バッハのインベンションを難易度順に弾きたいと思って調べ始めると、「1番の次は何番?」「8番が先?4番が先?」と、ブログや先生によって順番がまちまちで戸惑ってしまうのではないでしょうか。
インベンションは、左右の手がそれぞれ別のメロディーを弾く「ポリフォニー(多声音楽)」の入口です。ブルグミュラーやソナチネのように「右手がメロディー、左手が伴奏」という形ではないため、最初の1曲でつまずいて「自分には早すぎたのかも」と感じる方も少なくありません。せっかく取り組むなら、つまずきにくい順番で1曲ずつ「弾けた」を積み重ねたいですよね。
- バッハのインベンション全15曲を難易度順に並べるとどうなる?
- インベンションは何番から始めればいいの?
- 難しい番号はどれで、インベンションの前後には何を弾けばいい?
この記事は、ブルグミュラーやソナチネと並行してバッハに入ろうとしている方、そして子どもの頃に途中でやめたインベンションに大人になって再挑戦したい方に向けて書いています。ドイツの楽譜出版社ヘンレ社の難易度、バッハ自身が最初に書き並べた順番、そして日本の指導者が示してきた学習順という3つの根拠を突き合わせ、上の3つの疑問にお答えします。
バッハ インベンションの難易度順は?全15曲を一覧で比較

バッハのインベンション(2声のインヴェンション、BWV 772〜786)は全15曲で、楽譜の番号は難易度順ではなく調の順番(ハ長調から始まって半音ずつ上がる順)に並んでいます。ヘンレ社の9段階評価では第1番・第4番・第6番が「3(易しい)」、残りの12曲が「4(中級)」です。つまり、15曲の差はそれほど大きくなく、番号どおりに弾く必要はないが、どれも中級の入口レベルと考えるのが出発点になります。
インベンション全15曲の難易度一覧表
下の表は、ヘンレ社の難易度、ピティナ・ピアノ曲事典の演奏時間、そして1720年の『ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集』での掲載順(バッハが最初に並べた順番)をまとめたものです。
| 番号 | 調性・BWV | 拍子 | 演奏時間の目安 | ヘンレ(9段階) | 小曲集での順番 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第1番 | ハ長調 BWV 772 | 4分の4 | 約1分20秒 | 3 | 1 |
| 第2番 | ハ短調 BWV 773 | 4分の4 | 約1分30秒 | 4 | 15 |
| 第3番 | ニ長調 BWV 774 | 8分の3 | 約1分 | 4 | 14 |
| 第4番 | ニ短調 BWV 775 | 8分の3 | 約1分 | 3 | 2 |
| 第5番 | 変ホ長調 BWV 776 | 4分の4 | 約1分30秒 | 4 | 13 |
| 第6番 | ホ長調 BWV 777 | 8分の3 | 約1分30秒 | 3 | 12 |
| 第7番 | ホ短調 BWV 778 | 4分の4 | 約1分10秒 | 4 | 3 |
| 第8番 | ヘ長調 BWV 779 | 4分の3 | 約1分 | 4 | 4 |
| 第9番 | ヘ短調 BWV 780 | 4分の3 | 約1分40秒 | 4 | 11 |
| 第10番 | ト長調 BWV 781 | 8分の9 | 約1分 | 4 | 5 |
| 第11番 | ト短調 BWV 782 | 4分の4 | 約1分20秒 | 4 | 10 |
| 第12番 | イ長調 BWV 783 | 8分の12 | 約1分10秒 | 4 | 9 |
| 第13番 | イ短調 BWV 784 | 4分の4 | 約1分10秒 | 4 | 6 |
| 第14番 | 変ロ長調 BWV 785 | 4分の4 | 約1分20秒 | 4 | 8 |
| 第15番 | ロ短調 BWV 786 | 4分の4 | 約1分10秒 | 4 | 7 |
ピティナ・ピアノステップでは、インベンション15曲はすべて「応用3〜発展1」という同じ区分に入っています。どの曲も演奏時間は1〜2分ほどと短く、長さではなく「2つの声部を同時にコントロールする難しさ」が難易度の中心だと分かります。
