英雄ポロネーズの難易度は、全音ピアノピースでF(上級上)、ドイツ・ヘンレ社の9段階評価で8です。堂々とした主題が鳴り響いた瞬間、「この曲が弾けたら、どんなに気持ちいいだろう」と感じたことはありませんか。英雄ポロネーズは、ショパンの作品の中でもとりわけ華やかで、ピアノを習う人の「いつか弾きたい曲」として真っ先に名前が挙がる1曲です。
ただ、全181小節・約7分の間、強い和音、オクターヴ、広い跳躍がほとんど休みなく続きます。実際に弾いた人の体感評価は10段階で「9」、知恵袋には「子どもの頃から習っても弾けるのは5〜10人に1人」という声もあるほどで、英雄ポロネーズは指の技術だけでなく、体力と音の配分まで問われる「総合力」の曲です。
- 英雄ポロネーズは実際どのくらい難しいの?幻想即興曲や革命のエチュードと比べると?
- 中間部の左手のオクターヴ「ミ・レ♯・ド♯・シ」は、どう練習すれば最後まで持つの?
- ピアノを始めて何年目なら挑戦できる?弾ける人はどのくらいのレベル?
この記事では、全音ピアノピース・ヘンレ社の公式評価と、実際に英雄ポロネーズを弾いた愛好家・ピアノ講師の記録(知恵袋の回答7件、8か月の練習日記、10段階評価ブログなど)の両方から、英雄ポロネーズの位置を確かめます。そのうえで、小節番号つきの難所マップ、中間部の左手から攻略する練習ステップ、挑戦してよいタイミングの判断基準までをまとめました。中級以上で、いつか英雄ポロネーズを弾きたいと考えている方、大人になって再開し、大きな目標を探している方に向けた内容です。
※本記事は一部PRを含みます
- 1 英雄ポロネーズの難易度は全音F・ヘンレ8|公式指標と弾いた人の体感
- 2 英雄ポロネーズの難しいポイント5つ|小節番号で見る難所マップ
- 3 英雄ポロネーズは何年目で弾ける?経験者の声とポロネーズの階段
- 4 英雄ポロネーズの練習ステップ|中間部の左手から攻略する
- 5 英雄ポロネーズを8か月で発表会に乗せた講師の記録|実際のペースを知る
- 6 英雄ポロネーズが弾ける人のレベル|幻想即興曲・革命・バラードと比べる
- 7 初心者・大人が英雄ポロネーズを目標にするなら
- 8 英雄ポロネーズの背景|「英雄」の名前と1842年のショパン
- 9 英雄ポロネーズの難易度に関するよくある質問
- 10 まとめ|英雄ポロネーズの難易度を知って、階段を1段ずつ上ろう
英雄ポロネーズの難易度は全音F・ヘンレ8|公式指標と弾いた人の体感

英雄ポロネーズの難易度は、全音ピアノピースのA〜F(6段階)で最上位のF(上級上)、ヘンレ社の1〜9の評価では8(難しい)です。ショパンのポロネーズの中では、幻想ポロネーズと並んで最も難しいグループに入ります。まずは公式の指標と、実際に弾いた人の体感を並べて、英雄ポロネーズの立ち位置を確かめましょう。
全音・ヘンレ・愛好家の10段階評価をポロネーズで比べると
英雄ポロネーズの難易度を、ショパンの有名なポロネーズと並べると次のようになります。公式の2指標に加えて、楽譜販売サイトが独自に付けた10段階評価も参考として載せました。
| 曲 | 全音ピアノピース | ヘンレ社(1〜9) | 楽譜サイト独自評価(1〜10) |
|---|---|---|---|
| 軍隊ポロネーズ(作品40-1) | E(上級) | 5 | 5 |
| ポロネーズ 嬰ハ短調(作品26-1) | - | 6 | 6 |
| ポロネーズ 嬰ヘ短調(作品44) | - | 7 | 9 |
| 英雄ポロネーズ(作品53) | F(上級上) | 8 | 9 |
| 幻想ポロネーズ(作品61) | F(上級上) | 8 | 9 |
| アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ(作品22) | - | 9 | 8 |
出典:全音ピアノピース「難易度から探す」(全音楽譜出版社)、G. Henle Verlag「Polonaises」、楽譜販売サイト(chopin-shopping.com)の難易度評価ページ。いずれも2026年10月時点。「-」は全音ピアノピースの難易度別一覧に掲載がないもの
