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ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」の難易度は、全音ピアノピースの表記ではC(中級)です。ところが実際に取り組むと「ゆっくりなのに、まったく思いどおりに弾けない」と感じる人が少なくありません。約6分間、静かで遅い音楽を美しいまま保ち続けること自体が、この曲のいちばんの難しさだからです。
「亡き王女のためのパヴァーヌ、自分のレベルで弾けるのかな?」
「手が小さいけど、届かない和音はどうすればいいの?」
「ゆっくりな曲なのに、どこがそんなに難しいの?」
そんな疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。この記事は、ソナチネアルバム〜ソナタアルバムあたりまで進んだ方や、大人になって「いつかパヴァーヌを弾きたい」と思っている方に向けて書いています。難易度の目安、曲の背景、難所マップ、テンポの考え方、手が小さい人の和音の崩し方、そして挫折しない練習ステップまで、順番にお答えします。
亡き王女のためのパヴァーヌの難易度は?全音Cでも「中級上」と考えたい理由

亡き王女のためのパヴァーヌの難易度は、楽譜上は中級、体感としては「中級上〜上級の入り口」です。音を並べるだけなら中級の力で届きますが、仕上げの段階で「広い和音」「音色のコントロール」「遅いテンポで流れを保つ集中力」という上級の課題がまとめて出てきます。
全音ピアノピースでは「C(中級)」
日本でよく使われる全音ピアノピースでは、亡き王女のためのパヴァーヌはC(中級)に分類されています。ただし、この評価に対しては「Cより難しい」という声が目立ちます。実際に弾いた経験を書いている演奏者のブログでも、手の小さい人はCよりずっと難しいと覚悟したほうがよい、音楽的な要求まで含めればDやEに近い、といった意見が見られます。
全音ピアノピースのランクは、主に「指がどれだけ動く必要があるか」という技術面の目安です。パヴァーヌのように速いパッセージがほとんどない曲は、どうしても低めに出やすいのです。
ラヴェルのピアノ曲の中では「入門」の位置
それでも、ラヴェルのピアノ曲の中では、亡き王女のためのパヴァーヌは最も取り組みやすい1曲です。同時期の「水の戯れ」や「ソナチネ」は、速いアルペジオや細かな指の動きが続く上級曲。パヴァーヌはそれらに比べて音の数が少なく、「ラヴェルの響きを自分の手で鳴らしてみたい」という最初の1曲にぴったりです。
| 曲名 | 難しさの中心 | レベル感 |
|---|---|---|
| 亡き王女のためのパヴァーヌ | 広い和音・音色・遅いテンポの維持 | 中級上 |
| ソナチネ | 細かい指の動き・古典的な均整 | 上級 |
| 水の戯れ | 高速のアルペジオ・トレモロ | 上級 |
ラヴェルの他の作品や人物像は、ラヴェル【生涯と名曲】管弦楽の魔術師を解説で詳しく紹介しています。
亡き王女のためのパヴァーヌとは|作曲の背景と題名の本当の意味

亡き王女のためのパヴァーヌは、モーリス・ラヴェル(1875〜1937)が1899年、パリ音楽院在学中に作曲したピアノ曲です。パトロンのポリニャック公爵夫人に献呈され、1902年にスペイン出身のピアニスト、リカルド・ビニェスが初演しました。1910年にはラヴェル自身が管弦楽版に編曲し、現在はピアノ版・管弦楽版のどちらもよく演奏されています。
| 作曲者 | モーリス・ラヴェル(フランス) |
|---|---|
| 作曲年 | 1899年(管弦楽版は1910年) |
| 調性・拍子 | ト長調・4分の4拍子 |
| 形式 | 小ロンド形式(A-B-A-C-A) |
| 演奏時間 | 約6分 |
| 難易度 | 全音ピアノピースC(体感は中級上) |
「亡き王女」は誰のこと?題名は”響き”で選ばれた
題名の「亡き王女」は、特定の王女を指しているわけではありません。原題は「Pavane pour une infante défunte」。infante(インファンテ)はスペイン王家の王女の称号で、ラヴェルは「昔スペインの宮廷で小さな王女が踊ったようなパヴァーヌ」だと説明しています。題名は、言葉の響き(韻)が美しいから選んだとも語ったと伝えられています。
パヴァーヌとは、16〜17世紀のヨーロッパの宮廷で踊られた、ゆっくりとした行列風の舞曲のこと。ルーヴル美術館にあるベラスケスの王女の肖像画から着想を得たという説もありますが、こちらは諸説あります。
作曲者自身は厳しく評価していた
意外なことに、ラヴェルは後年この曲について、シャブリエの影響が強すぎる、形式が貧弱だ、と厳しく振り返っています。それでも自分で管弦楽版を作っているところに、愛着がにじんでいるようにも感じられます。
晩年、重い失語症を患ったラヴェルがこの曲を耳にして「美しい曲だね。誰が書いたんだい?」と尋ねた、という切ないエピソードも残されています。
亡き王女のためのパヴァーヌの構成と難所マップ

