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ドビュッシー「月の光」の難易度は、全音ピアノピースの表記ではC(中級)です。ところが実際に弾いてみると「中級なのに、どうしてもきれいに聴こえない」と感じる人が少なくありません。映画やCM、東京2020オリンピックの閉会式でも流れたあの静かな名曲は、指の速さではなく耳と音色で弾く曲だからです。
「ドビュッシーの月の光、自分のレベルで弾けるのかな?」
「ベートーヴェンの月光ソナタと何が違うの?」
「ゆっくりな曲なのに、どこが難しいの?」
そんな疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。この記事は、ソナチネ〜ソナタアルバムあたりまで進んだ方、そして大人になって「いつか月の光を弾きたい」と思っている方に向けて書いています。難易度の目安、月光ソナタとの違い、小節ごとの難所マップ、そして挫折しないための練習ステップまで、順番にお答えします。
ドビュッシー「月の光」の難易度は?全音Cでも”中級の後半”と考えたい理由

ドビュッシー「月の光」の難易度は、楽譜上は中級、体感としては「中級の後半〜上級の入り口」です。音符の数や速さだけを見れば中級ですが、仕上げの段階で音色・ペダル・リズムの揺らしといった上級の課題が出てくるため、このギャップに戸惑う人が多いのです。
全音ピアノピースでは「C(中級)」
日本でよく使われる全音ピアノピースでは、「月の光」はC(中級)に分類されています。同じCランクには、ドビュッシーの「夢想(レヴリー)」やサティの「ジムノペディ」などが並びます。
ただし、ジムノペディが「ゆっくり・リズムが単純」なのに対し、月の光は9/8拍子の中で2連符と3連符が入れ替わり、中盤では左手が流れるようなアルペジオになります。同じCでも、月の光はCの中ではかなり上の方と考えておくと、練習計画を立てやすくなります。
挑戦の目安は「ツェルニー30番後半〜40番」「ソナタアルバム」
指の技術の目安としては、次のあたりまで進んでいると無理なく取り組めます。
- ツェルニー30番の後半〜40番に入っている
- ソナタアルバム(モーツァルトやベートーヴェンのソナタの易しい楽章)を弾いたことがある
- オクターブが無理なく届き、和音を押さえたまま一番上の音だけを少し大きく弾ける
ブルグミュラーを終えたばかりの段階でも、時間をかければ音を並べることはできます。ただ、きれいに聴かせるところまで持っていくには、ショパンのノクターンのような「歌わせる曲」の経験があると近道になります。ショパンのノクターンについてはショパン ノクターン 難易度一覧・ランキングで詳しく解説しています。
実は「やさしい部分」と「難しい部分」の差が大きい曲
月の光の難易度が人によって「中級」とも「上級」とも言われるのは、1曲の中でやさしい部分と難しい部分の差が大きいからです。
- 比較的やさしい部分:冒頭の1〜14小節、そして冒頭の雰囲気が戻ってくる51小節目付近から最後まで。音数が少なく、ゆっくり進みます
- 難しい部分:15小節目からのリズムが揺れる部分と、27小節目から左手のアルペジオが流れる中盤。音数が一気に増えます
つまり、「冒頭は弾けたのに、中盤で急に止まってしまう」というのが、曲の構造上もっとも起こりやすいつまずき方です。最初から「中盤が山場」と分かっていれば、練習の配分を変えることで挫折を防げます。具体的な練習の順番は、後半の練習ステップで紹介します。
「月の光」と「月光ソナタ」の違い|作曲者も時代も別の曲