ヘンレ社の評価で見ると、軍隊ポロネーズ(5)から英雄ポロネーズ(8)までは3段階の差があります。同じ「ポロネーズ」でも、軍隊ポロネーズが弾けたからといって、すぐに英雄ポロネーズに届くわけではないことが分かります。なお、ヘンレ社の評価では革命のエチュードやバラード第1番も8で、英雄ポロネーズと同じ段階です。
弾いた人の体感は「10段階で★9」「10人に1人」
公式の指標だけでなく、実際に英雄ポロネーズに取り組んだ人の体感も見ておきましょう。20数年ぶりにピアノを再開して英雄ポロネーズに挑戦した愛好家のsomalica氏は、自身の10段階評価で★9(★10は「弾けるようになる気がしない曲」として空けている)を付け、「なんとか最後まで弾き通すことはできるが、時間をかけても限界がある」レベルだと述べています。同氏の評価では、幻想即興曲と革命のエチュードが★7、スケルツォ第2番が★8です。
Yahoo!知恵袋の「英雄ポロネーズを弾ける人のレベルは?」という質問には、「子どもの頃から習って途中で脱落しなければ、弾けるのは5人か10人に1人」「音大生でも弾けない人がいる」という回答が並ぶ一方で、ベストアンサーは「音大生でも弾けない人がいる難曲だが、手が届かない曲ではない」と結んでいます。全音F・ヘンレ8という公式評価と、経験者の「★9・10人に1人」という体感は、おおむね一致していると考えてよいでしょう。
英雄ポロネーズの基本情報|作品53・変イ長調・全181小節・約7分
英雄ポロネーズは、ショパンが1842年に作曲し、1843年に出版した「ポロネーズ 変イ長調 作品53」です。3/4拍子、全181小節で、演奏時間は約6分半〜7分半。ショパンの友人であった銀行家オーギュスト・レオに献呈されています。
曲は、約30秒の序奏(1〜16小節)から始まり、有名な主題、華やかな経過部、左手のオクターヴが続く中間部(トリオ)、主題の再現、コーダへと進みます。ポロネーズとは、ポーランドの貴族が儀式や宮廷で踊った、威厳ある歩みのような3拍子の舞曲で、「タン・タタ・タン・タン・タン・タン」のような特徴的なリズムが曲の土台になっています。英雄ポロネーズの面白いところは、左手だけを見るとポロネーズのリズムを刻んでいないように見えて、右手と合わせると初めてリズムが完成する書き方になっている点です。
\弾きたい曲を1曲ずつ完成させる/
マナビーノの特徴や料金はマナビーノの評判・口コミでまとめています。
英雄ポロネーズの難しいポイント5つ|小節番号で見る難所マップ

英雄ポロネーズの難所は、経験者の声を集めると序奏の4度の重音、主題の和音と跳躍、両手ユニゾンの音階、中間部の左手オクターヴ、そして弱音とコーダのスタミナの5つに集約されます。どれも「強く弾く」ことが求められる場面ですが、力まかせに弾くと音が濁り、体力も続かない点で共通しています。小節番号で先に知っておくと、譜読みの段階から練習の配分を決められます。
難所①:序奏の4度の重音(1〜16小節)|「譜読みは易しいのに曲にならない」
英雄ポロネーズの序奏では、4度の重音(ドとファのように4度離れた2つの音を同時に弾くこと)が半音ずつ上がっていく音型が現れます。指を素早く入れ替えながら重音を移動させる必要があり、最初の30秒から上級の技術が求められます。
意外なことに、経験者が「いちばん苦労した」と挙げるのは、この序奏です。somalica氏は「譜読み自体は難しくないが、どう弾いたら曲になるのかが分からず、今も一番苦労している」と述べ、特に9小節目と13小節目の指使いが難しいとしています。ピアノ講師のスカラー氏も、譜読み1か月目の時点で「出だしの1ページ」に苦戦したと記録しています。版によって指使いが異なるので、自分の手に合う指番号を探して書き込むこと、1音ずつ狙うのではなくフレーズの頂点に向かって一息で進むことがポイントです。
難所②:主題の和音と左手の跳躍(17小節〜)|4回出てくる「顔」の精度
17小節目から始まる有名な主題は、右手の厚い和音と、左手の低音から和音への大きな跳躍でできています。和音の数が多く、手を大きく開いた状態が続くため、手首や前腕が固まりやすい部分です。左手は鍵盤の広い範囲を行き来するので、鍵盤を見なくても位置をつかめる感覚も必要になります。
