ベートーヴェン「熱情」の難易度|第3楽章は何年目で弾ける?楽章別に解説

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ベートーヴェンのピアノソナタ第23番「熱情」の難易度は、全音ピアノピースでF(上級上)、ドイツ・ヘンレ社の9段階評価で最高ランクの9です。どちらの基準でもいちばん上に置かれており、三大ソナタ(悲愴・月光・熱情)の中では、はっきりと頭ひとつ抜けた難曲だといえます。

それでも、第3楽章の嵐のように押し寄せる16分音符を聴いて、「いつか自分の手で弾いてみたい」と胸を熱くした方は多いのではないでしょうか。

  • 「熱情ソナタは、ピアノを何年続けたら弾けるようになるの?」
  • 「第3楽章だけでも挑戦できる?どの楽章がいちばん難しい?」
  • 「悲愴や月光は弾けた。次に熱情へ進んでいい?」

この記事は、悲愴や月光に取り組んだことがある方、そして「いつかは熱情」を目標にしている大人のピアノ愛好家に向けて書いています。出版社の難易度表記と、実際に弾いた経験者・指導者の声を10件以上たどったうえで、楽章別の難しさ、挑戦してよいかを見極める進度チェック、第3楽章の難所マップと練習ステップまで、順番にお答えします。

目次

熱情ソナタの難易度は?全音F・ヘンレ9の「最上級」

三大ソナタ(悲愴・月光・熱情)とテンペストの難易度を全音ピアノピースとヘンレ社の評価で比較した図

ベートーヴェンの熱情ソナタの難易度は、上級の中でも最上位です。全音楽譜出版社の全音ピアノピースではNo.153「ソナタ 熱情」がF(上級上)、原典版で知られるヘンレ社(G. Henle Verlag)の9段階評価では9と、2社そろって最高ランクをつけています。ここでは、その数字が具体的にどのレベルを指すのかを整理します。

全音ピアノピースの「F(上級上)」はどのくらい?

全音ピアノピースの難易度は、A(初級)からF(上級上)までの6段階です。Fは「音大生・プロの演奏会レパートリー」に相当する最上級で、同じFにはショパンの「英雄ポロネーズ」や「バラード第1番」、リストの「ラ・カンパネラ」といった曲が並びます。

参考までに、三大ソナタの他の2曲は、悲愴がD(中級上)、月光がE(上級)です。悲愴から熱情までには2段階の差があり、「悲愴が弾けたから次は熱情」とそのまま進むには、間にかなりの開きがあることがわかります。

ヘンレ社の「9」は全32曲ソナタの最高ランク

ヘンレ社は楽譜ごとに1(初級)〜9(上級)の難易度を公開しており、ベートーヴェンの三大ソナタと人気曲を並べると次のようになります。

曲名 ヘンレ難易度 全音ピアノピース
第8番「悲愴」Op.13 7(上級) D(中級上)
第14番「月光」Op.27-2 7(上級) E(上級)
第17番「テンペスト」Op.31-2 8(上級) E(上級)
第23番「熱情」Op.57 9(上級・最高) F(上級上)

ヘンレの9は、ベートーヴェンでいえば後期の「ハンマークラヴィーア」Op.106と同じ最高ランクです。経験豊かなピアニストの間では「熱情よりハンマークラヴィーアや後期ソナタのほうがさらに難しい」という声も多く、熱情は「最上級の入口」に位置する曲だと考えると実態に近いでしょう。

なお、こうした難易度は全楽章を通して弾く前提の評価です。月光の第1楽章だけ、悲愴の第2楽章だけを弾くなら中級相当になるのと同じで、熱情も「第1楽章だけ」「第2楽章だけ」なら、数字ほどは遠くありません。

ソラ
全音もヘンレも一番上……。やっぱり別格なんだね。
カイ
うん。でも「難しい」の中身を楽章ごとに分けて見ると、どこから手をつければいいかが見えてくるよ。

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熱情ソナタの楽章別の難易度|最難関は第3楽章

熱情ソナタ第1楽章から第3楽章までの難易度と演奏時間を並べた図

熱情ソナタは3つの楽章でできていて、全曲の演奏時間はおよそ25分前後です。難易度の順に並べると第3楽章>第1楽章>第2楽章で、「最後まで休みなく走り続ける体力」が求められる第3楽章が最難関です。ただし第1楽章も決して易しくはなく、第2楽章は「音は少ないのに最も音楽性を問われる」という別の難しさを持っています。