「月の光」と「月光ソナタ」は名前が似ていますが、作曲者も時代も、曲の成り立ちもまったく別の曲です。検索するとどちらも出てくるので、混同してしまう方は少なくありません。まずは違いを表で整理しましょう。
| 項目 | 月の光 | 月光ソナタ(第1楽章) |
|---|---|---|
| 作曲者 | クロード・ドビュッシー(フランス) | ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(ドイツ) |
| 時代 | 1890年頃作曲・1905年出版(近代・印象派) | 1801年作曲(古典派〜ロマン派の入り口) |
| 正式名 | ベルガマスク組曲 第3曲 | ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27-2 |
| タイトルの由来 | ドビュッシー自身がヴェルレーヌの詩から命名 | 作曲者の死後、詩人レルシュタープの評から広まった愛称 |
| 調・拍子 | 変ニ長調(♭5つ)・9/8拍子 | 嬰ハ短調(♯4つ)・2/2拍子 |
| 難しさの質 | リズムの揺れ・音色・ペダル | 3連符の均一さ・メロディと伴奏のバランス |
「月光」は愛称、「月の光」は作曲者自身のタイトル
ベートーヴェンの「月光ソナタ」は、ベートーヴェン自身が付けた名前ではありません。作曲者の死後、詩人で音楽評論家のルートヴィヒ・レルシュタープが第1楽章を「ルツェルン湖の月光の波に揺れる小舟」にたとえたことから、この愛称が広まったとされています。
一方、ドビュッシーの「月の光(Clair de lune)」は、ドビュッシー自身がタイトルとして選んだ名前です。実は当初は「感傷的な散歩(Promenade sentimentale)」という題で構想されていたと言われ、出版時に「月の光」へ改められました。
調号は違うのに、同じ黒鍵から始まる
面白いのが調性です。月光ソナタは嬰ハ短調(♯4つ)、月の光は変ニ長調(♭5つ)。楽譜の見た目はまったく違いますが、主音の「ド♯」と「レ♭」は、ピアノでは同じ黒鍵です(このような関係を「異名同音」と言います)。

2つの「月」の曲が、同じ鍵盤を中心に、片や短調の深い闇、片や長調のやわらかな光として書かれている。偶然とはいえ、聴き比べるとその対比がよくわかります。
月光ソナタの難易度と弾き方は【月光ソナタ 難易度と弾き方】初心者が第1楽章をきれいに弾くコツで解説しています。
「月の光」の基本情報と作曲の背景

「月の光」は、ドビュッシーのピアノ曲集「ベルガマスク組曲」の第3曲です。曲の背景を知っておくと、どんな音色を目指せばいいかのイメージがはっきりして、練習の方向性が定まります。
ベルガマスク組曲の第3曲|1890年頃に作曲、15年後に出版
ベルガマスク組曲は「前奏曲」「メヌエット」「月の光」「パスピエ」の4曲からなる組曲です。1890年頃に書かれたものの、すぐには出版されず、ドビュッシーが改訂を重ねて1905年にようやく世に出ました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作曲者 | クロード・ドビュッシー(1862〜1918) |
| 収録 | ベルガマスク組曲 第3曲 |
| 調・拍子 | 変ニ長調(♭5つ)・9/8拍子 |
| 速度表示 | Andante très expressif(歩くような速さで、とても表情豊かに) |
| 演奏時間 | 約5分 |
| 難易度 | 全音ピアノピース C(中級)/体感は中級の後半 |
ヴェルレーヌの詩と、もうひとつの「月の光」
タイトルは、フランスの詩人ポール・ヴェルレーヌの詩「月の光(Clair de lune)」に由来します。この詩の冒頭には「仮面とベルガマスク」という言葉が出てきて、組曲名「ベルガマスク」もここから取られました。
実はドビュッシーは、ピアノ曲より前に同じ詩に歌曲として曲を付けています。20歳前後のドビュッシーは、声楽教室で出会ったヴァニエ夫人に夢中になり、彼女のために多くの歌曲を書きました。伝記動画などで「ヴァニエ夫人の時代に月の光を作曲した」と紹介されることがありますが、これは歌曲版の話で、ピアノの「月の光」はそれより後の1890年頃の作品です。混同しやすいポイントなので、覚えておくと曲紹介のときに役立ちます。
ガムランとの出会いと「印象派」の響き
1889年、ドビュッシーはパリ万国博覧会でジャワ島のガムラン音楽に出会い、その独特の響きに大きな影響を受けました。ベルガマスク組曲が書かれたのはその直後です。
「月の光」では、はっきりしたメロディで物語を語るよりも、和音の色の移り変わりで情景を描く書き方がされています。ドビュッシー本人は「印象派」と分類されるのを嫌ったと言われますが、光や水のゆらぎを音で描くこの作風が、のちに印象派音楽と呼ばれるようになりました。弾き手に求められるのも、指の強さより「色」を感じ取る耳なのです。
映画・オリンピックでも使われた「月の光」
「月の光」は、クラシックを普段聴かない人でも一度は耳にしたことがある曲です。映画『オーシャンズ11』(2001年)では、ラストのベラージオの噴水のシーンで流れ、映画『トワイライト〜初恋〜』(2008年)でも印象的に使われました。
日本では、冨田勲が1974年に発表したシンセサイザー版がよく知られています。アルバム『月の光』として発売され、東京2020オリンピックの閉会式でもこの冨田版の「月の光」が流れました。ピアノの原曲と聴き比べると、和音の「色」がどう移り変わっていくのかが、よりはっきり感じられるはずです。練習を始める前に、ピアノ版と冨田版の両方を聴いてイメージを膨らませておくのもおすすめです。
「月の光」が見た目より難しい4つのポイント|難所マップ