この主題は、形を少しずつ変えながら曲中に何度も戻ってきます。somalica氏が「ここの出来が全体の印象を左右する」と言うとおり、主題は英雄ポロネーズの「顔」です。知恵袋の回答にも「迫力が必要で、一つのミスで音が濁りやすい」とあるように、強さより正確な和音のつかみ方と、上の音(旋律)を聴かせることが大切です。
難所③:両手ユニゾンで駆け上がる音階と、弱い指のトリル
主題の合間や経過部には、両手がユニゾン(同じ音型)で駆け上がる速い音階、オクターヴの音階、弱い指(4・5の指)でのトリル(2つの音をすばやく交互に弾く装飾)が出てきます。知恵袋では「冒頭の右手オクターヴのプラルトリル(短い装飾音)」や「中間部の3度の両手スケール」を難所に挙げる声もありました。
ユニゾンの音階は、指使いを厳守してゆっくり練習し、「くぐらせる1の指」には重みをかけず、「かぶせる4の指」を素早く運ぶのがコツです。左右を別々に練習してからタイミングをそろえましょう。クレッシェンドは指で強くかけすぎるより、素早く弾き飛ばしたほうがかっこよく聴こえます。
難所④:中間部の左手オクターヴ「ミ・レ♯・ド♯・シ」(83小節〜)|最大の難所
英雄ポロネーズで最も有名な難所が、81小節目から始まる中間部(トリオ)の左手です。6つの力強い和音のあと、83小節目から左手がオクターヴで「ミ・レ♯・ド♯・シ」と下降する音型を何度も繰り返します。最初はsotto voce(ささやくように)という指示のとおり、とても弱い音量から始まり、少しずつ大きくなっていくため、速さを保ったまま音量をコントロールし続けることが求められます。
この左手オクターヴについて、経験者の声は驚くほど一致しています。somalica氏は「脱力が必要と分かっていても、思うように弾けない」、スカラー氏は4か月目に着手した時点で「左腕がパツパツに張る」と記録し、楽曲分析をしたRyo Sasaki氏は「ピアニッシモで弾くのが非常に難しく、腕に力が入ると弾けなくなる」として、この弱音の区間を最大の関門に挙げています。この部分をどう練習するかが、英雄ポロネーズを最後まで弾き切れるかの分かれ目です。
難所⑤:中間部後半の静かな部分と、コーダのスタミナ
左手のオクターヴが終わると、調性が不安定なまま静かに漂う部分(中間部後半)が続き、やがて主題が最後に戻ってきてコーダ(終結部)で華やかに締めくくられます。スカラー氏は147小節目付近で「音が消えていくのでソフトペダルを踏む」工夫を記録しており、ここは大きな音の直後に繊細さを求められる、集中力の切れやすい区間です。
そしてコーダは、約7分弾き続けたあとに訪れる「最後の全力」です。最初から全力で弾いていると、ここで腕が持ちません。内声や重要でない伴奏部分で意識的に力を抜き、終盤の爆発力を取っておくことが、英雄ポロネーズを最後まで「曲」として聴かせるための準備になります。
英雄ポロネーズは何年目で弾ける?経験者の声とポロネーズの階段

「英雄ポロネーズはピアノを始めて何年目で弾けるのか」という疑問に、年数だけで答えることはできません。練習時間や子どもの頃の経験によって、同じ年数でも弾ける曲は大きく違うからです。ただ、公開されている経験談を集めると、子どもの頃から続けていれば中学〜高校生、普通に練習してきた人なら10年以上というひとつの目安が見えてきます。
「中学生で弾けた」「10年以上は必要」|経験者の声を集めると
Yahoo!知恵袋の回答には、具体的な例がいくつか挙がっています。ベストアンサーの回答者は子どもの頃からピアノを習い、中学生で英雄ポロネーズが弾けるようになったそうです。ただし今振り返ると「指は動くけれど音楽はわかっていなかった」と感じており、曲の背景を理解して「悲しみを込めて華やかに」弾けるようになったのは、ずっと後のことだと述べています。別の回答者は、3歳からピアノを習い、中学2年生で幻想即興曲と並行して英雄ポロネーズを練習中だとしています。
一方、大人の愛好家のsomalica氏は「ピアノを始めて間もない人には難しく、普通に練習してきた人なら10年以上の経験が必要」と考え、「ショパンのエチュードを数曲弾いている人なら十分に対応できる」としています。同氏自身は高校生のときに先生から「まだ早い」と言われて諦め、20数年ぶりに再開してから目標にした曲です。つまり、「子どもなら習い始めて7〜10年で形になる人もいる。大人の再開組なら、ショパンのエチュード級に手が届いてから」というのが、経験者の声から読み取れる目安です。