楽章 テンポ・調 演奏時間の目安 難しさの中心
第1楽章 Allegro assai/ヘ短調/12/8拍子 約9〜10分 pp→ffの対比、トリル・アルペジオ、左手の和音バランス
第2楽章 Andante con moto/変ニ長調/2/4拍子 約6分 テンポを揺らさず歌う、32分音符の変奏、第3楽章へのつなぎ
第3楽章 Allegro ma non troppo – Presto/ヘ短調/2/4拍子 約6〜8分(リピート有無で変動) 途切れない16分音符、持久力、左手の難所、Prestoのコーダ

第1楽章(Allegro assai)の難易度|静寂と爆発の対比を弾き分ける

第1楽章は、低音部のピアニッシモからそっと始まり、「何かが起こりそうな不気味な緊張感」を漂わせます。この静けさのあとに、高音からフォルテで激しく下降するパッセージが突然現れる――この対比こそが第1楽章の聴きどころであり、最初の難関です。

第1主題にはトリルやアルペジオ(和音の音を1つずつ順番に弾く弾き方)が多く織り込まれ、交響曲第5番「運命」とそっくりの「タタタターン」の動機が低音で何度も現れます。第2主題(変イ長調)では右手が旋律を担いますが、左手の和音が大きくなりがちで、左手だけの練習が欠かせない箇所です。第3主題は16分音符が延々と続くため、ハノンのようにリズム練習に徹する必要があります。

指導者の間では「終楽章が弾けなくても、第1楽章は先に見ておくとよい」と言われることもあります。第1楽章だけでも10分近い大作で、曲の雰囲気をつかむには十分な中身があるからです。

第2楽章(Andante con moto)の難易度|テンポを揺らさず歌う変奏曲

第2楽章は変ニ長調の変奏曲で、コラール風(讃美歌のような和音の連なり)の主題が3つの変奏で展開されます。第1変奏はシンコペーション、第2変奏は16分音符、第3変奏は32分音符と、変奏が進むごとに音の細かさが増していきます。

技術的には3つの楽章の中で最も手が届きやすい一方、「歌いすぎて遅くなる」のがいちばんの落とし穴です。Andante con motoは「歩くような速さで、動きをもって」という意味で、心の中で「1・2」と拍を数え続ける地味な練習が効きます。

そして第2楽章の最後、終わったかと思わせる減七の和音がフォルティッシモで鳴り、そのまま途切れずに(アタッカで)第3楽章へ突入します。この切り替えの一瞬をどう演奏するかが、全曲を通して弾くときの大きな見せ場になります。

第3楽章(Allegro ma non troppo – Presto)の難易度|7,000音を超える16分音符の嵐

第3楽章は、熱情ソナタの中でも文字通り別格の難しさです。ある楽譜データサイトの集計では、第3楽章の音数は約7,250音、音域はF1〜C7、演奏時間は8分台で、同サイトに収録されたベートーヴェンの楽章の中で最も音数が多いとされています。

難しさの正体は、速さそのものより「16分音符がほぼ途切れずに最後まで続く」ことにあります。実際に1年間この楽章を練習した大人の愛好家は、「スピード以上に16分音符を正確に刻めないとリズムが崩れ、曲がまとまらなくなる」と振り返っています。さらに特徴的なのが、ソナタ形式なのにリピート記号が通常と逆で、提示部ではなく展開部と再現部が繰り返される点です。リピートを守ると7〜8分、省略しても6分弱を、休みなく弾き切ることになります。

最後はPresto(きわめて速く)のコーダで一気に加速して閉じます。冒頭を速く始めすぎると、コーダで加速する余地がなくなるため、「テンポは終結部を基準に決める」のが経験者に共通するアドバイスです。

ソラ
第3楽章って速いから難しいんだと思ってた。
カイ
速さは半分かな。もう半分は「8分間、音の粒をそろえたまま走り続ける体力」。マラソンの終盤にスプリントが待っているようなイメージだよ。

熱情ソナタは何年目で弾ける?挑戦前の進度チェック

熱情ソナタに挑戦してよいかを判断する6つの進度チェックリスト

「ピアノ何年目で熱情ソナタが弾けるか」という質問には、残念ながら決まった答えがありません。幼少期から習っていれば中学〜高校生で第3楽章に取り組む人がいる一方、大人から始めた場合は10年単位の道になることも珍しくないからです。年数ではなく、「いま弾けている曲」で判断するのが現実的です。

