ビル・エヴァンスの名盤を聴いてみようと検索すると、『Waltz for Debby』『Portrait in Jazz』『Sunday at the Village Vanguard』……と、似た雰囲気のアルバム名がずらりと並びます。「どれから聴けば失敗しないんだろう?」と、再生ボタンを押す前に手が止まってしまった経験はないでしょうか。
ビル・エヴァンスは、ジャズピアノの「美しさ」を語るときに必ず名前が挙がるピアニストです。けれども活動期間は約25年。トリオのメンバーや録音したレーベルによってアルバムの表情は大きく変わるため、最初の1枚と、その次に進む順番を知っているかどうかで、エヴァンス体験の充実度はまったく違ってきます。
- ビル・エヴァンスのおすすめアルバムで、最初の1枚はどれ?
- 時代ごとに演奏はどう変わったの?どの順番で聴けばいい?
- ピアノを弾く人は、エヴァンスのどこに注目して聴けばいいの?
この記事は、ジャズピアノが好きでビル・エヴァンスをきちんと聴いてみたい方、ピアノを弾いていてあの響きの秘密を知りたい方に向けて、名盤10枚を一覧表と図解つきで紹介し、時代別・気分別の聴き方まで解説します。
- 1 ビル・エヴァンスの名盤おすすめ10選|最初の1枚は『Waltz for Debby』
- 2 【黄金トリオ期】スコット・ラファロと残した4枚の名盤
- 3 【デビュー期〜ヴァーヴ期】エヴァンスの個性が花開いた名盤4枚
- 4 【晩年】深い叙情にたどり着いたビル・エヴァンスの名盤2枚
- 5 ビル・エヴァンスとは?「ジャズピアノの詩人」と呼ばれた生涯
- 6 ピアノを弾く人が注目したいビル・エヴァンスの3つの魅力
- 7 気分・シーン別|ビル・エヴァンスのおすすめアルバムの選び方
- 8 ビル・エヴァンスの名曲|アルバムとあわせて聴きたい4曲
- 9 ビル・エヴァンスの名盤に関するよくある質問
- 10 まとめ|ビル・エヴァンスの名盤は『Waltz for Debby』から
ビル・エヴァンスの名盤おすすめ10選|最初の1枚は『Waltz for Debby』

ビル・エヴァンスの名盤で最初に聴くなら、1961年のライブ録音『Waltz for Debby』がおすすめです。美しいメロディ、トリオの対話、ライブならではの空気感という、エヴァンスの魅力がもっともバランスよく詰まった1枚だからです。まずは、録音年・レーベル・編成を確認できた10枚を一覧にしました。
| アルバム | 録音年 | レーベル | 編成・共演者 | こんな人に |
|---|---|---|---|---|
| 『Waltz for Debby』 | 1961 | Riverside | トリオ(スコット・ラファロ、ポール・モチアン) | 最初の1枚に |
| 『Portrait in Jazz』 | 1959 | Riverside | トリオ(ラファロ、モチアン) | 「枯葉」の名演を聴きたい人 |
| 『Explorations』 | 1961 | Riverside | トリオ(ラファロ、モチアン) | 落ち着いたトリオをじっくり |
| 『Sunday at the Village Vanguard』 | 1961 | Riverside | トリオ(ラファロ、モチアン) | トリオの対話を深掘りしたい人 |
| 『Everybody Digs Bill Evans』 | 1958 | Riverside | トリオ(サム・ジョーンズ、フィリー・ジョー・ジョーンズ)+ソロ | 「Peace Piece」目当てに |
| 『Kind of Blue』(マイルス・デイヴィス) | 1959 | Columbia | マイルス・デイヴィス・セクステット | ジャズの定番を知りたい人 |
| 『Undercurrent』 | 1962 | United Artists | デュオ(ジム・ホール/ギター) | 静かな夜に |
| 『Conversations with Myself』 | 1963 | Verve | ソロ(多重録音) | ピアノの響きを堪能したい人 |
| 『At the Montreux Jazz Festival』 | 1968 | Verve | トリオ(エディ・ゴメス、ジャック・ディジョネット) | 躍動感を求める人 |
| 『You Must Believe in Spring』 | 1977 | Warner Bros. | トリオ(エディ・ゴメス、エリオット・ジグモンド) | 晩年の深い叙情を |