ヘンレ評価で見る、英雄ポロネーズまでの階段
年数よりも確実な目安は、「いま弾けている曲」です。ヘンレ社の評価を使うと、ショパンのポロネーズだけで英雄ポロネーズまでの道のりが描けます。
| 段階 | ポロネーズ | ヘンレ社 | 身につくこと |
|---|---|---|---|
| 1段目 | 軍隊ポロネーズ(作品40-1) | 5 | ポロネーズのリズム、和音を堂々と鳴らす力 |
| 2段目 | ポロネーズ 嬰ハ短調(作品26-1)、ハ短調(作品40-2) | 6 | 強弱の対比、歌う部分との弾き分け |
| 3段目 | ポロネーズ 嬰ヘ短調(作品44) | 7 | 長い曲を弾き切る体力、左手の持続 |
| 目標 | 英雄ポロネーズ(作品53) | 8 | 総合力 |
出典:G. Henle Verlag「Polonaises」(2026年10月時点)
一般的には「軍隊ポロネーズの次は英雄ポロネーズ」と考えがちですが、ヘンレ社の評価では3段階の差があります。間にヘンレ6〜7のポロネーズを1曲はさむと、英雄ポロネーズに必要な体力や強弱の対比を無理なく身につけられると、編集部は考えています。ポロネーズ以外では、全音Eの幻想即興曲や、ヘンレ8の革命のエチュードを経由するルートも定番です。
挑戦する前のセルフチェック
英雄ポロネーズに取りかかる前に、次の項目を確認してみてください。4つ以上当てはまれば、譜読みを始めてよい段階と考えてよいでしょう。
- 軍隊ポロネーズや全音Eランクの曲を、最後まで弾き通したことがある
- オクターヴが無理なく届き、オクターヴを連続して弾いても手首や腕に痛みが出ない
- 5分以上の曲を、集中を切らさずに通して弾いた経験がある
- 速い音階を、両手ともにある程度のテンポで弾ける
- 手首や腕に頼らず、指先で「芯のある音」(上から押さえつけるのではなく、瞬間的に鍵盤をとらえてすぐ力を抜く音)を出せる
- 半年〜1年、1つの曲に取り組み続ける計画を立てられる
当てはまる項目が2つ以下なら、表の1〜3段目のポロネーズや幻想即興曲を先に仕上げるのが近道です。ピアノ講師のブログでは「オクターヴが届かない場合は諦めたほうがよい」とはっきり書かれているほど、手の大きさは正直に向き合うべき条件です。
英雄ポロネーズの練習ステップ|中間部の左手から攻略する

英雄ポロネーズは長い曲なので、最も時間のかかる中間部の左手から練習を始めるのがおすすめです。主題は耳で覚えているぶん形になりやすく、後回しにしても追いつけます。ここでは、5つのステップと、難所ごとの具体的な練習法を紹介します。
5つのステップで全体を仕上げる
| ステップ | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1. 中間部の左手 | 左手のオクターヴの下降音型だけを、ゆっくり・小さな音で繰り返す | 回数を決めて区切る。痛みが出たらすぐ休む |
| 2. 主題 | 右手の和音と左手の跳躍を別々に練習してから合わせる | 和音は「弾く」より「落とす」感覚で。上の音(旋律)を少し強めに |
| 3. 序奏・経過部 | 4度の重音、ユニゾンの音階、トリルを部分練習する | 指番号を決めて書き込む。強弱は後回し |
| 4. つなげる | 部分と部分の「つなぎ目」を前後2小節ずつ重ねて練習する | つなぎ目で止まる癖をなくす |
| 5. 通しと体力配分 | 週に数回だけ全体を通し、どこで疲れるかを確認する | 毎回通さない。録音して聴き返す |
ステップ2の「和音は落とす感覚で」は、スカラー氏が自身の先生から言われた言葉です。同氏はほかにも「最初はゆっくり、1音1音を残さず確実に」「初歩の段階からスタッカートやスラーを守る」「強弱は後回し」という指針を記録しており、どれも英雄ポロネーズのように音の多い曲で崩れないための基本になっています。
中間部の左手オクターヴは「小さく・短く・重さで」
中間部の左手のオクターヴは、小さな音量で、短い区切りで、腕の重さを使って練習します。指先で鍵盤を叩くように弾くと、すぐに腕が疲れてしまいます。手首を柔らかく保ち、腕の重さを鍵盤に乗せるようにして、指は鍵盤から高く上げすぎないようにしましょう。