亡き王女のためのパヴァーヌは、同じ主題(A)が3回戻ってくる小ロンド形式(A-B-A-C-A)で書かれています。構成を先に頭に入れておくと、「どこに練習時間をかけるべきか」がはっきりします。
A:冒頭の主題|右手の旋律を歌わせる
曲の顔となる主題です。左手は低音と和音を静かに刻み、右手が息の長い旋律を歌います。管弦楽版ではこの旋律をホルンが吹くので、ピアノでもホルンのような柔らかく丸い音をイメージすると方向性が決まります。音は少ないものの、和音の中で旋律だけを浮かび上がらせる「弾き分け」が最初の課題です。
B:右手のオクターブと和音|旋律が乾いた音になりやすい
B部分では、右手がオクターブに3度などを加えた和音で旋律を弾く場面が出てきます。素直に弾くと、からりとした硬い響きになりがちです。和音のうちいちばん上の音(小指)にだけ重みを乗せる練習が必要になります。
C:いちばんの山場|臨時記号と厚い和音
C部分ではト短調に転じ、臨時記号が一気に増えて譜読みに時間がかかります。和音も厚くなり、手を大きく広げたまま音色をそろえる必要があるため、多くの人がここで止まります。練習は、このC部分から先に始めるのがおすすめです(後述の練習ステップで詳しく説明します)。
亡き王女のためのパヴァーヌが「遅いのに難しい」3つの理由

亡き王女のためのパヴァーヌが難しい理由は、①広い和音、②音色とペダル、③遅いテンポを保つ集中力の3つです。どれも、速い曲の練習では身につきにくい力です。
理由①:9度〜10度に広がる和音
パヴァーヌには、左手を中心にオクターブを超える広い和音(9度〜10度)が何度も現れます。「ド」から1オクターブ上の「レ」や「ミ」までを同時に押さえるイメージです。手の大きい方はそのまま弾けますが、届かない方は崩して弾く工夫が必要になります。対処法は、このあとの「手が小さくても弾ける?」の章でまとめています。
理由②:音色の統一と細かいペダル
パヴァーヌの旋律は、柔らかく均質な音色で歌うのが理想です。指を替えた瞬間に音色が変わったり、和音の中で旋律が埋もれたりすると、とたんに「ただ音を並べただけ」に聴こえます。
さらに、和音が変わるたびにペダルを踏み替える必要があります。踏み替えが遅れると響きが濁り、早すぎると音が途切れます。耳で響きを確かめながら足を動かすという、指以外の技術が求められるのです。
理由③:遅いテンポで音楽の流れを保つ集中力
速い曲は勢いで弾けてしまう部分がありますが、遅い曲はごまかしが利きません。1音1音のあいだの「間」が長いため、音量のバランスや音の切れ目がすべて聴こえてしまいます。約6分間、静けさの中で緊張感を切らさずに歌い続けることが、パヴァーヌの本当の難しさです。
テンポはどれくらい?「死んだパヴァーヌ」にしないための目安