最初の1枚が『Waltz for Debby』である3つの理由
『Waltz for Debby』が最初の1枚としておすすめなのは、「メロディの美しさ」「トリオの対話」「ライブの臨場感」の3つが一度に味わえるからです。タイトル曲はエヴァンスが幼い姪のデビイのために書いたワルツで、ジャズを聴き慣れていない方でも口ずさめるほど親しみやすい旋律を持っています。さらにこのライブ録音には、店内の話し声やグラスの音までそのまま収められていて、1961年のニューヨークのジャズクラブに席をひとつもらったような気分になれます。
人気も折り紙つきです。2015年にユニバーサルミュージックが過去の名作100タイトルを再発した企画「ジャズの100枚。」では、『Waltz for Debby』が売り上げ1位を記録しました。半世紀以上前のライブ盤が、現代の日本でジャズの顔であり続けているのです。
筆者にとってのビル・エヴァンスも、この『Waltz for Debby』から始まりました。【一次情報を追加:最初に聴いたときに印象に残った曲や場面を1〜2文】
2枚目からの聴く順番|初心者ロードマップ
2枚目以降は「同じ日のライブ→スタジオ録音→デュオ→晩年」と広げていく順番がおすすめです。具体的には次の流れです。
- 『Waltz for Debby』:エヴァンスの魅力が凝縮された入口
- 『Sunday at the Village Vanguard』:同じ日のライブから生まれた姉妹盤。ベースが主役の選曲で、トリオの別の顔が見える
- 『Portrait in Jazz』:同じトリオのスタジオ録音。「枯葉」の斬新な解釈でトリオ様式の原点を知る
- 『Undercurrent』:ギターとのデュオで味わう、静けさの極み
- 『You Must Believe in Spring』:晩年の深い叙情へ。同じピアニストの変化に驚くはずです
この順番で聴くと、「黄金トリオ→喪失と変化→晩年の円熟」というエヴァンスの物語を、無理なく追体験できます。
【黄金トリオ期】スコット・ラファロと残した4枚の名盤

ビル・エヴァンスの名盤の中心にあるのが、ベースのスコット・ラファロ、ドラムのポール・モチアンと組んだ「黄金のトリオ」(1959〜1961年)による4枚です。ピアノが主役でベースとドラムが伴奏、という従来の役割分担を壊し、3人が対等に会話する「インタープレイ」をジャズ史に刻んだ編成です。わずか2年ほどの活動で残された録音は、今もジャズピアノトリオの教科書であり続けています。
『Portrait in Jazz』(1959年)|トリオ様式が確立した原点
『Portrait in Jazz』は、ラファロ、モチアンとのトリオによる最初のスタジオ録音で、1959年12月28日にニューヨークで録音されたリヴァーサイド作品です。最大の聴きどころは、ベースがメロディのように歌い、ピアノと互いに反応し合う「枯葉(Autumn Leaves)」。初共演のスタジオ作とは思えない緊密な対話が、トリオの完成度の高さを物語ります。一方で、「When I Fall in Love」や「Spring Is Here」のようなバラードの美しさを本作の白眉に挙げるファンも少なくありません。
『Explorations』(1961年)|成熟したトリオの緻密な会話
『Explorations』は1961年2月2日録音の2作目のスタジオ作で、黄金トリオの深化を記録した1枚です。前作に比べると全体に落ち着いた雰囲気で、派手さはないぶん、3人の緻密なインタープレイをじっくり味わえます。ジョン・カリシ作の「Israel」、美しいバラード「Elsa」、そしてエヴァンスが生涯弾き続けることになるマイルス・デイヴィス作の「Nardis」と、後のレパートリーにつながる重要曲がそろっています。
『Sunday at the Village Vanguard』と『Waltz for Debby』|1961年6月25日の奇跡
この2枚は、1961年6月25日にニューヨークのジャズクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」で行われた同じ日のライブから生まれた姉妹盤です。「Featuring Scott LaFaro」と副題のついた『Sunday at the Village Vanguard』は、ラファロ作の「Gloria’s Step」で始まり「Jade Visions」で終わる、ベースを主役に据えた選曲。『Waltz for Debby』は、冒頭の「My Foolish Heart」をはじめ、ピアノの美しさとトリオ全体のバランスを楽しめる選曲です。2枚あわせて聴けば、黄金トリオが残した一日を丸ごと味わえます。
