありません。録音の演奏時間もおおむね3分半〜4分強と幅があり、少しゆったりめのテンポでも、三連符の粒がそろって流れていれば十分に美しく聴こえます。
Q. 何週間くらいで弾けるようになりますか?
一律に「何週間」とは言えません。2対3の経験、アルペジオの技術、譜読みの速さ、1日の練習時間によって大きく変わるからです。期間より、「2対3を数えずに保てる」「伴奏を弱くできる」「ペダルなしでもフレーズが成立する」「途中の小節からでも弾き始められる」といった到達項目で進み具合を判断するほうが現実的です。
Q. 楽譜はどれを選べばいい?
手軽に始めたいなら全音ピアノピースの「2つのアラベスク」(No.197)、原典に忠実な版で学びたいならヘンレ社の原典版(HN 380)が定番です。全音の中井正子校訂版は、実用的な運指やペダルの指示が書き込まれていて学習者に親切です。理想は、原典版で作曲者自身の指示を確認し、校訂版で運指やペダルのアイデアを得るという併用。1891年のデュラン初版はパブリックドメインになっており、IMSLPで無料で見ることもできます。原曲が難しく感じたら、まずは2対3を簡略化した編曲版で曲に親しむのもよいでしょう。ただし「編曲版が弾けた=原曲も弾ける」ではない点は覚えておいてください。
まとめ|アラベスク第1番の難易度は「譜読みは中級、仕上げは上級」
この記事では、ドビュッシーのアラベスク第1番の難易度と、ピアノ何年目で弾けるのかの目安を解説しました。
- 難易度:全音ピアノピースでC(中級)、ヘンレ社の9段階で4(中級)、RCMではLevel 10(上級)。音を並べるだけなら中級の入り口、歌わせて仕上げるなら上級の課題
- 何年目で弾ける?:年数より進度で判断。ブルグミュラー25を終えてソナチネ〜ツェルニー30番に取り組んでいる頃が目安。チェック表で4つ以上当てはまれば原曲に挑戦OK
- どこが難しい?:6小節目からの2対3が最初の壁。1拍を6分割して「両手・右・左・右」(間隔は2・1・1・2)を理解し、机→1音→音型→原曲の順で切り離して練習する
- どれから弾く?:指を動かす曲が好きならアラベスク第1番、響きを味わいたいなら亜麻色の髪の乙女、その先に月の光。第2番は難易度ほぼ同じで、求められる技術が違う
アラベスク第1番は、ドビュッシーが20代で書いた、みずみずしい魅力にあふれた曲です。アラベスク第1番の難易度は「中級」ですが、三連符の流れと2対3のリズムを丁寧に積み上げれば、ソナチネを弾いている方でも十分に手が届きます。唐草模様のつるが伸びていくように、一音ずつ自分だけの模様を描いてみてください。
\ドビュッシーのアラベスクを弾けるようになりたい方へ/
▶ こちらの記事もあわせてどうぞ:ドビュッシー「月の光」の難易度と弾き方のコツ/大人のピアノ独学は何から始める?60日で1曲弾ける練習の順番