ピアノ講師のブログで紹介されている、オクターヴを鍛える練習例も役立ちます。
- オクターヴを分散させて、1→5、5→1の指を繰り返す
- 同じ音のオクターヴを連打する
- 半音ずつ、全音ずつ上下する
- 各16分音符の最初の音だけしっかり弾き、残りは力を抜く
疲れずに弾くコツとして同ブログが勧めているのが、黒鍵も白鍵も鍵盤の真ん中寄りで弾いて、手の上下の移動を小さくする方法です。ポジションとしては理想的ではないものの疲れにくく、手の小さい人ほど効果があります。手の大きい人は左手だけで弾き切れますが、手の小さい人は、右手に旋律のない2小節を左右で分担し、途中から左手だけにする方法も紹介されています。クレッシェンドは左手で無理に大きくせず、右手につられて自然に大きくなるものと考えると、音が割れず左手も疲れません。
和音の跳躍は「横に飛ぶ」「先に目を送る」
主題の左手の跳躍は、上に飛ぶのではなく横に素早く移動して、次の和音の準備を先に済ませる練習をします。前の和音を弾いた直後に手を次の位置へ運び、着地点へ先に視線を送っておくと、ミスが減ります。左手の動きには規則性があるので、左手だけを集中して練習する時間を作りましょう。
強弱の設計図とペダルの工夫で体力を配分する
英雄ポロネーズを最後まで弾き切るには、曲全体の強弱の設計図を持つことが大切です。すべてをフォルテで弾くと、聴き手にとっても単調になり、弾き手の体力も持ちません。楽譜に書かれた弱い部分をしっかり弱く弾くことで、主題が戻ってきたときの迫力が際立ち、体力も温存できます。
8か月かけて英雄ポロネーズを仕上げたスカラー氏は、小節ごとの工夫を記録しています。たとえば「17小節目でペダルを切る」「23小節目でためる」「27小節目は「ソ」と「ラ」に重心をかけ、トリルは細部よりリズムを優先」「83小節目の「ミ・レ♯・ド♯・シ」は1回目だけソフトペダルを入れ、2回目は外す」といった具合です。こうした書き込みを楽譜に残しておくと、通し練習のたびに同じ配分で弾けるようになります。
独学で行き詰まったら、手の使い方を見てもらう
英雄ポロネーズは、手首の使い方や腕の重さの乗せ方など、文章だけでは伝わりにくい技術が多い曲です。スカラー氏は先生の言葉について「何となく理解できるが、すぐには実践できず辛い」と正直に書いており、somalica氏も当初は独学で、その後に先生に師事しています。前腕が固くなる、手首が痛む、同じ箇所で何か月も止まる、といったサインが出たら、手の使い方を目で見て確認してもらうのが近道です。独学の限界を感じたときの目安はピアノ独学の限界はどこ?で整理しています。
\左手の使い方を体験レッスンで見てもらう/
▶椿音楽教室の無料体験レッスンで「英雄ポロネーズを弾きたい」と相談する
教室の特徴は椿音楽教室の評判・口コミで紹介しています。
英雄ポロネーズを8か月で発表会に乗せた講師の記録|実際のペースを知る

英雄ポロネーズにどのくらいの期間がかかるのか、最もリアルに分かるのが、ピアノ講師のスカラー氏が公開している8か月分の練習日記です。音大出身ではない同氏は、いちばん好きな曲でありながら「自分が弾くのはおこがましい」とためらっていた英雄ポロネーズに、年齢を重ねて「ミスをしても自分なりの演奏ができればよい」と考えるようになり挑戦しました。練習は平日5日、1日平均1時間(30分〜1時間半)です。
月別タイムライン|譜読み完了は5か月目、暗譜は6か月目
| 時期 | 進捗 | 状況・難所 |
|---|---|---|
| 1か月目 | 2ページまで | 出だしの1ページに苦戦。超ゆっくりなら両手で弾ける |
| 2か月目 | 主題(サビ)まで到達 | 初めて主題を弾いたときは感動 |
| 3か月目 | 停滞 | 気持ちが乗らず、弾いた箇所の反復が中心 |
| 4か月目 | 中間部の左手「ミ・レ♯・ド♯・シ」に着手 | 左腕がパツパツに張る |
| 5か月目 | 譜読みが最後まで完了 | 夏の発表会が決まり一気に加速。最終ページの出来は最悪 |
| 6か月目 | 初めての暗譜 | 左手の脱力が分かってきた。形ができた分、課題が明確に |
| 7か月目 | 演奏が崩れる | 練習が嫌になり、毎日練習から逃げる。「もうこれでいいか」 |
