モーツァルトの有名な曲・名曲15選|一度は聴いたことがある代表曲を一覧で紹介

モーツァルトといえば「なんとなく知っているけど、どこから聴けばいいかわからない」と思っている方も多いのではないでしょうか。

「名曲」「有名な曲」「代表曲」——呼び方はさまざまですが、この記事ではその全てをカバーしてご紹介します。

クラシック音楽の入門としてモーツァルトを選んだはいいものの、こんな疑問を持ったことはありませんか?

  • モーツァルトの有名な曲ってどれ?トルコ行進曲以外にも知りたい
  • ピアノ・オーケストラ・オペラ……どのジャンルから聴き始めればいい?
  • 「神童」と呼ばれた天才の、どこがそんなにすごいの?

この記事では、そんな疑問にまるごとお答えします。モーツァルトの生涯と音楽の特徴を押さえたうえで、初心者から上級者まで楽しめる名曲を厳選15曲ご紹介します。各曲のエピソードや聴きどころも丁寧に解説しますので、ぜひ最後までお付き合いください。

目次

モーツァルトの有名な曲・名曲15選【一覧表】

この記事で紹介する15曲を、作品番号とジャンルつきで一覧にしました。気になる曲から読み進めてください。

No. 曲名 作品番号 ジャンル ひとことで言うと
1 トルコ行進曲(ピアノ・ソナタ第11番 第3楽章) K.331 ピアノ曲 誰もが一度は耳にする軽快な行進曲
2 アイネ・クライネ・ナハトムジーク K.525 セレナード(弦楽合奏) 冒頭の数小節で「あの曲!」とわかる定番
3 交響曲第40番 ト短調 K.550 交響曲 哀しさと疾走感が同居する短調の名作
4 ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466 ピアノ協奏曲 ベートーヴェンも愛奏した劇的な短調の協奏曲
5 ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K.467 ピアノ協奏曲 夢見るような第2楽章で知られる
6 ピアノ協奏曲第23番 イ長調 K.488 ピアノ協奏曲 明るさの中に切なさがにじむ
7 歌劇「魔笛」 K.620 オペラ 超高音の「夜の女王のアリア」が有名
8 歌劇「フィガロの結婚」 K.492 オペラ 序曲だけでも楽しめる喜劇の傑作
9 アヴェ・ヴェルム・コルプス K.618 宗教曲(合唱) わずか46小節の清らかな合唱曲
10 レクイエム ニ短調 K.626 宗教曲 未完のまま遺された最後の大作
11 クラリネット協奏曲 イ長調 K.622 協奏曲 晩年の澄みきった響きを味わえる
12 弦楽四重奏曲第19番「不協和音」 K.465 室内楽 謎めいた序奏が名前の由来
13 ピアノ・ソナタ ハ長調 K.545 ピアノ曲 ピアノ学習者が最初に挑む定番ソナタ
14 幻想曲 ニ短調 K.397 ピアノ曲 発表会でも人気の表情豊かな小品
15 きらきら星変奏曲 K.265 ピアノ曲 おなじみの旋律が12の変奏に広がる

※作品番号の「K.」は、モーツァルトの作品を整理したケッヘル番号です。

モーツァルトってどんな人?生涯と「神童」伝説

モーツァルトってどんな人?生涯と「神童」伝説

モーツァルトの名曲をより深く楽しむには、まずその人物を知ることが近道です。

「神童」「天才」という言葉だけでは伝わらない、波乱に満ちた生涯と人間らしいエピソードを知ると、同じ曲がまったく違って聴こえてくるから不思議です。

彼の音楽はすべて、わずか35年という驚くほど短い生涯の中から生まれています。

3歳でピアノを弾き、5歳で作曲を始め、12歳でオペラを書いた幼少期の逸話。大司教との衝突を経てウィーンへ渡り、借金を抱えながら傑作を書き続けた晩年の姿。そして35歳で突然世を去り、未完の《レクイエム》を残した最期の謎。

モーツァルトは幼少期から絶対音感を持っていたと伝えられ、ヴァイオリンがわずかに調律からずれていることを瞬時に指摘したという逸話も残っています。絶対音感と相対音感の違いについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

ここからは、そんなモーツァルトの生涯・性格・代表曲を一緒に追いかけていきます。

1756年ザルツブルク生まれ―3歳でピアノを弾いた神童

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは1756年1月27日、現在のオーストリア・ザルツブルクで生まれました。父レオポルトはザルツブルク宮廷楽団のヴァイオリン奏者であり、優秀な音楽教師でもありました。