年数より「通過してきた曲」で判断する

指導者が目安として挙げるのは、ツェルニー40番の後半〜ショパンのエチュード級に手が届いているかどうかです。オクターブや厚い和音が多いため、手がある程度発達した中高生以上が対象になるともいわれます。

実際の例として、ある指導者は中学1年生で第3楽章だけを弾き、大学で全楽章に取り組んだと述べています。また42歳でピアノを再開した愛好家は、再開から4年後に1年間ほぼ熱情だけを練習し、第3楽章をコンクールで演奏しました。つまり子どもなら「習い始めて7〜10年」、大人の再開組なら「再開して数年+熱情に1年」というのが、公開されている経験談から読み取れるひとつの目安です。

熱情に挑戦してよいかの6つのチェック

次の項目に4つ以上当てはまれば、第3楽章の譜読みを始めてよい段階と考えてよいでしょう。

  1. 悲愴の第1楽章・月光の第3楽章を、最後まで止まらずに弾ける(全音E相当の持久力があるか)
  2. ツェルニー40番の後半、またはショパンのエチュードに1曲以上取り組んだことがある
  3. オクターブの連続を、腕を痛めずに脱力して弾ける
  4. ワルトシュタイン第1楽章、またはテンペスト第1楽章を弾いたことがある(経験者の多くが「熱情第3楽章の一歩手前」に挙げる曲です)
  5. 速い曲を録音して、テンポの「走り」を自分で修正できる
  6. 1曲に半年〜1年かける覚悟がある

もし当てはまる項目が2つ以下なら、まだ焦る必要はありません。次の章の「三大ソナタの順番」に沿って、1曲ずつ階段を上るのが確実です。

「第3楽章だけ」なら挑戦できる?

結論から言えば、第3楽章だけの挑戦は可能で、むしろ現実的な選択です。全曲通すと25分前後かかりますが、第3楽章単独なら6〜8分。発表会やコンクールで第3楽章のみを演奏する人も多く、全音の「F」も全楽章をまとめた評価なので、楽章単位では多少のずれがあります。

ただし、第3楽章は第2楽章の最後の和音を断ち切るように始まる楽章です。単独で弾く場合も、第2楽章の終わり8小節ほどは一度弾いてみて、「どこから嵐が始まるのか」を体で知っておくと、冒頭の和音の意味がまったく違って聴こえてきます。

熱情ソナタとは?「熱情」の名前と作曲の背景

熱情ソナタが生まれた1802年から1838年までの年表

ピアノソナタ第23番ヘ短調 Op.57「熱情(Appassionata)」は、ベートーヴェンが1804年から1805年ごろにかけて作曲した、中期の代表作です。「熱情」という題名はベートーヴェン自身がつけたものではなく、死後にハンブルクの出版商クランツがつけたものだと伝えられています。難易度を語るうえでも、曲が生まれた背景を知っておくと、音の一つひとつの意味が変わってきます。

難聴の悪化と「ハイリゲンシュタットの遺書」のあとに生まれた曲

作曲の2年前、1802年にベートーヴェンは難聴の悪化に苦しみ、弟たちに宛てて「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いています。音楽家にとって致命的な障害と向き合いながら、彼は交響曲第3番「英雄」、ピアノソナタ「ワルトシュタイン」、オペラ「レオノーレ(のちの「フィデリオ」)」といった大作を次々に生み出しました。熱情ソナタは、まさにその創作の只中で書かれた曲です。

第1楽章に「運命」の動機が現れるのは偶然ではなく、同じ時期に交響曲第5番の構想も進んでいました。「闘争」と「希望」が同居するような音楽の進み方は、この時期のベートーヴェンの人生そのものを映しているといえるでしょう。

雨に濡れた自筆譜と、初見で弾き切ったマリー・ビゴー

熱情ソナタには、曲の激しさにふさわしいエピソードが残っています。1806年、ベートーヴェンはパトロンのリヒノフスキー侯爵の館で、フランス軍の将校たちの前で演奏するよう強要されました。これに激怒した彼は、嵐の夜に館を飛び出してウィーンへ戻り、侯爵の胸像を叩き壊したと伝えられています。