| 8か月目 | 本番(夏の発表会) | 途中から弾き始める練習、ミス時の再開地点を準備。自己評価は「ミスタッチの多い演奏」 |
出典:京都はんなりピアノ教室「英雄ポロネーズ練習日記」1か月目〜まとめ記事(2016年)をもとに編集部が整理
記録から分かる3つのこと
この記録から、英雄ポロネーズに挑戦する人が知っておきたいことが3つ見えてきます。
- 譜読みだけで5か月かかる:ピアノ講師でも、1日1時間の練習で最後のページにたどり着くまで5か月。序奏(1か月)と中間部の左手(4か月目〜)が時間の壁になっています。
- 「暗譜してから」が本番:6か月目に暗譜して初めて「課題が明確になった」とあるように、形になってからが音楽づくりの本番です。知恵袋のベストアンサーが「弾けたようで弾けていなかった」と振り返っていたのと同じ構図です。
- 7か月目の落ち込みは誰にでも来る:同氏は1か月目の時点で「3、4か月経つと言い訳をしそう」と予測し、それを乗り越えるために日記を書いていました。練習が苦痛になる時期を織り込んでおくことが、完走のコツです。
英雄ポロネーズを「半年で仕上げる」のではなく、「譜読み半年+仕上げ数か月」の1年計画で考えると、現実的な見通しが立ちます。
英雄ポロネーズが弾ける人のレベル|幻想即興曲・革命・バラードと比べる

英雄ポロネーズを最後まで弾ける人は、全音F・ヘンレ8という評価が示すとおり、アマチュアとしてはかなり上級のレベルにあります。ただし「弾ける」の中身には段階があり、ほかの有名曲と比べると難しさの「種類」が違うことも分かります。
英雄ポロネーズと幻想即興曲・革命のエチュードの違いは「技術の種類の多さ」
英雄ポロネーズとよく比べられるのが幻想即興曲と革命のエチュードです。全音ピアノピースでは幻想即興曲がE(上級)、革命のエチュードと英雄ポロネーズがF(上級上)。ヘンレ社の評価でも、幻想即興曲が7、革命と英雄ポロネーズがともに8です。
経験者の体感もこの順序を支持しています。somalica氏の10段階評価は幻想即興曲★7・革命★7・英雄★9で、知恵袋でも「幻想即興曲のほうが比較的弾きやすい」という中学生の回答がありました。違いは、難しさが続く長さと、求められる技術の種類にあります。幻想即興曲は5分前後、革命のエチュードは約3分で、どちらも1つの技術(右手の速いパッセージ、左手の16分音符)が中心です。英雄ポロネーズは約7分の間に、重音・和音・跳躍・オクターヴ・音階と、求められる技術が次々に入れ替わります。「どれか1つが得意」では弾き切れないことが、英雄ポロネーズを弾ける人が上級者とされる理由です。
一方で、知恵袋の回答には「ショパンの大規模な曲の中では、演奏技術・表現ともに比較的弾きやすいほう」という意見もありました。実際、somalica氏はスケルツォ第2番を★8、ヘンレ社はバラード第1番を英雄ポロネーズと同じ8、作品22の大ポロネーズを9と評価しています。経験者の比較をまとめると、おおむね次の序列になります。
| 英雄ポロネーズより易しいとされる曲 | 同じくらいとされる曲 | より難しいとされる曲 |
|---|---|---|
| 幻想即興曲/革命のエチュード/軍隊ポロネーズ/ノクターン第2番/スケルツォ第2番(体感★8) | バラード第1番(ヘンレ8)/幻想ポロネーズ(ヘンレ8)/ポロネーズ 嬰ヘ短調 作品44(独自評価9) | アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 作品22(ヘンレ9)/木枯らしのエチュード(ヘンレ9) |
ショパンの大曲同士の比較はショパン バラードの難易度比較やショパン エチュード難易度ランキング【全24曲】も参考にしてください。
「形になる」と「弾ける」は違う
英雄ポロネーズの場合、「音を間違えずに最後までたどり着く」ことと、「曲として聴かせられる」ことの間には大きな差があります。知恵袋のベストアンサーが中学生の自分を「指は動くけれど音楽はわかっていなかった」と振り返り、スカラー氏が8か月後の本番を「ミスタッチの多い演奏」と評したように、経験者ほどこの差に正直です。次の3つの段階で考えると、自分の現在地が分かりやすくなります。
- 段階1:形になる…テンポを落とせば、止まらずに最後までたどり着ける
- 段階2:弾ける…中間部の左手を含め、ほぼ指定のテンポで崩れずに弾き切れる
