「エリーゼのために」の難易度は、有名な冒頭部分だけなら初級上、全曲を通すと中級の入り口です。「初心者でも弾ける名曲」の代表格ですが、冒頭の数十小節を弾けたところで「あれ、この先が急に難しい…」と手が止まる人が多い曲でもあります。
子どもの頃に耳にしたあのメロディを、自分の指で最後まで弾ききりたい。そう思って楽譜を開いたものの、こんな疑問を持っていないでしょうか?
- エリーゼのためには、ピアノ何年目・どの教本レベルなら弾ける?
- 初心者が弾けるようになるまで、何ヶ月くらいかかる?
- どこが難しくて、どう練習すれば途中で挫折しない?
この記事は、ピアノを始めたばかりの大人の方、冒頭だけは弾けるけれど全曲に挑戦したい方に向けて書いています。曲を「A・B・A・C・A」の5つのブロックに分けて難易度を整理しているので、まずは自分がどのブロックまで弾けそうかを確認しながら読み進めてみてください。
エリーゼのためにの難易度は「冒頭は初級上・全曲は中級」

エリーゼのためにの難易度をひとことで言うと、「冒頭は初級上、全曲は中級」という段差のある曲です。
楽譜出版社の難易度表示では初級上に分類されることが多い一方で、ピアノ講師や経験者からは「実は意外と難しい」という声がよく上がります。この章では、客観的な難易度の目安と、なぜ評価が割れるのかを整理します。
全音ピアノピースでは「B(初級上)」
全音楽譜出版社の「全音ピアノピース」では、エリーゼのために(PP-002)は難易度B(初級上)に分類されています。ピアノピースの難易度はA(初級)からF(上級上)までの6段階なので、下から2番目のランクです。
面白いのは、同じB(初級上)にモーツァルトの「トルコ行進曲(トルコマーチ)」やドヴォルザークの「ユーモレスク」も入っていることです。「トルコ行進曲と同じランク」と聞くと、エリーゼのためにが決して“入門の入門”ではないことがイメージしやすいのではないでしょうか。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作曲者 | ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン |
| 作曲年 | 1810年(自筆譜の日付は4月27日とされる) |
| 作品番号 | WoO 59(作品番号のない作品) |
| 調性・拍子 | イ短調・8分の3拍子 |
| 形式 | A-B-A-C-Aのロンド形式 |
| 演奏時間 | 約3分 |
| 難易度 | 全音ピアノピースB(初級上)/全曲は中級の入り口 |
ピアノ何年目・どの教本レベルで弾ける?
教本の進度でいうと、エリーゼのためにの全曲はブルグミュラー25の練習曲の後半〜ソナチネアルバムの入り口くらいが目安です。ツェルニー100番練習曲の後半に取り組んでいるレベル、と言い換えることもできます。
- 冒頭(Aパート)だけ:バイエル修了前後、ブルグミュラーを始めた頃から挑戦できる
- 全曲:ブルグミュラー後半〜ソナチネ程度。ピアノ教室では習い始めて2〜4年目に取り組むことが多い
年齢でいうと、子どもの場合は小学校中学年以降がひとつの目安とされます。理由は技術よりも体格で、オクターブ(ドから上のドまで)に手が届くこと、足がペダルに届くことが全曲を弾くための条件になるからです。大人の初心者であれば体格の問題はないので、あとは譜読みと指の独立の問題になります。
実際にエリーゼのためにを弾いた方は、小学4〜5年生でピアノ歴4〜5年目の方が多いとのことでした。
「簡単」と「難しい」で意見が割れる理由
エリーゼのためにの難易度について意見が割れるのは、誰もが知っている冒頭部分と、あまり知られていない中間部とで難しさがまったく違うからです。「エリーゼのためにくらいなら弾ける」と言う人の多くは、冒頭の主題部分だけを思い浮かべています。
もうひとつの理由が「表現」です。音符を正確に押さえることと、聴いている人が心地よいと感じる演奏をすることは別物。冒頭の「ミ・レ♯・ミ・レ♯」は、ただ並べるだけだと機械的に聞こえてしまいます。音の数は少なくても、ため息のような揺らぎや強弱を付けてはじめて曲になる。音が少ない曲ほど、ごまかしがきかないのです。
A-B-A-C-A|部分ごとの難易度と難所

エリーゼのためにはA-B-A-C-Aのロンド形式で書かれています。ロンド形式とは、同じ主題(A)が、違う雰囲気の部分(B・C)をはさみながら何度も戻ってくる形のことです。つまり、Aパートを1つ仕上げれば曲の半分以上を弾けることになり、残る山はBとCの2つだけ。部分ごとの難易度は次のとおりです。