このとき持ち歩いていた熱情ソナタの自筆譜は雨に濡れ、今も現存する自筆譜にはそのシミが残っています。後日、その汚れた楽譜を見せられたピアニストのマリー・ビゴーは、初見で最後まで弾き通し、ベートーヴェンは「自分の意図とは違うが、より良くなっている」と評価したといいます。自筆譜を見ると、最も多く手直しされているのが終楽章であることもわかっており、ベートーヴェン自身も第3楽章にいちばん苦心していたことがうかがえます。

献呈先と「誰のための熱情か」

熱情ソナタは、友人であったフランツ・フォン・ブルンスヴィック伯爵に献呈されました。伯爵の姉妹であるテレーゼやヨゼフィーネとベートーヴェンの関係がしばしば話題にされますが、「誰のために書かれたか」は今も想像の域を出ません。「熱情」という題名から恋愛を連想する方も多いかもしれませんが、曲そのものが語っているのは、むしろ運命に抗い続ける人間の意志ではないでしょうか。

悲愴・月光と比べてどれくらい難しい?三大ソナタの中の熱情

悲愴・月光からワルトシュタインを経て熱情第3楽章へ進む難易度ロードマップ

三大ソナタの難易度を比べると、悲愴(全音D・ヘンレ7)→月光(全音E・ヘンレ7)→熱情(全音F・ヘンレ9)と、はっきり階段状に並びます。「悲愴と月光が弾けたから、次は熱情」と考えるのは自然ですが、月光と熱情の間には、全音・ヘンレの両方で1〜2段階の差があります。ここでは、経験者の比較を手がかりに「間に挟むべき曲」を考えます。

月光第3楽章と熱情第3楽章の差は「持久力」

月光の第3楽章(Presto agitato)は、熱情第3楽章とよく比べられる曲です。どちらも速いアルペジオの嵐ですが、月光第3楽章の演奏時間は7分前後で、間に息をつける箇所も多くあります。一方の熱情第3楽章は、ほぼ同じ長さを16分音符を途切れさせずに走り続け、しかも最後にPrestoが待っている構造です。

月光第3楽章を「止まらずに弾ける」ことは、熱情に挑戦する前提条件のひとつです。ただ、そこから熱情に直行するより、間にワルトシュタイン第1楽章やテンペストを挟むのが、経験者の多くが勧めるルートです。

経験者が語る「熱情第3楽章はどの曲と同じくらい?」

実際に熱情第3楽章を弾いた愛好家や上級者の比較をまとめると、おおむね次のような序列になります。

熱情第3楽章より易しいとされる曲 同じくらいとされる曲 より難しいとされる曲
ワルトシュタイン第1楽章/テンペスト第1楽章/幻想即興曲/革命のエチュード ラ・カンパネラ(跳躍は多いが曲が短い)/ショパン スケルツォ第2番 英雄ポロネーズ/ワルトシュタイン第3楽章/ハンマークラヴィーア

1年間熱情第3楽章を練習した愛好家は、10段階で★8と評価し、「ワルトシュタイン第1楽章<熱情第3楽章<ラ・カンパネラ<スケルツォ第2番」の順で難しく感じたと述べています。一方、ベートーヴェンのソナタ全32曲を知る回答者は、「熱情第3楽章は基礎技巧が正確なら対応できる。ワルトシュタインの第3楽章や後期ソナタのほうが難しい」と語ります。つまり熱情第3楽章は、「上級曲の中では中堅。けれどアマチュアにとっては最高峰クラス」という位置にあります。

三大ソナタの「おすすめの順番」

三大ソナタに取り組む順番は、悲愴(第2→第3→第1楽章)→月光(第1→第2→第3楽章)→熱情(第2→第1→第3楽章)が王道です。悲愴の楽章別の難易度はベートーヴェン「悲愴」の難易度|楽章別に解説で、月光については月光ソナタの難易度と弾き方で詳しく解説しています。

ソラ
月光の3楽章が弾けたら、すぐ熱情に行っちゃダメなの?
カイ
ダメじゃないけど、間にワルトシュタインの1楽章を1曲挟むと、熱情の譜読みが驚くほど楽になるよ。ベートーヴェンの初期→中期の変化も体で感じられるしね。

熱情ソナタ第3楽章の難所マップ|小節番号で見る5つの山場

熱情ソナタ第3楽章の難所を小節番号で示したマップ

熱情ソナタ第3楽章の難所は、経験者の声を集めると64小節・96小節・135小節・158小節・220小節付近、そして256小節以降のPrestoに集中しています。「どこが難しいか」を小節番号で先に知っておくと、譜読みの段階から練習の配分を決められます。