- 段階3:聴かせられる…強弱の設計があり、和音が濁らず、ポロネーズのリズムが生きている
自分の演奏を録音して確かめる
英雄ポロネーズのように音量の大きな曲は、弾いている本人には音の濁りやリズムの乱れが聞こえにくいものです。スマートフォンで構わないので、通し練習を録音して聴き返してみましょう。中間部で左手のテンポが落ちていないか、和音の旋律の音が聴こえているか、クレッシェンドが早すぎないかの3点を確認するだけでも、次に練習すべき場所がはっきりします。
初心者・大人が英雄ポロネーズを目標にするなら
大人になってからピアノを始めた方が英雄ポロネーズを目標にすること自体は、まったく問題ありません。実際、紹介した2人の愛好家・講師はどちらも大人になってから挑戦しています。ただし、英雄ポロネーズを「いつか弾く曲」として据えたうえで、そこまでの道のりを区切ることが大切です。
まずは主題の部分だけを目標にする
英雄ポロネーズの有名な主題の部分だけを、まずは目標に設定してみましょう。主題だけでも和音・跳躍・ポロネーズのリズムという曲の核心に触れられます。スカラー氏も2か月目に「初めてサビを弾いたときは感動した」と記しています。テンポを落としてでも主題が弾けるようになると、「この曲を弾いている」という実感が得られ、その後の長い練習の支えになります。
軍隊ポロネーズで「ポロネーズの体」をつくる
全音E、ヘンレ5の軍隊ポロネーズは、英雄ポロネーズの準備として最適な1曲です。堂々とした和音とポロネーズのリズムを、英雄ポロネーズより短い曲で身につけられます。大人がピアノを難しく感じる理由と向き合い方については大人がピアノを「難しい」と感じる本当の理由、ブランクからの再開の進め方は大人のピアノ再開は何から始める?もあわせて読んでみてください。
ひとりで行き詰まったら、曲単位で学ぶ方法も
英雄ポロネーズは、手首の使い方や腕の重さの乗せ方など、文章だけでは伝わりにくい技術が多い曲です。弾きたい曲が決まっている方は、1曲を完成させることを目的に、講師の解説を見ながら練習できる講座を使うのも1つの方法です。
\憧れの曲を最後まで弾き切る/
マナビーノの特徴や料金はマナビーノの評判・口コミでまとめています。
英雄ポロネーズの背景|「英雄」の名前と1842年のショパン

英雄ポロネーズという名前は、ショパン自身が付けた題名ではありません。正式な題名は「ポロネーズ 変イ長調 作品53」で、ショパンは曲に描写的な題名を付けることを好みませんでした。背景を知っておくと、曲の堂々とした性格をどう表現するかのヒントになります。
ジョルジュ・サンドの言葉と、祖国ポーランドへの思い
英雄ポロネーズの愛称は、ショパンの恋人だった作家ジョルジュ・サンドが、この曲に不屈の精神と雄大なエネルギーを感じ取り、英雄的なものの象徴になるべきだという趣旨の言葉を残したことと結びつけて語られます。「英雄」という呼び名は後の時代に定着したものです。
1842年当時、ショパンの故郷ポーランドはロシア・プロイセン・オーストリアによる分割支配下にあり、民族蜂起が繰り返されていました。パリで暮らすショパンにとって、ポロネーズは祖国の誇りを表現する特別な形式であり、子どもの頃から晩年の幻想ポロネーズまで、生涯を通じてこのジャンルに取り組んでいます。聴衆がこの力強い音楽に独立を願う戦士の姿を重ねたことが、「英雄」の愛称が定着した背景だといわれます。
体調を崩しながら書かれた、円熟期の大作
英雄ポロネーズが作曲された1842年は、パリで活躍していたショパンの円熟期にあたり、バラード第4番やスケルツォ第4番と同じ時期の作品です。一方でこの頃のショパンは結核で体調を崩しがちで、決して万全の状態ではありませんでした。故郷の苦境と自身の病という状況の中で、これほど堂々とした曲が書かれたことを思うと、主題の堂々とした響きの意味が見えてきます。ショパンの生涯と代表曲についてはショパンとは?生涯・代表曲の解説で紹介しています。
聴き比べたい名演|テンポと左手の違いを聴く
英雄ポロネーズは、ピアニストによって演奏時間が6分台から7分台まで幅があり、聴き比べると「自分がどんな英雄ポロネーズを弾きたいか」が見えてきます。愛好家・講師のブログでよく挙げられる演奏をまとめました。