亡き王女のためのパヴァーヌのテンポ指定は四分音符=54です。ただし、この数字だけを信じて「とにかく遅く」弾くと、作曲者の意図から外れてしまうかもしれません。
ラヴェルが言った「死んだのは王女で、パヴァーヌではない」
ピアニストのシャルル・ウルモンがこの曲を演奏したとき、ラヴェルはそのテンポが遅すぎると感じ、「私が書いたのは『亡き王女のためのパヴァーヌ』であって、『王女のための死んだパヴァーヌ』ではないよ」と注意したと伝えられています。
ドイツの楽譜出版社ヘンレの解説によると、初期の版の速度指定は四分音符=80で、1913年ごろの版から54に変わりました。ラヴェル本人がこの変更を認めたかどうかははっきりしていません。また、ラヴェル自身が1922年に残したピアノロール(自動演奏ピアノ用の録音)は、四分音符=58〜69程度と推定されています。
| 出典 | テンポ(四分音符) |
|---|---|
| 初期の版の指定 | 80 |
| 1913年ごろ以降の版の指定 | 54 |
| ラヴェル自身のピアノロール(1922年) | 約58〜69 |
練習での目安は「54〜60で、止まらずに歩く」
練習の目安としては、四分音符=54〜60くらいで、前に進む感覚を失わないことをおすすめします。パヴァーヌはもともと宮廷で踊るための舞曲です。悲しみに沈んで立ち止まるのではなく、ゆっくりでも一定の歩みで進んでいく。そのイメージを持つだけで、演奏の印象は大きく変わります。
手が小さくても弾ける?届かない和音の崩し方

結論から言うと、手が小さくても亡き王女のためのパヴァーヌは弾けます。届かない和音を崩して弾くのは、ラヴェルやラフマニノフのような作曲家の作品ではよくある対応で、音楽的に自然に聴こえれば問題ありません。
方法①:素早いアルペジオに崩す
もっとも一般的なのは、届かない和音をアルペジオ(和音の音を下から順に、素早く弾く弾き方)にする方法です。コツは、いちばん下のバスの音を拍の頭に合わせ、右手の旋律のタイミングを乱さないこと。崩した和音はペダルでつなぎ、ひとつの響きとして聴こえるようにします。
方法②:右手と左手で分担する
左手の和音の上の音を、右手が空いている瞬間に取ってもらう方法です。旋律が途切れない範囲でしか使えませんが、アルペジオより和音らしい響きを保てます。楽譜に「右」「左」と書き込んで、毎回同じ分担で弾けるようにしましょう。
方法③:重なっている音を省く
和音の中で同じ音名がオクターブで重なっている場合は、片方を省いても響きはあまり変わりません。ただし、旋律の音とバスの音は省かないのが鉄則です。どの音を省くか迷ったら、先生に相談するのが確実です。
手の大きさと難しい曲の関係は、ラフマニノフのピアノ曲が難しい5つの理由|手が小さくても弾けるの?でも詳しく解説しています。
挫折しない亡き王女のためのパヴァーヌの練習ステップ5

亡き王女のためのパヴァーヌは、次の5ステップで進めるのがおすすめです。最初から通して弾こうとすると、難しいC部分で毎回止まってしまい、気持ちが折れやすくなります。
- ステップ1:旋律だけを歌いながら弾く
右手の旋律だけを、声に出して歌いながら弾きます。フレーズのどこがいちばん高まるか(頂点の音)を決めて、楽譜に印を付けましょう。 - ステップ2:難所のC部分から譜読みする
臨時記号の多いC部分から手を付けると、最後に「ここだけ弾けない」状態を避けられます。 - ステップ3:広い和音の「形」を手に覚えさせる
和音は、鳴らす前に鍵盤の上で手の形を作る練習をします。届かない和音は、この段階で崩し方(アルペジオ・分担・省略)を決めておきます。 - ステップ4:両手でゆっくり、ペダルの位置を決める
和音が変わる場所に印を付け、ペダルを踏み替える位置を確定させます。テンポは本来より遅くて構いません。止まらずに最後まで弾くことを優先しましょう。 - ステップ5:録音して、旋律が浮かんでいるか確認する
スマホで録音し、旋律が和音に埋もれていないか、ペダルが濁っていないかを客観的に聴きます。テンポが重くなりすぎていないかも、ここで確認できます。
独学で取り組む場合は、ステップ5の録音チェックが先生の代わりになります。大人の独学の進め方は大人のピアノ独学は何から始める?60日で1曲弾ける練習の順番も参考にしてください。
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楽譜の選び方とおすすめの聴き比べ