そして、この録音のわずか11日後。ベースのスコット・ラファロは自動車事故により、25歳の若さで世を去りました。ニューヨークのクラブの何気ない日曜日が、二度と戻らない瞬間になってしまったと知ると、グラスの音の向こうで鳴るベースの一音一音が、違って聴こえてくるのではないでしょうか。
【デビュー期〜ヴァーヴ期】エヴァンスの個性が花開いた名盤4枚
黄金トリオの前後にも、ビル・エヴァンスのおすすめアルバムは数多くあります。ここでは、若き日の代表作から、ラファロの死を乗り越えて表現を広げていった1960年代の名盤までを4枚紹介します。
『Everybody Digs Bill Evans』(1958年)|「Peace Piece」を生んだ出世作
1958年12月15日録音の『Everybody Digs Bill Evans』は、ソロピアノの名曲「Peace Piece」を収めたリヴァーサイド作品です。サム・ジョーンズ、フィリー・ジョー・ジョーンズとのトリオ演奏に加え、セッションの最後に即興で生まれたという「Peace Piece」は、同じ伴奏音型の上で右手が自由に広がっていく瞑想的な作品で、水面に反射する光のようなピアノの音色を堪能できます。ジャケットには、マイルス・デイヴィスやジョージ・シアリングら大物ミュージシャンの賛辞がずらり。タイトルの「Everybody Digs(みんなが夢中)」は誇張ではなかったのです。
『Kind of Blue』(1959年・マイルス・デイヴィス)|ジャズ史を変えた参加作
『Kind of Blue』はマイルス・デイヴィスのアルバムですが、ビル・エヴァンスを語るうえで外せない1枚です。エヴァンスは1958年にマイルスのバンドに抜擢され、翌1959年、モードジャズの幕開けを告げたこの歴史的名盤の録音に参加しました。ライナーノーツの執筆もエヴァンスが担当し、「Blue in Green」の作曲への深い関与も語られています。米議会図書館の録音遺産にも登録された「ジャズ史上最高のアルバム」の静けさの中心に、エヴァンスのピアノがあります。モードジャズについてはモードジャズとは何かを図解した記事で詳しく紹介しています。
『Undercurrent』(1962年)|ジム・ホールとの静謐なデュオ
『Undercurrent』は、ギタリストのジム・ホールとのデュオによる、ジャズデュオの金字塔です。水面に浮かぶ女性を捉えたジャケット写真でも有名な1枚。ドラムもベースもいない分、ピアノとギターの音の重なりがくっきりと浮かび上がります。実は、同じように単音も和音も弾けるピアノとギターのデュオは音がぶつかりやすく、ジャズでも珍しい編成です。冒頭「My Funny Valentine」の驚くほど速いテンポでの丁々発止、そして「Skating in Central Park」の絶妙な間と柔らかな絡み。緊張感と静けさが同居する、都会の夜によく似合うアルバムです。
『Conversations with Myself』(1963年)|多重録音でグラミー賞に輝いた意欲作
1963年の『Conversations with Myself』(ヴァーヴ)は、1人で最大3つのピアノパートを重ねて録音した実験作で、エヴァンスに初めてのグラミー賞をもたらしました。邦題は『自己との対話』。自分自身と対話するように重ねられたピアノは音の密度が高く、トリオともソロとも違う立体的な響きを生んでいます。エヴァンスが「静かな詩人」であると同時に、新しい表現を探し続けた挑戦者だったことがよくわかる1枚です。
【晩年】深い叙情にたどり着いたビル・エヴァンスの名盤2枚
1960年代後半から晩年にかけてのビル・エヴァンスは、長年の相棒となるベーシスト、エディ・ゴメスを得て、叙情をいっそう深めていきます。躍動の『At the Montreux Jazz Festival』と、遺作として届いた『You Must Believe in Spring』。対照的な2枚を聴き比べてみてください。
『At the Montreux Jazz Festival』(1968年)|「静かなエヴァンス」の先入観をくつがえすライブ