- アルトゥール・ルービンシュタイン:気品ある王道の演奏。まず基準にしたい1枚
- ウラディーミル・アシュケナージ:標準的なテンポと表現で、学習の参考にしやすい
- シプリアン・カツァリス:力強くのびのびとして、普段は目立たない内声を強調する個性的な演奏。「理想」に挙げる講師も
- サンソン・フランソワ:即興性と独特のリズム感
- 仲道郁代:ショパンの時代のプレイエル製ピアノで、リズムより旋律を重視したしなやかな演奏
- 反田恭平:完璧な技巧と、曲の内面にある哀しさを描く現代の名演
中間部の左手オクターヴのテンポと音量の始め方は、演奏者による違いが最もはっきり出る部分です。自分の練習の参考として、2〜3人を聴き比べてみてください。
英雄ポロネーズの難易度に関するよくある質問
Q. 手が小さくても英雄ポロネーズは弾けますか?
オクターヴが無理なく届くことが前提条件です。ピアノ講師のブログでは「届かない場合は諦めたほうがよい」とはっきり書かれています。届くけれど余裕がない方は、鍵盤の真ん中寄りで弾いて移動を小さくする、中間部の一部を右手と分担する、といった工夫で演奏している方もいます。指導者と相談しながら、無理のない形を探してみてください。
Q. 英雄ポロネーズと幻想即興曲はどちらが難しいですか?
英雄ポロネーズのほうが難しいと考えてよいでしょう。全音ピアノピースでは幻想即興曲がE、英雄ポロネーズがF、ヘンレ社では7と8です。両方に取り組んだ愛好家の10段階評価でも★7と★9、知恵袋でも「幻想即興曲のほうが弾きやすい」という声がありました。幻想即興曲は英雄ポロネーズの前に弾いておきたい定番の1曲です。
Q. 英雄ポロネーズを1曲仕上げるのに何か月かかりますか?
ピアノ講師が1日1時間・平日5日の練習で、譜読み完了まで5か月、暗譜まで6か月、発表会で演奏するまで8か月かかった例があります。「ミスタッチの多い演奏」という本人の評価を考えると、納得のいく仕上がりには1年前後を見込むのが現実的です。
Q. 主題(サビ)の部分だけなら、どのくらいの難易度ですか?
主題だけでも、厚い和音と左手の跳躍、ポロネーズのリズムが詰まっているため、全音Eの軍隊ポロネーズと同程度かそれ以上の難しさがあります。ただし序奏の4度の重音や中間部の左手オクターヴに比べれば、はるかに取り組みやすい部分です。「まず主題だけ」は、大人の学習者にとって現実的な目標設定です。
Q. 英雄ポロネーズは本番向きの曲ですか?
難所が多く、指を休ませる場所がほとんどないため、「聴くのは素敵だが本番では弾きたくない曲の1つ」と正直に書くピアノ講師もいます。本番で弾くなら、途中から弾き始める練習や、ミスをしたときの再開地点をあらかじめ決めておく準備が欠かせません。
まとめ|英雄ポロネーズの難易度を知って、階段を1段ずつ上ろう
この記事では、英雄ポロネーズの難易度を、公式指標・経験者の体感・小節単位の難所・8か月の練習記録から解説しました。冒頭の疑問に答えると、次のようになります。
- 英雄ポロネーズはどのくらい難しい?:全音ピアノピースでF(上級上)、ヘンレ社で8、経験者の体感で★9。幻想即興曲・革命のエチュードより上で、約7分の間に上級の技術が次々に入れ替わる「総合力」の曲です。
- 中間部の左手はどう練習する?:83小節目からの「ミ・レ♯・ド♯・シ」は、sotto voceの指示どおり小さな音量から、短い区切りで、腕の重さで。鍵盤の真ん中寄りで移動を小さくし、強弱の設計図をつくって体力を配分します。
- 何年目で弾ける?弾ける人のレベルは?:子どもなら中学〜高校生、大人なら10年以上やショパンのエチュード級が目安。年数より、軍隊ポロネーズ→作品26・44と階段を上れているかで判断します。講師でも譜読みに5か月、本番まで8か月かかっています。
英雄ポロネーズの難易度は高いですが、ポロネーズの階段を1段ずつ上り、譜読み半年・仕上げ数か月の1年計画で臨めば、大人になってから挑戦した人が発表会で弾いた例もあります。この記事で紹介した練習ステップを参考に、まずは中間部の左手のオクターヴを、ささやくような音で弾くところから始めてみてください。
▶ こちらの記事もあわせてどうぞ:幻想即興曲の難易度と練習の最短ルート/革命のエチュードの難易度と左手を鍛える練習法/ショパンの生涯と代表曲