なぜインベンションは「急に難しく」感じるのか
インベンションが難しく感じられる一番の理由は、和音の伴奏がないことです。ブルグミュラーやソナチネでは、左手の伴奏がフレーズの切れ目や転調(調が変わる場所)を自然に教えてくれます。ところがインベンションでは両手が同じ重さの旋律を弾くため、どこで息をつぎ、どこで調が変わったのかを自分の耳で見つけなければなりません。
もう1つの理由は、バッハが現代のピアノではなく、チェンバロやクラヴィコードなどの鍵盤楽器(クラヴィーア)のために書いたことです。ピアノは音を出した瞬間から音が減衰していくので、「歌うように弾く」ことがチェンバロ以上に難しくなります。つまり、インベンションで苦労するのは指が動かないからではなく、今までの曲とは「聴き方」そのものが変わるからなのです。難しいと感じたら易しい曲集に戻るよりも、弾きやすい番号から2〜3曲続けて慣れるほうが近道です。
\弾きたい曲を1曲ずつ完成させる/
ソナチネの左手は、アルベルティ・バス(ドソミソ…)のような伴奏型がほとんどで、慣れてくると手が勝手に動いてくれるので、意識は右手のメロディーに向けていられます。インベンションでは、左手にも右手と同じ主題がそのまま回ってきます。「左手は脇役」と思って引いてきたので、苦戦していました。
インベンションは何番から?最初は1番、次は4番がおすすめ

インベンションを何番から始めるかで迷ったら、第1番ハ長調から弾くのが最も根拠のある選択です。ヘンレの難易度で最も易しい「3」であり、バッハ自身がフリーデマンの小曲集でも最初に置いた曲だからです。2番目には、同じく「3」で、小曲集でも2番目に置かれた第4番ニ短調を選ぶと、根拠のそろった順番になります。
インベンション第1番ハ長調が最初に選ばれる理由
インベンション第1番は、黒鍵の少ないハ長調で、冒頭の短い主題(モチーフ)が右手と左手に交互に現れる、とても見通しのよい曲です。3小節目からは主題を上下逆さまにした「反行形」が登場し、同じ素材をどう変形させて曲を作るかというインベンションの基本が1曲に詰まっています。
ただし「易しい」と「簡単に仕上がる」は別の話です。第1番は見通しがよいぶんテンポが速くなりやすく、後半で両手が16分音符で掛け合う部分は乱れがちです。易しい曲だからこそ、ゆっくり丁寧に仕上げる価値があります。
3連符で書かれた別の版(BWV 772a)も残っており、ヘンレ版にも収録されています。通常版に慣れたら弾き比べてみると、同じ曲の印象がリズムで大きく変わることを体験できます。
第4番ニ短調・第8番ヘ長調が「2曲目候補」になるわけ
インベンション第4番ニ短調は8分の3拍子の三部形式で、ヘンレでも「3」。16分音符の流れが続くものの、手の形が比較的一定で、短調の響きを味わいながら弾ける曲です。唯一の難所は左手の長いトリルで、手首の力を抜いてゆっくりから慣らしていけば乗り越えられます。
第8番ヘ長調は、右手の主題を左手が少し遅れて追いかけるカノン(輪唱のような書き方)で始まり、途中から自由になっていきます。ヘンレでは「4」ですが、小曲集では4番目に置かれ、「追いかけっこ」の仕組みが耳で分かりやすいため、多くの学習者が早い段階で取り組みます。明るく歯切れのよい曲ですが、速くしすぎると16分音符がばらけるので、テンポは控えめに設定するのがコツです。
なお、ヘンレで「3」の第6番ホ長調は、バッハの小曲集では12番目と後半に置かれています。シンコペーション(拍をずらしたリズム)が多く、インベンションで唯一、前半と後半にそれぞれ繰り返し記号がある曲です。数字上はやさしくても、リズムの把握に慣れてから取り組むほうが安心でしょう。
よくあるのが、楽譜の番号どおり第1番の次に第2番へ進み、そこで何週間も止まってしまうパターンです。逆に、第1番のあと第4番・第8番と進むと、「両手で別のメロディーを弾く」感覚に少しずつ慣れながら、無理なく1曲ずつ仕上げていけます。どの順番を選ぶかで、最初の数か月の手応えは大きく変わります。