| 部分 | 雰囲気 | 難易度 | 主な難所 |
|---|---|---|---|
| A(主題) | イ短調・ささやくような旋律 | 初級上 | ミ↔レ♯の揺れ、左右の手の受け渡し、ペダル |
| B(第1中間部) | ヘ長調・明るく歌う | 中級 | 32分音符の速い音階、和音の連続 |
| C(第2中間部) | イ短調・嵐のように劇的 | 中級 | 左手の同音連打、分散和音、半音階 |
Aパート(冒頭の主題):音は簡単、でも「つなぎ目」が難しい
エリーゼのためにの冒頭、Aパートの難易度は初級上です。右手の「ミ・レ♯・ミ・レ♯・ミ・シ・レ・ド・ラ」はポジション移動も少なく、片手ずつなら初心者でもすぐに音が取れます。
難しいのは、左手のアルペジオ(和音の音を1つずつ順番に弾く弾き方)から右手のメロディへ、音をバトンのように受け渡す部分です。左手「ラ・ミ・ラ」から右手「ド・ミ・ラ・シ」へ移るつなぎ目で、音が途切れたり急に大きくなったりしやすく、一本の線に聞こえるように弾くには意外と練習が必要です。
また、ペダルもAパートから必要になります。和音が変わる瞬間に踏み替えないと、響きが濁ってしまいます。最初はペダルなしで音の受け渡しを整え、慣れてから足を加えるのがおすすめです。
Bパート(ヘ長調の中間部):最大の技術的難所は32分音符
Bパートはヘ長調に転調し、それまでの切ない雰囲気から一転して明るく歌い出します。左手は和音を刻み、右手は装飾のついたメロディを弾くので、両手で別々の役割をこなす「指の独立」が求められます。
そしてBパートの後半には、この曲で最も速い32分音符の下行パッセージが登場します。冒頭が弾けた人の多くがここで止まってしまう、エリーゼのためにの最初の壁です。指使いが毎回変わると粒がそろわないので、楽譜に書かれた指番号を早い段階で固定しておくことが攻略のカギになります。
エリーゼのためにの難所は、ヘ長調の中間部の32分音符、イ短調の部分で続く左手の同音連打、終盤の半音階の下降、冒頭の左手の分散和音の4か所です。指番号を固定して、次の鍵盤へ早めに手を移しておくのが攻略のコツです。
Cパート(劇的な中間部):同音連打と半音階で体力勝負
Cパートは、ピアノ講師のあいだで「土砂降りのシーン」とたとえられることもある、エリーゼのためにで最も激しい部分です。左手は低音の「ラ」をひたすら同じ音で連打し、その上で右手が緊迫した和音を重ねていきます。
同音連打は、ただ同じ鍵盤を叩くだけなので簡単そうに見えますが、音量とリズムを均一に保ち続けるのは難しいものです。力んで弾くとすぐに腕が疲れてしまうので、手首を柔らかく保ちましょう。
Cパートの最後には、右手の速い分散和音と、上から下へ一気に駆け降りる半音階(黒鍵も含めて隣の音を順番に弾く音階)が続きます。ここを抜けると再び冒頭のAパートに戻り、静かに曲が終わります。嵐のあとに主題が戻ってくるこの流れこそ、エリーゼのためにが名曲と呼ばれる理由のひとつです。
エリーゼのためにが弾けるまで何ヶ月?レベル別の期間目安
エリーゼのためにが弾けるようになるまでの期間は、ピアノ未経験の大人なら冒頭部分で3ヶ月〜半年、全曲で1年前後がひとつの目安です。ただし、スタート地点と毎日の練習時間によって大きく変わります。

| 今のレベル | 冒頭(Aパート) | 全曲 |
|---|---|---|
| ピアノ未経験の大人 | 3ヶ月〜半年 | 1年前後 |
| バイエル修了程度 | 1〜2ヶ月 | 半年前後 |
| ブルグミュラー後半〜ソナチネ | 2〜3週間 | 2〜3ヶ月 |
| 子どもの頃に習っていた再開組 | 数週間〜1ヶ月 | 3〜6ヶ月 |
※毎日20〜30分練習した場合の目安です。個人差があります。
期間を左右する3つのポイント
同じ「初心者」でも、エリーゼのためにが弾けるまでの期間には大きな差が出ます。差を生むのは、主に次の3つです。
- 譜読みの速さ:ヘ音記号(左手の楽譜)や臨時記号(♯・♭)にどれだけ慣れているか
- 練習の頻度:週末にまとめて2時間より、毎日20分のほうが指は覚えやすい
- ゴールの設定:「冒頭だけ」「全曲をゆっくり」「全曲を原曲のテンポで」のどこを目指すか