1968年6月15日、スイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルでのライブ録音で、こちらもグラミー賞を受賞しています。エディ・ゴメスの力強いベースと、若きジャック・ディジョネットの推進力あふれるドラムに乗って、エヴァンスが快活にスウィングする姿はまさに躍動そのもの。「エヴァンス=静かで内省的」というイメージを持っている方ほど、内に秘めた雄々しさに驚くはずです。
『You Must Believe in Spring』(1977年)|死後に届いた「遺言」のようなアルバム
『You Must Believe in Spring』は1977年8月にハリウッドのキャピトル・スタジオで録音され、エヴァンスの死後の1981年に発売された、晩年を代表する傑作です。エディ・ゴメス、エリオット・ジグモンドとのトリオによる演奏は、感傷と呼ぶにはあまりに透明で、静かに深く心へ降りてきます。
収録曲の背景を知ると、このアルバムの特別さがいっそう際立ちます。「B Minor Waltz」は先立った最初の妻エレインへの哀惜を込めた曲、「We Will Meet Again」は亡き兄ハリーを悼んでタイトルがつけられた曲。表題曲はミシェル・ルグランが映画『ロシュフォールの恋人たち』のために書いたナンバーで、ここで聴けるゴメスのベースソロを彼のキャリア最上のものと評する評論家もいます。ラファロ期の名盤の陰に隠れがちですが、個人のオールタイム・ランキングで本作を2位に推すファンがいるほど、聴いた人の心をつかんで離さない1枚です。
エヴァンスは1980年9月15日に世を去りました。実はその5日後、5度目の来日公演が始まる予定だったことをご存知でしょうか。来日はかないませんでしたが、その数カ月後、詫び状のようにこの遺作が日本のファンのもとへ届いたのです。
ビル・エヴァンスとは?「ジャズピアノの詩人」と呼ばれた生涯
ビル・エヴァンス(Bill Evans、本名ウィリアム・ジョン・エヴァンス)は、1929年8月16日にアメリカ・ニュージャージー州で生まれ、1980年9月15日に51歳で亡くなったジャズピアニスト・作曲家です。クラシックの素養と印象派的な和声感覚をジャズに持ち込み、「ジャズピアノの詩人」と呼ばれました。ハービー・ハンコック、チック・コリア、キース・ジャレットら後の世代のピアニストに与えた影響は計り知れません。
クラシックの教育と印象派の響き
エヴァンスは5歳でピアノ、7歳でバイオリンとフルートを始め、13歳でプロのバンドに参加したという早熟の音楽家でした。サウスイースタン・ルイジアナ大学でクラシックピアノを専攻し、のちにニューヨークのマネス音楽学校で作曲も学んでいます。ソロ曲「Peace Piece」がショパンやドビュッシー、サティ、ラヴェルの作品と比較され、クラシックのピアニストにも録音されているのは、この素養ゆえです。ドビュッシーの響きが好きな方は、ドビュッシー「月の光」の解説記事とあわせて聴いてみると、共通する色彩感に気づくかもしれません。
また、1950年代のジャズシーンはアフリカ系アメリカ人のミュージシャンが中心で、白人のエヴァンス(父はウェールズ系、母はスラブ系)は人種的に少数派でした。そのコミュニティの中である種の疎外感を抱えていたと言われており、内省的な音楽性の背景のひとつとして語られることがあります。
栄光と陰影|グラミー賞7回と波乱の私生活
エヴァンスは生涯でグラミー賞に31回ノミネートされ、7回受賞しています。一方で、私生活では薬物依存に長く苦しみ、ラファロの事故死をはじめ、近しい人の死にたびたび見舞われました。親友だった作家のジーン・リーズが、その生き方を「時間をかけた自殺」のようだったと評したことはよく知られています。繊細で内省的な演奏の奥には、こうした人生の陰影が確かに刻まれているのです。
今も広がるエヴァンス人気|映画・メガネ・発掘音源
ビル・エヴァンスの人気は、没後40年以上を経た今も広がり続けています。2015年には親族や共演者の証言をたどるドキュメンタリー映画『ビル・エヴァンス タイム・リメンバード』が制作され、映画『ラ・ラ・ランド』では、主人公のジャズピアニスト、セバスチャンの衣装デザインにエヴァンスからヒントを得たと衣装デザイナーが語っています。トレードマークだったメガネをイメージした製品が復刻されたり、存在すら知られていなかった未発表ライブ音源が今も続々と正規リリースされたりと、「現在進行形で発見が続くレジェンド」なのです。
ピアノを弾く人が注目したいビル・エヴァンスの3つの魅力