インベンションを弾く順番|難易度で分けた3つのグループ

バッハのインベンションを難易度順に進めるなら、15曲を入門・中盤・仕上げの3グループに分けて考えるのがおすすめです。ヘンレの数字だけでは12曲が同じ「4」に並んでしまうため、ここではバッハ自身の小曲集での順番と、日本の指導者が示してきた学習順(後述)を補助線として使い、さらに各曲の書き方の特徴を加えて分類しました。あくまでこの記事の目安ですが、どの根拠からも大きく外れない並びになっています。
| グループ | 番号(目安の順) | 根拠・特徴 |
|---|---|---|
| 入門 | 1 → 4 → 8 → 10 → 13 | 3つの説すべてで前半に置かれる曲。1・4はヘンレ3。8はカノン、13は分散和音の主題が耳で分かりやすい |
| 中盤 | 7 → 14 → 15 → 3 → 11 | 主題が長く・複雑になる。長いトリル(7)、32分音符(14)、フーガ的展開(15)、装飾音(11)に慣れる |
| 仕上げ | 2 → 6 → 5 → 9 → 12 | 3つの説すべてで後半に置かれる曲。厳格なカノン、シンコペーション、フーガ的な始まり、歌わせる難しさ、速さ |
指導者によって順番が違う理由:長岡敏夫説・園田高弘説・バッハ初稿を比較

インベンションの学習順には、日本で広く参照されてきた2つの説があります。音楽之友社の楽譜を校訂した長岡敏夫による順番(1→4→8→13→10→11→14→15→3→2→6→5→7→9→12)と、ピアニスト園田高弘による順番(1→3→4→7→10→13→14→15→2→8→5→6→9→11→12)です。これにバッハ自身の小曲集の順番(1→4→7→8→10→13→15→14→12→11→9→6→5→3→2)を重ねると、上の図のようになります。
3つの説を見比べると、第1番が最初、第4番・第10番・第13番が前半、第5番・第9番・第12番が後半という点は一致しています。一方で、第3番は園田説では2番目なのにバッハの初稿では14番目、第8番は長岡説で3番目なのに園田説では10番目と、説によって大きく割れる曲もあります。順番が割れるのは「指の難しさ」で見るか「曲の理解の難しさ」で見るかの違いで、どちらが正しいということではありません。だからこそ、この記事では3つの説が一致する部分を土台にグループを組み、割れる曲はグループ内で自由に入れ替えてよいと考えています。
入門グループ:第1番・第4番・第8番・第10番・第13番
入門グループは、3つの説のどれでも前半に置かれている5曲です。第10番ト長調は8分の9拍子の軽やかで牧歌的な曲で、右手から左手へトリルを受け渡す部分が練習のしどころです。第13番イ短調は分散和音(和音をばらして弾く形)でできた主題が耳に残りやすく、発表会でも人気の高い曲です。調号がなく譜読みが楽なので、第1番・第4番の次に取り組む方も多いでしょう。
ここまでの5曲で「2つの声部を弾き分ける」感覚と、3拍子系・4拍子系の両方に慣れることができます。
中盤グループ:第7番・第14番・第15番・第3番・第11番
中盤グループでは、主題そのものが長くなったり、装飾音やリズムの工夫が必要になったりします。第7番ホ短調は4分の4拍子で表情豊かな短調の曲で、長いトリルが出てきます。バッハの初稿では3番目という早い位置にありますが、長岡説では13番目と評価が割れる曲なので、中盤の入口に置きました。
第14番変ロ長調は長い主題が間奏をはさんで低音に現れる曲で、32分音符が転ばずに弾けるかがポイントです。第15番ロ短調は2声のフーガのように展開し、左手のトリルと旋律の合わせ方に工夫がいります。第3番ニ長調は第4番と似た8分の3拍子の三部形式なので、第4番を弾いた経験が生きます。第11番ト短調は、装飾音のついた音をどう強調するかで曲のまとまりが変わる曲です。
仕上げグループ:第2番・第6番・第5番・第9番・第12番
仕上げグループは、3つの説のすべてで後半に置かれた曲です。インベンションの「卒業試験」と考えて、入門・中盤グループで2声の弾き分けに自信がついてから取り組みましょう。第6番はヘンレでは「3」ですが、どの説でも11〜12番目に置かれているため、この記事では仕上げに含めています。次の章で、それぞれがなぜ難しく感じられるのかを詳しく見ていきます。