亡き王女のためのパヴァーヌに取り組むなら、まずは目的に合った楽譜選びから始めましょう。
楽譜は「1曲だけか、原典重視か」で選ぶ
- 全音ピアノピース:パヴァーヌ1曲だけを手軽に始めたい方向け。日本の楽器店で手に入りやすい楽譜です。
- ヘンレ版(原典版):ラヴェルの書いた楽譜にできるだけ忠実な版を使いたい方向け。テンポ指定の変遷などの解説も参考になります。
- 初級〜中級アレンジ版:原曲はまだ難しいけれど、まずは雰囲気を味わいたい方向け。和音が簡単にされているので、「いつか原曲を」という目標につなげやすくなります。
弾く前に、ピアノ版と管弦楽版を聴き比べる
練習を始める前に、ぜひピアノ版と管弦楽版の両方を聴いてみてください。管弦楽版では、冒頭の旋律をホルン、B部分をオーボエ、C部分をフルートが受け持ちます。「ここはホルンの柔らかさ」「ここはオーボエの哀愁」と、楽器の音色をピアノで真似するつもりで弾くと、音色の作り方が具体的になります。
ピアノ版の参考音源としては、ラヴェルのピアノ作品全集を録音した務川慧悟さんの演奏も聴いてみてください。
同じフランス近代の「音色で弾く曲」としては、ドビュッシー「月の光」難易度|月光ソナタとの違いと弾き方のコツもおすすめです。パヴァーヌと並行して取り組むと、ペダルと音色の感覚がまとめて身につきます。
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亡き王女のためのパヴァーヌの難易度に関するよくある質問
亡き王女のためのパヴァーヌについて、よく寄せられる疑問にお答えします。
Q. どのくらいのレベルなら弾けますか?
A. ソナチネアルバムを終えて、ソナタアルバムに取り組んでいるくらいが目安です。音を並べるだけなら中級でも可能ですが、広い和音・音色の統一・ペダルまで含めると中級上の課題になります。
Q. 手が小さくても弾けますか?
A. 弾けます。9度〜10度の広い和音は、アルペジオに崩す、両手で分担する、重なる音を省く、といった方法で対応できます。崩す場合も、バスの音を拍の頭に合わせることを意識しましょう。
Q. 「亡き王女」とは誰のことですか?
A. 特定の王女ではありません。ラヴェル自身が「昔スペインの宮廷で小さな王女が踊ったようなパヴァーヌ」と説明しており、題名は響きの美しさで選んだと伝えられています。
Q. ドビュッシーの「月の光」とどちらが難しいですか?
A. 全音ピアノピースではどちらもC(中級)です。月の光は中盤の速いアルペジオとリズムの揺れ、パヴァーヌは広い和音と遅いテンポの維持が難しく、難しさの種類が違います。手の大きさに不安がある方は月の光、速い動きが苦手な方はパヴァーヌから始めるとよいでしょう。
まとめ|亡き王女のためのパヴァーヌは「音色と歩み」で仕上げる中級上の名曲
この記事では、ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」の難易度と弾き方を解説しました。
- 自分のレベルで弾ける?:全音ピアノピースではC(中級)。ただし体感は中級上で、ソナタアルバムに取り組んでいるくらいが目安です。
- 手が小さくても大丈夫?:大丈夫です。アルペジオ・両手の分担・重なる音の省略で、届かない和音にも対応できます。
- 遅いのにどこが難しい?:広い和音、音色とペダル、遅いテンポで流れを保つ集中力の3つです。テンポは四分音符=54〜60で「止まらずに歩く」意識を持ちましょう。
亡き王女のためのパヴァーヌは、指の速さではなく、音色と呼吸で聴かせる曲です。仕上げる過程で身につく和音の掴み方やペダルの精度は、ほかのフランス音楽やロマン派の曲にもそのまま活きていきます。ぜひ、気品ある「王女のパヴァーヌ」を、あなた自身の音で奏でてみてください。