ビル・エヴァンスの名盤をピアノ弾きの耳で聴くなら、「ルートレス・ヴォイシング」「インタープレイ」「音色とダイナミクス」の3点に注目してみてください。この3つを知っているだけで、同じアルバムがまるで違って聴こえてきます。
魅力①:ルートレス・ヴォイシング
エヴァンスは、和音のいちばん下の音(ルート=根音)をベーシストにまかせ、ピアノでは省略して弾くことがよくありました。これをルートレス・ヴォイシングと呼びます。ルートを省くことで3度・7度とテンションの音だけが残り、濁りのない透明な響きが生まれるのです。上の図のように、Cメジャー7ならルートのドを省き、ミ・ソ・シ・レ(9thの音)を押さえるのが代表的な形。現在のジャズピアノの左手の基本形として世界中で学ばれています。コードの基礎はピアノコードの基本を解説した記事で確認できます。
【一次情報を追加:実際にエヴァンス風のヴォイシングを弾いてみて気づいたこと・難しかった点を1〜3文】
魅力②:トリオ3人のインタープレイ
インタープレイとは、演奏者同士が互いの音に即座に反応し合う「かけ合い」のことです。ラファロとモチアンとのトリオでは、ピアノが主役でベースとドラムが伴奏、という役割分担が崩れ、3人が対等に会話します。『Waltz for Debby』で、ピアノが休んでいる瞬間にベースがメロディのように動いているところを探してみてください。一度聴こえ始めると、もう「BGMとしてのジャズ」には戻れなくなります。
魅力③:弱音の音色とダイナミクス
エヴァンスの演奏は、決して大きな音で押し切りません。弱音の中での音色の変化や、和音の中のどの音を浮かび上がらせるかというコントロールが、あの「透明な」響きを生んでいます。ちなみに、評論家やジャズ喫茶のマスターの間には「エヴァンスの本質は明確なタッチのバップ・ピアニストで、耽美的な面はその一側面にすぎない」という見方もあります。晩年のライブ録音で豪快にスウィングするエヴァンスを聴くと、この指摘にもうなずけるはずです。弱音の詩人か、芯の強いバップ弾きか——ご自身の耳で確かめてみてください。
気分・シーン別|ビル・エヴァンスのおすすめアルバムの選び方
ビル・エヴァンスのおすすめアルバムは、聴く場面に合わせて選ぶと「ハズレ」がありません。編成(ソロ・デュオ・トリオ)と雰囲気(静か・躍動的)の2軸で整理してみましょう。冒頭のマトリックス図とあわせてご覧ください。
夜にひとりで静かに聴きたいとき
ソロやデュオの『Everybody Digs Bill Evans』(とくに「Peace Piece」)、『Undercurrent』、晩年の『You Must Believe in Spring』がおすすめです。楽器が少ない分、ピアノの響きそのものに浸れます。筆者がエヴァンスをいちばんよくかけるのも、夜にひとりで過ごす時間と移動中です。イヤホンで聴く『Undercurrent』は、夜の車窓によく合います。
トリオの醍醐味を味わいたいとき
『Waltz for Debby』『Sunday at the Village Vanguard』『Portrait in Jazz』『Explorations』のラファロとの4枚です。録音順(Portrait→Explorations→ライブ2枚)に聴いていくと、トリオの会話がどんどん自由になっていく様子がわかります。
元気が出る演奏を聴きたいとき
『At the Montreux Jazz Festival』のライブが一番です。ゴメスの力強いベースとディジョネットのドラムに乗って、エヴァンスが快活にスウィングします。「エヴァンス=静か」というイメージが気持ちよく裏切られる1枚です。
ビル・エヴァンスの名曲|アルバムとあわせて聴きたい4曲
ビル・エヴァンスの名曲を知っておくと、アルバム選びがさらに楽しくなります。自作曲とスタンダードの両方から、代表的な4曲を紹介します。
Waltz for Debby
エヴァンスが幼い姪のデビイのために書いたワルツです。『Waltz for Debby』のライブ版が定番で、軽やかな3拍子から途中で4拍子にスウィングしていく展開も聴きどころです。
Peace Piece
『Everybody Digs Bill Evans』収録のソロ曲です。同じ伴奏音型の上で右手が自由に広がっていく、瞑想的な作品です。
Blue in Green
『Kind of Blue』ではマイルス・デイヴィス作とクレジットされていますが、エヴァンスが作曲に深く関わったとされる曲です。ここではピアノの響きがよくわかる、『Portrait in Jazz』のトリオ版を紹介します。