グループの中で順番を入れ替えてよいケース
3つのグループは「この順で進めれば大きくつまずきにくい」という目安で、グループの中の順番は自由に入れ替えてかまいません。たとえば、発表会やコンクールの課題でインベンション第13番イ短調を弾く予定があるなら、第1番・第4番を終えた段階で先に取り組んでもよいでしょう。「弾きたい」という気持ちのある曲は、多少難しくても驚くほど早く仕上がるものです。
入れ替えるときの判断基準は2つです。1つは調号の数で、シャープやフラットが少ない曲ほど譜読みの負担が軽くなります。もう1つは拍子で、8分の3拍子や8分の9拍子、8分の12拍子の曲は、4分の4拍子の曲とは拍の感じ方が違うため、同じ拍子の曲を続けて弾くと慣れやすくなります。第3番と第4番、第10番と第12番のように、似た拍子の曲をセットで考えるのも一つの方法です。
インベンションで難しいのは何番?つまずきやすい曲と理由

インベンションで難しいと感じやすいのは、第2番・第5番・第6番・第9番・第12番です。ヘンレの数字では他の曲と変わりませんが、バッハの小曲集でも日本の指導者の順番でも後半に置かれ、2つの声部の独立性がより強く求められる点が共通しています。
第2番ハ短調:2小節遅れの厳格なカノン
インベンション第2番ハ短調は、右手の旋律を左手が2小節遅れてそのまま追いかける、厳格なカノンで書かれています。片方の手が主題を弾いている間、もう片方は2小節前の主題を弾いているため、耳で2本の旋律を同時に追い続ける集中力が必要です。番号は2番でも、バッハの小曲集では最後の15番目に置かれていました。楽譜の順番どおりに1番の次に2番へ進むと、急に難しく感じるのはこのためです。
第5番変ホ長調・第12番イ長調:フーガのような展開と長いトリル
第5番変ホ長調は、主題と、それに組み合わされる対旋律(対主題)が同時に出てくる、フーガ(主題を次々に追いかけて重ねていく形式)のような始まり方をします。フラット3つの調で音の動きも細かいため、指の独立と音の粒をそろえる練習になる反面、暗譜に苦労する方が多い曲です。
第12番イ長調は8分の12拍子で、よく展開されたフーガのように軽快に進みます。右手だけでなく左手にも長いトリルが現れ、トリルを弾きながらもう一方の手で旋律を保つ必要があるため、技術的な最難関とされることの多い曲です。どちらも今どちらの手が主題を弾いているかを常に意識しないと、音楽がのっぺりしてしまいます。第12番のトリルは、最初は付けずに弾き、ゆっくりのテンポから少しずつ加えていくのが定番の練習法です。
第9番ヘ短調・第6番ホ長調:歌い方とリズムの難しさ
第9番ヘ短調は、フラット4つの調で書かれた、ゆっくりとした嘆きの性格を持つ曲です。タイで結ばれた音や臨時記号が多く、音の長さを正確に保ちながら美しく歌わせなければなりません。速く弾く難しさよりも、ゆっくりの曲を美しく聴かせる難しさがあり、バッハが序文で目標に掲げた「カンタービレ(歌うような)奏法」がまさに試されます。
第6番ホ長調は、ヘンレの難易度では「3」と易しい側に分類されています。しかし、両手が互いにずれながら進むシンコペーションが曲全体を支配し、シャープ4つの調に加えて臨時記号も多いため、譜読みの段階で苦労しやすい曲です。数字上の易しさと実際の弾きにくさがいちばん食い違う曲と言えるでしょう。
同じ「後半の5曲」でも、第9番は「歌わせる」難しさ、第6番は「リズムを保つ」難しさ、第12番は「指を動かす」難しさと、理由はそれぞれ違います。自分がどのタイプの難しさを苦手にしているかを知っておくと、取り組む順番を決めやすくなります。
インベンションの前後に弾く教材と、シンフォニアへの道

インベンションは、バッハの鍵盤作品を学ぶ階段のちょうど中段にあたります。前には「アンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帳」のメヌエットや小プレリュード、後ろには3声のシンフォニア、さらに平均律クラヴィーア曲集が控えています。