64小節〜|左手がつりそうになるトレモロ

64小節目から始まる左手のトレモロ(2つの音を素早く交互に弾く奏法)は、多くの経験者が最初に挙げる難所です。1年間練習した愛好家は「指がつりそうになる箇所で、ゆっくり練習して慣らすしかなかった」と述べています。基礎技巧がまだ固まっていない人ほど苦労する箇所なので、最初は原曲の半分以下のテンポで、左手だけを毎日数分から始めましょう。

96小節〜・158小節〜|左右で半小節ずれる第1主題

96小節目からは、左右の手が半小節ずらして第1主題を追いかける箇所、158小節目からは同じ仕組みで対位法的(2つの旋律が独立して絡み合う書き方)になるパッセージが現れます。ここは両手の運指をできるだけそろえると、速くきれいにそろいやすくなります。135〜137小節目の左手でサポートする部分も、片手ずつ音の粒を確認してから合わせるのが近道です。

220小節〜|左手が主題を歌う

220〜227小節目では、普段は伴奏役の左手が第1主題を弾きます。左手でメロディを歌うのが苦手な方にとって、ここが「流れが止まる」箇所になりがちです。右手の伴奏を小さく保ち、左手の主題だけを歌って録音してみると、バランスの崩れがすぐにわかります。

256小節〜Prestoコーダ|走り切る体力と「速さの妥協をしない」勇気

256小節目からは再び左手が大変になり、そのままコーダのPrestoへ突入します。「本番は普段より速くなってしまい、特に苦労した」「いつもぎりぎりだった」という経験者の声が示すとおり、最大の敵は疲労と焦りです。

ここで効くのが、前述の「テンポは終結部を基準に決める」という考え方です。Prestoの2小節前には最終テンポが定まっている状態をめざし、冒頭からそこまでの配分を決めていきます。また、楽章の中で「脱力できる箇所」をあらかじめ自分で見つけておくことも、最後まで弾き切るための重要な準備です。ピアニストのホロヴィッツは遅め、ルービンシュタインは速めのテンポで弾いており、「速ければ正解」ではないことも覚えておきたいポイントです。

熱情ソナタ第3楽章に近づく練習ステップ|大人・再開組の進め方

大人や再開組が熱情ソナタ、とくに第3楽章を目指すなら、「いきなり通す」のではなく「持久力を少しずつ伸ばす」練習が欠かせません。次の6ステップで進めると、腕を痛めずに熱情に近づけます。

ステップ1:第1楽章か第2楽章で熱情の響きに慣れる

まずは変ニ長調の第2楽章、あるいは第1楽章から始めて、熱情ソナタ特有の低音の響きと和音のバランスに慣れましょう。第1楽章は第3楽章が弾けなくても先に取り組んでよい楽章で、曲の雰囲気をつかむには十分です。第2楽章を選ぶなら、最後から第3楽章冒頭への流れも確認しておきます。

ステップ2:第3楽章を「8小節ずつ」半分のテンポで

第3楽章は、原曲の半分以下のテンポで、8小節ずつ区切って練習します。ゆっくりでも16分音符の粒がそろっていることを最優先にし、速さは後から上げていきます。16分音符が多い部分はハノンのように繰り返すリズム練習が有効です。

ステップ3:難所マップの5か所だけ、片手で先に

前章の難所(64・96・135・158・220小節)は、通し練習とは別に片手練習の時間を毎日確保します。左手だけ、右手だけで音を確認してから両手を合わせ、一音ずつ耳で聴いてバランスを整えるのが基本です。

ステップ4:区切りを16小節→32小節と少しずつ長くする

8小節が安定したら16小節、32小節と、通して弾く長さを伸ばしていきます。持久力は一度に伸ばそうとせず、毎日少しずつ伸ばすのが、腕を痛めないためのいちばんの近道です。

ステップ5:脱力を最優先にする

熱情ソナタは強い音が多いため、腕や肩に力が入りやすい曲です。pp(ピアニッシモ)からff(フォルティッシモ)までの幅を大胆に使いながらも、力任せではなく自然な勢いで音を出すことを意識しましょう。弾いたあと腕が重く感じたら、その日の練習はそこで止めるくらいの慎重さが必要です。痛みが出たら無理をせず、指導者に見てもらってください。