特に3つ目のゴール設定は重要です。全曲を目指すなら、まずは冒頭を仕上げて「1曲弾けた」という達成感を味わい、そのあとBパート、Cパートと山を1つずつ越えていくほうが挫折しにくくなります。
大人の初心者が「冒頭だけ」で止まってしまう理由
大人の初心者がエリーゼのためにの冒頭だけで止まってしまうのは、Aパートを弾けた勢いのままBパートに入り、急な難易度の上昇に心が折れるケースが多いからです。Aパートは初級上、Bパートは中級。同じ曲の中で1段階レベルが上がることを知らないと、「自分には才能がない」と思い込んでしまいがちです。
ここでおすすめしたいのが、Bパートに入る前に、同じくらいの難易度の練習曲を1〜2曲はさむという回り道です。ブルグミュラーの「アラベスク」や「貴婦人の乗馬」のように、速いパッセージや両手の役割分担を練習できる曲を経由すると、Bパートの32分音符がぐっと弾きやすくなります。
エリーゼのためにを最後まで弾くための練習法4ステップ

エリーゼのためにの練習法は、「Aパートを完成させる → BとCを部分練習する → 全曲をつなぐ」の順番で進めるのが効率的です。ロンド形式でAパートが3回出てくるため、Aさえ固まれば曲の土台ができあがります。
ステップ1:Aパートを片手ずつ、ゆっくり譜読み(〜1ヶ月)
最初は右手だけ、次に左手だけでAパートの音と指使いを覚えます。メトロノームを使い、原曲の半分くらいのテンポから始めましょう。片手で迷わず弾けるようになったら、両手を合わせます。ペダルはまだ使いません。
ステップ2:Aパートを両手で暗譜し、ペダルを加える(1〜3ヶ月)
両手で止まらずに弾けるようになったら、Aパートを暗譜して安定させます。この段階でペダルを加え、和音が変わる瞬間に踏み替える練習をします。左右の手の受け渡しがなめらかになれば、Aパートは完成です。
ステップ3:BパートとCパートを「部分練習」で攻略(3〜6ヶ月)
BパートとCパートは、最初から通して弾こうとせず、難しい小節だけを取り出して練習します。32分音符や分散和音には、リズム変奏(付点のリズムに変えて弾く練習)が効果的です。「タッカ・タッカ」「ッタ・ッタ」と2通りのリズムで弾くと、指の粒がそろいやすくなります。Cパートの同音連打は、手首の力を抜いて小さな動きで弾くことを意識しましょう。
ステップ4:全曲を通して、録音で仕上げる
全曲を通せるようになったら、テンポを少しずつ上げて強弱と歌い方を仕上げます。ここで効果的なのが自分の演奏を録音・録画して聴き返すことです。弾いている最中には気づかない、テンポの揺れや音の濁りがはっきりわかります。
基礎力に不安がある方は、独学でもできるピアノの基礎練習を並行すると上達が早くなります。独学そのものが不安な場合はピアノ独学の始め方ガイドも参考にしてください。
エリーゼのためにの「エリーゼ」は誰?曲に込められたベートーヴェンの恋

エリーゼのためにの「エリーゼ」が誰なのかは、今もはっきりとはわかっていません。しかし、曲の背景を知ると、冒頭の切ない旋律や中間部の激しさの弾き方が変わってきます。難易度の話から少し寄り道して、ベートーヴェンの恋のエピソードを紹介します。
有力なのは「テレーゼ・マルファッティ」説
エリーゼのためには、ベートーヴェンの死後40年たった1867年に、音楽学者ルートヴィヒ・ノールによって初めて出版されました。ノールが書き写した自筆譜には「エリーゼのために、1810年4月27日、L.v.ベートーヴェンの思い出に」と書かれていたとされますが、その自筆譜は現在失われています。
最も有名なのは、ノールが「テレーゼ(Therese)」を「エリーゼ(Elise)」と読み間違えたという説です。テレーゼ・マルファッティは、ベートーヴェンの友人グライヒェンシュタイン男爵を通じて知り合った、裕福な家の娘でした。当時ベートーヴェンは39歳、テレーゼは18歳前後。ベートーヴェンは本気で結婚を考え、服装に気をつかったり、教養を見せようと手紙で文学作品の話題を持ち出したりしたと伝えられています。しかし求婚は受け入れられず、この恋は実りませんでした。
ほかにも「エリーザベト・レッケル」説などがある
一方で、別の人物を「エリーゼ」とする説もあります。2010年には音楽学者クラウス・マルティン・コーピッツが、ベートーヴェンと親交のあったソプラノ歌手エリーザベト・レッケル(愛称エリーゼ)だとする説を発表しました。さらに2014年には、当時の天才少女エリーゼ・バーレンスフェルト説も提唱されています。どの説も決定的な証拠はなく、「エリーゼ」は今もクラシック音楽の小さなミステリーです。