インベンションの前に弾いておきたい曲
日本のピアノレッスンでは、インベンションの前に「アンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帳」に収められたメヌエットや、小プレリュード、あるいは「プレ・インベンション」と呼ばれる曲集を弾くことがよくあります。ピティナの解説でも、インベンションはそれ以前の段階で身につけた多声音楽の技術の上に成り立つと説明されています。
いきなりインベンションに入って難しすぎると感じたら、こうした小品で左手にもメロディーがある音楽に慣れておくと、スムーズに移行できます。ただし、こうした導入曲集を終えたからといってインベンションが急に易しくなるわけではありません。第1番・第4番・第8番あたりは、ブルグミュラーの途中でも手が届く曲なので、並行して少しずつ触れていくのが現実的です。
ブルグミュラー・ソナチネとの並行
インベンションは、ブルグミュラー25の練習曲やソナチネと並行して進められることが多い教材です。ブルグミュラーやソナチネが「右手のメロディー+左手の伴奏」で表現力や形式感を学ぶのに対し、インベンションは「両手が対等にメロディーを弾く」力を育てます。性格の違う教材を並行させることで、片方だけでは身につかない力がバランスよく伸びるのが利点です。
次のステップ:シンフォニア(3声)の難易度
インベンションの次に取り組むのが、3つの声部で書かれたシンフォニア(3声のインヴェンション、BWV 787〜801)です。ヘンレ社の評価では、シンフォニア第1番と第11番が「4」、それ以外の13曲が「5」で、インベンションより一段階上がります。インベンションで2声の弾き分けを身につけておくことが、シンフォニアへの一番の準備になります。
なお、インベンション15曲すべてを弾き終えてからシンフォニアに進む必要はありません。仕上げグループの数曲が残っていても、入門・中盤グループの10曲で2声に慣れていれば、シンフォニアの易しい曲(第1番など)に並行して触れることは十分可能です。
大人・独学でインベンションに取り組むコツ

大人がインベンションに独学で取り組む場合は、「主題に印」「片手ずつ」「ゆっくり両手」の3つが基本です。インベンションは1曲が短いので、毎日の練習に少しずつ組み込みやすい教材でもあります。
主題に印をつけて「地図」を作る
インベンションの楽譜を開いたら、まず冒頭の主題がどこに、どちらの手で現れるかを探して色ペンで印をつけましょう。反行形(上下逆さま)や、音の高さを変えて出てくる主題にも印をつけていくと、1ページの楽譜が「主題の地図」になります。地図ができると、両手で弾いたときにどちらを浮き立たせればよいかが自然に分かってきます。
同じタイミングで指番号も決めてしまいましょう。両手が交差する部分や黒鍵が続く部分は、あとから指を変えると覚え直しになります。
片手ずつ、歌いながら練習する
次に、右手だけ・左手だけで、それぞれを1本のメロディーとして歌うように弾きます。左手を「伴奏」と考えず、右手と同じくらい大切な旋律として仕上げることがポイントです。テンポは「弾ける速さ」まで落とし、弾けないのに速くしないこと。両手を合わせるのは、片手ずつが楽譜を見ながらでもスムーズに弾けるようになってからで十分です。
両手を合わせたら、スマートフォンでかまわないので録音して聴き返してみてください。弾いている最中には分からない「主題が埋もれている場所」が、聴き手の立場になるとはっきり分かります。
楽譜の版はどれを選ぶ?ヘンレ・全音・音楽之友社・東音企画
インベンションの楽譜は版によって性格が大きく違うので、独学なら解説と運指(指番号)のある版を選ぶのがおすすめです。代表的な版を比べると次のようになります。
| 版 | 特徴 | 向いている人 |
|---|---|---|
| ヘンレ版(原典版) | バッハの自筆に近い楽譜。強弱やアーティキュレーションの指示は最小限。3連符版の第1番(BWV 772a)も収録 | 自分で解釈したい中〜上級者、先生についている人 |