「月の光」の難所は、冒頭の弱音、15小節目からのリズムの揺れ、27小節目からの左手アルペジオ、そして変ニ長調の譜読みの4つです。曲全体を流れで見ると、どこで何が求められるかがはっきりします。
冒頭(1〜14小節):ppと休符で「何もしない時間」をつくる
曲はpp(ピアニッシモ)と、左ペダル(弱音ペダル)を使う指示のcon sordinaで始まります。さらに、1小節目の頭は休符です。最初の音を鳴らす前の「静けさ」から曲が始まっている、と考えるとよいでしょう。
ここで難しいのは、右手の3度の和音(2つの音を同時に弾く和音)で、上の音だけをほんの少し多く響かせることです。2つの音を同じ強さで弾くと、メロディが埋もれて平板に聴こえてしまいます。
15小節目〜:2連符と3連符が入れ替わるリズム
9/8拍子は、1小節を「8分音符3つ×3拍」で数える拍子です。ところが「月の光」には、1拍を3つではなく2つに割る2連符がたびたび登場します。特に15小節目のTempo rubato(テンポを揺らして)以降は、2連符と3連符が入れ替わり、両手で重なる場面もあります。

頭で計算しながら弾くと、音楽がカクカクしてしまいます。図のように「2つ割りと3つ割りの位置関係」を目で確認したうえで、片手ずつ完全に体に入れてから重ねるのが近道です。
27小節目〜:左手のアルペジオと右手のメロディの弾き分け
27小節目のUn poco mosso(少し動きをもって)からは、この曲でいちばん音が多くなる部分です。左手は分散和音(アルペジオ:和音の音を1つずつ順番に弾く弾き方)で絶え間なく流れ、右手はオクターブを含む和音でメロディを歌います。
左手が「ゴロゴロ」と粒立って聴こえると、月の光らしい水面のゆらぎが消えてしまいます。左手はメロディより一段小さく、波のように一続きに聴こえることが目標です。
変ニ長調(♭5つ)の譜読み
変ニ長調はフラットが5つ付く調で、黒鍵を多く使います。譜読みのときは臨時記号の見落としが起きやすいので、最初に変ニ長調の音階とアルペジオを弾いて、手を調に慣らしておきましょう。黒鍵中心の調は、慣れてしまえば手の形が安定して弾きやすいという利点もあります。
月の光の弾き方のコツ|ペダル・音色・テンポの揺らし方

月の光をきれいに弾くコツは、ペダルで和音の色を濁らせないこと、腕の重さで静かな音色をつくること、そしてテンポを「呼吸」で揺らすことの3つです。どれも指の練習だけでは身につかないので、意識して取り組みましょう。
ペダル:和音が変わる場所で必ず踏み替える
月の光は、和音が少しずつ色を変えていく曲です。前の和音の響きが残ったまま次の和音に進むと、音が混ざって濁りになってしまいます。
譜読みが終わったら、楽譜の和音が変わる場所に印を付け、そこで右ペダルを踏み替えると決めておきましょう。音を切らずに濁りだけを消すには、音を弾いた直後にペダルを上げて踏み直す「後踏み(シンコペーテッド・ペダル)」が基本です。また、冒頭のcon sordinaの指示どおり左ペダル(ソフトペダル)を使うと、音量だけでなく音色そのものがやわらかくなります。
音色:指を鍵盤に近づけ、腕の重さで沈める
ppを出そうとして指先に力を入れると、音がかすれたり、鳴らなかったりします。小さい音ほど指を鍵盤に近づけて、腕の重さをそっと乗せるイメージで弾くと、芯のある静かな音になります。
和音の中で一番上の音を少し多く響かせたいときは、その音を弾く指(多くは右手の4・5の指)だけ、ほんの少し深く鍵盤を沈めます。
テンポ:揺らすのは「呼吸」、崩すのはNG
月の光には「Tempo rubato(テンポを揺らして)」の指示がありますが、自由に崩してよいという意味ではありません。フレーズの頂点に向かって少し前へ進み、収まるところで少しゆるめる、呼吸のような揺れが理想です。
まずはメトロノームで正確なリズムを体に入れ、そのうえで揺らす。順番を逆にすると、どこが揺れでどこがミスなのか自分でも分からなくなってしまいます。
挫折しない「月の光」練習ステップ5