恋多きベートーヴェンと、曲の表情の変化
ベートーヴェンは生涯独身でしたが、恋愛の多い人物でした。ピアノソナタ「月光」を捧げたジュリエッタ・グイチャルディ、長く心を寄せたヨゼフィーネ・ブルンスヴィック、そして名前を伏せた手紙に「不滅の恋人」と書いた相手など、その多くが身分違いや周囲の事情によって実らない恋でした。
そう考えると、エリーゼのためにの冒頭で何度もくり返される「ミ・レ♯」の揺れは、言葉にできない想いのため息のようにも聞こえてきます。Bパートの明るさは楽しい思い出、Cパートの嵐は抑えきれない感情——。正解はありませんが、自分なりのストーリーを持って弾くと、同じ音符でも演奏が驚くほど変わります。
ちなみに近年、ベートーヴェン研究者のバリー・クーパーが、ベートーヴェンが1822年に手直ししたとみられる「改訂版」を発表しています。左手のアルペジオの入り方などが私たちの知るエリーゼのためにとは少し異なり、聴き比べてみるのも面白いでしょう。
エリーゼのためにと同じレベルの曲・次に弾きたい曲
エリーゼのためにと同じくらいの難易度の曲を知っておくと、「まだ難しい」と感じたときの寄り道や、弾けたあとの次の目標選びに役立ちます。
| 位置づけ | 曲名 | ポイント |
|---|---|---|
| もう少しやさしい曲 | ブルグミュラー「アラベスク」「貴婦人の乗馬」 | 速いパッセージと両手の役割分担の練習に |
| 同じくらいの曲 | モーツァルト「トルコ行進曲」 | 全音ピアノピースで同じB(初級上) |
| 同じくらいの曲 | ドヴォルザーク「ユーモレスク」 | 同じくB(初級上)。付点リズムの練習にも |
| 次の目標 | ベートーヴェン「月光ソナタ」第1楽章 | 同じ作曲者の名曲。ペダルと響きのコントロールを深められる |
弾けたあとの次の目標は「月光ソナタ」第1楽章
エリーゼのためにを弾けるようになった方に特におすすめしたいのが、同じベートーヴェンの「月光ソナタ」第1楽章です。速いパッセージはありませんが、3連符の分散和音の上でメロディを浮かび上がらせる表現力と、繊細なペダルが求められます。エリーゼのためにで身につけた「左右の手のバランス」と「ペダルの踏み替え」がそのまま生きる曲です。詳しくは月光ソナタの難易度と弾き方で解説しています。
ほかの名曲の難易度も知りたい方は、クラシックピアノ難易度ランキングもあわせてご覧ください。
エリーゼのためにの難易度に関するよくある質問
Q. エリーゼのためには、初心者が弾けるようになるまで何ヶ月かかりますか?
ピアノ未経験の大人の場合、冒頭部分だけなら3ヶ月〜半年、全曲通しては1年前後が目安です。毎日20〜30分の練習を続けられるかどうかで大きく変わります。
Q. エリーゼのためにはピアノ何年目レベルの曲ですか?
冒頭部分は初級上(バイエル修了〜ブルグミュラー程度)、中間部を含む全曲は中級の入り口です。ピアノ教室では、習い始めて2〜4年目に取り組むことが多い曲です。
Q. エリーゼのためにで一番難しいのはどこですか?
2つある中間部です。特にBパートの32分音符の速いパッセージと、Cパートの左手の同音連打から半音階までの流れは、冒頭部分との難易度の差が大きいため、ここだけを取り出した部分練習が必要です。
Q. 手が小さくてもエリーゼのためには弾けますか?
全曲を弾くにはオクターブに届くことがひとつの目安になります。届かない場合は、オクターブの下の音を省いた簡単アレンジ版の楽譜から始めるのもよい方法です。
まとめ
この記事では、エリーゼのためにの難易度と、弾けるようになるまでの期間、練習法を紹介しました。
- 難易度:冒頭(Aパート)は初級上、全曲は中級の入り口。全音ピアノピースではB(初級上)で、トルコ行進曲と同じランク
- 期間の目安:未経験の大人なら冒頭で3ヶ月〜半年、全曲で1年前後
- 練習法:Aパートを完成させてから、BとCを部分練習で1つずつ攻略する
エリーゼのためには、「冒頭だけ弾ける曲」で終わらせるにはもったいない曲です。明るいBパートと嵐のようなCパートを越えて、最後にまたあの旋律に戻ってきたとき、きっとこの曲の本当の魅力に気づけるはずです。
エリーゼのためにの難易度と練習ステップを参考に、まずは冒頭の数小節から、あなたのペースで始めてみてください。
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