ステップ6:録音してテンポの「走り」を確認する

速い曲ほど、気づかないうちにテンポが前のめりになります。メトロノームで土台を作ったうえで録音し、どこで走っているか、どこで音が抜けているかを確認し、その部分だけを重点的に練習します。最終的には、メトロノームではなく自分の呼吸でリズムを感じ取れる状態がゴールです。

熱情ソナタのような大曲は、独学だけで仕上げるのは簡単ではありません。1年間取り組んだ愛好家も「ミスは完全にはなくならなかった」と振り返っています。まずは悲愴や月光のような1曲をきちんと完成させる経験を積み重ねることが、熱情への確実な道です。曲ごとに仕上げていくオンライン講座を活用するのも一つの方法です。

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熱情ソナタの難易度に関するよくある質問

Q. 手が小さくても熱情ソナタは弾けますか?

熱情ソナタにはオクターブや厚い和音が多く出てくるため、手が小さい方には負担の大きい曲です。ただし、和音の一部を省く、アルペジオに分けるなどの工夫で演奏している方も少なくありません。指導者と相談しながら、無理のない形を探してみてください。

Q. 熱情第3楽章とラ・カンパネラはどちらが難しいですか?

全音ピアノピースではどちらもF(上級上)です。両方を弾いた愛好家は「カンパネラほどの跳躍はなく曲も短いが、休みなく16分音符が続く点で熱情のほうが体力を使う」として、カンパネラをわずかに上に置いています。難しさの種類が違うため、跳躍が得意なら熱情、持久力が得意ならカンパネラのほうが取り組みやすいでしょう。

Q. 熱情ソナタの第1楽章だけなら、どのくらいの難易度ですか?

第1楽章だけでも全音E(上級)相当の難しさがあります。約10分の長さがあり、トリル・アルペジオ・左手の和音バランスなど、第3楽章とは別の課題が詰まっています。「第3楽章はまだ無理でも、第1楽章から熱情の世界に入る」という進め方は、指導者も勧める方法です。

Q. 熱情ソナタを1曲仕上げるのに何か月かかりますか?

大人の愛好家が第3楽章をコンクールで弾けるようになるまで、約1年かけた例があります。全楽章となれば、1年以上を見込むのが現実的です。「半年で仕上げる」より、「1年かけて身体に馴染ませる」つもりで計画を立てましょう。

Q. 聴くなら誰の演奏がおすすめですか?

難易度を実感するなら、テンポの違う2人を聴き比べるのがおすすめです。ホロヴィッツは比較的遅め、ルービンシュタインは速めのテンポで知られています。同じ楽譜からまったく違う「熱情」が生まれることがわかると、自分がどんな熱情を弾きたいかも見えてきます。

まとめ|熱情ソナタの難易度は「三大ソナタの頂点」

この記事では、ベートーヴェンの熱情ソナタの難易度を、楽章別・経験者の比較・小節単位の難所から解説しました。冒頭の疑問に答えると、次のようになります。

  • 熱情ソナタは何年目で弾ける?:年数ではなく「悲愴第1楽章・月光第3楽章を止まらず弾ける」「ツェルニー40番後半〜ショパンのエチュード級に手が届く」が目安。子どもなら習い始めて7〜10年、大人の再開組なら「再開して数年+熱情に1年」の例があります。
  • どの楽章がいちばん難しい?:第3楽章>第1楽章>第2楽章。第3楽章は約7,250音の16分音符が途切れず続き、最後にPrestoが待つ持久力の楽章です。第3楽章だけの挑戦は現実的な選択です。
  • 悲愴・月光の次に熱情へ進んでいい?:月光と熱情の間には1〜2段階の差があります。ワルトシュタイン第1楽章やテンペストを間に挟むのが、経験者の多くが勧めるルートです。

ベートーヴェンの熱情ソナタの難易度は、全音F・ヘンレ9という三大ソナタの頂点です。しかし、難所を小節単位で把握し、8小節ずつ持久力を伸ばしていけば、大人から再開した方でも1年で第3楽章を人前で弾いた例があります。嵐の夜に自筆譜を抱えて走ったベートーヴェンの熱情に、あなたも一歩ずつ近づいてみませんか。

▶ こちらの記事もあわせてどうぞ:ベートーヴェン「悲愴」の難易度|第2楽章は初心者でも弾ける?/月光ソナタの難易度と弾き方