月の光を挫折せずに仕上げるには、「調に慣れる→難所から→片手ずつ→両手でゆっくり→音色とペダルで仕上げる」の5ステップで進めるのがおすすめです。最初から通して弾こうとすると、難しい中盤で毎回止まってしまい、気持ちが折れやすくなります。
- ステップ1:変ニ長調の音階・アルペジオで手を慣らす
黒鍵中心のポジションに手を慣らします。1日数分で十分です。 - ステップ2:難所(27小節目〜)から譜読みする
いちばん時間がかかる部分から手を付けると、最後に「ここだけ弾けない」状態を避けられます。 - ステップ3:片手ずつ、リズムを体に入れる
2連符と3連符の部分は、片手ずつ声に出して数えながら練習します。左手のアルペジオは、まず和音の形でまとめて押さえて、手の形を覚えましょう。 - ステップ4:両手でゆっくり、ペダルの位置を決める
和音が変わる場所に印を付け、ペダルを踏み替える位置を確定させます。テンポは本来の半分くらいからで構いません。 - ステップ5:録音して、音色と音量のバランスを整える
スマホで録音し、メロディが聴こえるか、ペダルが濁っていないかを客観的に確認します。曲全体で「一番大きくなる場所」を1か所決めておくと、演奏にまとまりが出ます。
独学で取り組む場合は、ステップ5の録音チェックが先生の代わりになります。大人の独学の進め方は大人のピアノ独学は何から始める?60日で1曲弾ける練習の順番も参考にしてください。
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ドビュッシー「月の光」の難易度に関するよくある質問
「月の光」について、よく寄せられる疑問にまとめてお答えします。
Q. ピアノ初心者でも月の光は弾けますか?
原曲をそのまま弾くのは、初心者には難しいと考えたほうがよいでしょう。ただし、冒頭の1〜14小節だけなら音数が少ないので、ブルグミュラー程度の方でも挑戦できます。まずは冒頭だけを目標にするか、初級〜中級向けのアレンジ楽譜から始めるのがおすすめです。
Q. 手が小さくても弾けますか?
中盤にはオクターブの和音が出てくるため、オクターブが届かないと苦労します。届かない和音はアルペジオ(ずらして弾く)にする、左手で取れる音を左手に回すなどの工夫で対応できる箇所もあります。先生に相談しながら、無理に手を広げないようにしましょう。
Q. ショパンのノクターンと比べると、どちらが難しいですか?
ノクターン第2番(作品9-2)と比べると、指の難しさは同程度、リズムとペダルの難しさは月の光のほうが上です。どちらも「歌わせる」技術が必要なので、並行して取り組むと表現力が相乗的に伸びていきます。
Q. 月の光の「月」はどんな情景をイメージすればいいですか?
ヴェルレーヌの詩では、月の光は「静かで、悲しく、美しい」ものとして描かれています。明るく照らす満月というより、庭の木々や噴水を淡く照らす、少し寂しげな月の光をイメージすると、音色の方向性が定まりやすくなります。
まとめ
この記事では、ドビュッシー「月の光」の難易度と、月光ソナタとの違い、弾き方のコツを解説しました。
- 自分のレベルで弾ける?:全音ピアノピースはC(中級)。体感は中級の後半で、ツェルニー30番後半〜40番、ソナタアルバムが挑戦の目安です
- 月光ソナタとの違いは?:作曲者も時代も別の曲。月光は死後の愛称、月の光はドビュッシー自身のタイトル。ただし主音は同じ黒鍵です
- どこが難しい?:冒頭のpp、15小節目からの2連符と3連符、27小節目からの左手アルペジオ、変ニ長調の譜読みの4つ。仕上げにはペダルと音色が欠かせません
ドビュッシー「月の光」は、速く動く指ではなく、耳と音色で弾く名曲です。難易度の数字だけを見て諦める必要はありません。冒頭の14小節から始めて、少しずつ「月の光」の響きを自分の手でつくってみませんか。
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