| 全音・市田儀一郎 校訂版 | 原典版を底本に、各曲の運指・フレージング・装飾音の弾き方・テンポを解説 | 解説を読みながら独学で進めたい人 |
| 音楽之友社・長岡敏夫 編(標準版/原典版) | 長年の研究に基づく奏法と丁寧な解説。この記事で紹介した「長岡説」の学習順の出どころ | 子どものレッスン、初めてインベンションに取り組む人 |
| 東音企画・インヴェンションシリーズ | 楽譜のほかにワークブックと解説ブックが別冊で用意されている | 曲の仕組みを書き込みながら理解したい人 |
最初の1冊は解説付きの日本語版、2冊目に原典版と使い分けると、「書いてある通りに弾く」段階から「自分で考えて弾く」段階へ自然に進めます。
独学で行き詰まったらレッスンも選択肢に
2声の弾き分けは、自分の演奏を客観的に聴くのが難しいジャンルです。録音して聴き返すだけでも発見がありますが、行き詰まったら、オンラインや対面のレッスンで第三者に聴いてもらうのも一つの方法です。独学の進め方そのものは大人のピアノ独学は何から始める?練習の順番を解説した記事も参考にしてください。
\2声の弾き分けを先生に聴いてもらう/
インベンションとは?バッハが息子のために書いた「正しい手引き」

インベンションとは、ヨハン・ゼバスティアン・バッハがケーテンの宮廷楽長だった時代に書いた、2声の鍵盤曲15曲の曲集です。「インヴェンション」はもともと弁論術の言葉で、ふさわしい表現を「見つけ出すこと」を意味しており、特定の曲の形式の名前ではありません。
息子フリーデマンのための小曲集から生まれた
インベンションの原型は、バッハが1720年に長男ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのために書き始めた『クラヴィーア小曲集』に「プレアンブルム(前奏曲)」として書き込まれた曲たちです。この小曲集での順番が、この記事で紹介した「1→4→7→8→10…」の並びです。
その後、バッハは1723年の清書譜で曲を改訂し、調の順番に並べ直して、2声の曲を「インヴェンション」、3声の曲を「シンフォニア」と名づけました。わが子に教えた順番と、曲集として整えた順番の2つが残っているからこそ、私たちは今「難易度順」を考えることができるのです。
序文に書かれた学習の目標
1723年の清書譜には「正しい手引き(Auffrichtige Anleitung)」で始まる序文が添えられています。そこには、2つの声部をきれいに弾くこと、さらに3つの声部を正しく扱うこと、よい楽想を得てそれを展開すること、そして何よりカンタービレ(歌うような)奏法を身につけ、作曲への強い関心を育てることが目標として掲げられています。
インベンションは「指の練習曲」と思われがちですが、バッハ自身は歌うことと作ることを目標にしていたのです。バッハの生涯や代表曲については音楽の父・バッハとは?生涯と代表曲を解説した記事で詳しく紹介しています。
まとめ:バッハ インベンションの難易度順と何番から弾くか
この記事では、バッハのインベンション全15曲を、ヘンレ社の難易度、バッハ自身が最初に並べた順番、そして日本の指導者の学習順という3つの根拠から整理しました。
- 難易度順:ヘンレでは第1番・第4番・第6番が3、他は4。目安の順番は入門(1・4・8・10・13)→中盤(7・14・15・3・11)→仕上げ(2・6・5・9・12)
- 何番から:第1番ハ長調から。2曲目は第4番ニ短調か第8番ヘ長調が根拠のそろった選択。楽譜どおり2番に進むのは避ける
- 難しい番号と前後の教材:第2番(厳格なカノン)・第12番(速さと長いトリル)・第9番(歌わせる難しさ)は後回しに。前はメヌエットや小プレリュード、後はシンフォニアへ
バッハのインベンションは、難易度順に1曲ずつ仕上げていけば、必ず「両手で2つの歌を歌える」ようになる教材です。番号の順番にとらわれず、自分に合った順番で、まずは第1番の短い主題から弾いてみてください。
▶ あわせて読みたい:音楽の父・バッハとは?生涯と代表曲/ピアノ基礎練習を独学で続けるコツ