My Foolish Heart
スタンダード曲です。『Waltz for Debby』の冒頭を飾るバラードで、音が消えていく瞬間まで聴かせる弱音の美しさが際立ちます。
※動画はビル・エヴァンス公式YouTubeチャンネルの音源です。
ジャズピアノの名曲をもっと知りたい方は、「Waltz for Debby」も紹介しているジャズピアノの名曲・有名な曲15選もあわせてご覧ください。
ビル・エヴァンスの名盤に関するよくある質問
ビル・エヴァンスのアルバム選びで迷いやすいポイントを、Q&A形式でまとめました。
Q. 『Waltz for Debby』と『Sunday at the Village Vanguard』はどちらが最高傑作?
日本では『Waltz for Debby』が圧倒的に人気ですが、海外のジャズファンの間では『Sunday at the Village Vanguard』を最高傑作に推す声も根強くあります。「エヴァンスを1枚だけ持つならこれ」と評されることもあるほどです。ピアノの美しさを味わうなら『Waltz for Debby』、トリオというバンドの到達点を味わうなら『Sunday〜』。同じ日の演奏だからこそ、聴き比べる楽しみがあります。
Q. 同じアルバムなのに収録曲が違うのはなぜ?
CDや配信で再発される際に、未発表の別テイクやボーナストラックが追加されることがあるためです。たとえば『Portrait in Jazz』は「枯葉」の別テイクが追加された版があり、『Waltz for Debby』もCD化の際に曲が加えられています。初めて聴くなら、オリジナルLPの曲順で聴くと、制作当時の意図が伝わりやすいでしょう。
Q. ジャズ初心者でもビル・エヴァンスは楽しめる?
楽しめます。エヴァンスの演奏は音量が控えめでメロディが美しく、クラシックやポップスを聴いてきた方にも入りやすいのが特徴です。まずは「My Foolish Heart」や「Waltz for Debby」のように、メロディがはっきりした曲から聴いてみてください。
Q. 10選を聴き終えたら、次は何を聴けばいい?
バラード中心の『Moon Beams』、軽快にスウィングする『How My Heart Sings!』、ソロの『Alone』あたりがおすすめです。『Moon Beams』と『How My Heart Sings!』は同時期の録音で、しっとり系と躍動系の対になった姉妹盤。『Alone』には約14分半かけて演奏される「Never Let Me Go」という、ソロピアノの真骨頂のような名演が収められています。晩年が気に入った方は『I Will Say Goodbye』へ。エヴァンスは約80作ものアルバムを残しているので、10選はあくまで入口です。
まとめ|ビル・エヴァンスの名盤は『Waltz for Debby』から
- 最初の1枚は?:1961年のライブ『Waltz for Debby』。次は同じ日の姉妹盤『Sunday at the Village Vanguard』、同じトリオのスタジオ録音『Portrait in Jazz』へ。
- 時代による違いは?:ラファロと対話した黄金トリオ期、多重録音などに挑んだヴァーヴ期、ゴメスと深い叙情にたどり着いた晩年。年表と録音順に聴くと変化がよくわかります。
- ピアノ弾きの注目点は?:ルートレス・ヴォイシング、トリオのインタープレイ、弱音のコントロールの3つです。
筆者がいちばん長く付き合ってきたのも、やはり『Waltz for Debby』です。【一次情報を追加:この1枚を推す理由・聴き続けて変わった感じ方を1〜3文】
ビル・エヴァンスの名盤は、聴くたびに新しい発見がある「一生付き合えるアルバム」ばかりです。この記事で紹介したおすすめアルバムと図解を参考に、まずは1枚、夜の静かな時間にじっくり耳を傾けてみてください。ほかのジャズピアニストも知りたい方は入門ジャズの歴史と有名アーティストの記事もどうぞ。
弾いてみたい方へ
「Waltz for Debby」のような美しいジャズピアノを、自分でも弾いてみたくなった方は、オンラインのレッスンでジャズのコードやヴォイシングを基礎から教わる方法もあります。
\エヴァンスの響きを自分の指で/