モーツァルトが3歳でクラヴィア(鍵盤楽器)を弾き始め、4歳から父に師事、5歳には即興演奏と作曲を開始したのは有名な話です。ヴァイオリンもほぼ独学で習得したといわれ、その才能は当時の人々を驚かせました。6歳になるとヨーロッパ各地へ演奏旅行へ出発し、フランス国王ルイ15世やイギリス国王ジョージ3世に謁見しています。

8歳でソナタ、9歳で交響曲、12歳でオペラを作曲するまでに成長したモーツァルト。「神童」と呼ばれるのも、まったく大げさではなかったのです。

大司教との対立、そしてウィーンへ

輝かしい幼少期とは対照的に、成長したモーツァルトは就職難に悩みました。

ザルツブルクの新大司教コロレードとの関係は悪化の一途をたどり、1781年、25歳のモーツァルトは正式に解雇されます。

その後ウィーンへ移り、フリーランスの音楽家として独立。1782年にはオペラ《後宮からの誘拐》がブルク劇場で大成功を収め、コンスタンツェ・ウェーバーと結婚。作曲家・ハイドンとも深い友情を育みました。

晩年の困窮と未完の《レクイエム》

 

1788年の対トルコ戦争による経済悪化で収入が激減し、借金生活に陥ったモーツァルト。それでも創作意欲は衰えず、交響曲第40番・第41番《ジュピター》などの傑作をわずか数週間で完成させています。

 

1791年10月、謎の匿名依頼人から《レクイエム》の作曲を依頼されたモーツァルトは、自らの死を予感しながら筆を進めたといわれています。同年12月5日、35歳という若さで世を去りました。未完のまま残された《レクイエム》は弟子のジュースマイヤーが補筆完成させ、現在も多くの人に愛されています。

モーツァルト名曲の特徴―なぜ「美しすぎる」と言われるのか?

モーツァルト名曲の特徴 なぜ「美しすぎる」と言われるのか

モーツァルトの音楽には、他の作曲家にはない独特の「美しさ」があります。聴いていると自然に心が落ち着いたり、気分が上がったり……その秘密は何でしょうか。

ソラ
モーツァルトの曲って、なんか「すっきり」していますよね。ベートーヴェンみたいな重さがない気がして。
カイ
鋭い! それがモーツァルトの最大の特徴です。「古典派」の様式美に則りながら、感情の機微を自然に旋律に込める天才なんですよ。

旋律の「歌心」―楽器が歌っているような美しさ

モーツァルトの音楽の最大の魅力は、何と言っても旋律の美しさです。ピアノでもヴァイオリンでも、まるで人が歌っているかのような「歌心」を感じさせます。

ハイドンは「モーツァルトほど旋律の才能に恵まれた作曲家は、過去にも未来にも現れないだろう」と評したと伝わっています。これは誇張ではなく、モーツァルトの旋律には言葉で説明しきれない自然さがあります。

古典派の均整美と深い感情の同居

モーツァルトはバッハの対位法技術にも精通しており、その複雑な構造を表面に見せずに美しい旋律の下に組み込む技術は卓越していました。軽やかな明るさの中に、ふと陰りや悲しみが差し込む瞬間——それがモーツァルト音楽の醍醐味です。

特にピアノ協奏曲や弦楽四重奏曲では、古典派の均整のとれた形式美と、深い感情表現が見事に融合しています。初めて聴いたときは「綺麗な曲」と感じ、聴き込むほどに新しい発見がある——そういう重層的な作品が多いのも特徴です。

短調の「泣きたくなる美しさ」

明るい長調の曲が多いモーツァルトですが、短調の作品には特別な魅力があります。

代表的なのはこの3曲です。

  • 交響曲第40番 ト短調 K.550――冒頭から弦楽器が刻む、あの切迫した主題。まるで何かに追い立てられるような焦燥感と悲しみが、聴く人の胸にじわりと迫ってきます。
  • ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466――暗く重い第1楽章から一転、第2楽章「ロマンス」の穏やかな美しさへ。このコントラストが、聴き終わったあとにじんわりと余韻を残します。
  • ピアノ・ソナタ第14番 ハ短調 K.457――激しく嵐のような第1楽章と、中間楽章の静けさ。ベートーヴェンの「悲愴」ソナタに強い影響を与えたとも言われる作品です。

これらに共通するのは、ただ暗いだけでなく、必ず「美しさ」が同居していることです。モーツァルトの短調には、悲しみの中にも品があり、絶望の中にも光が差し込むような瞬間があります。

ブラームスは「モーツァルトの短調作品だけで、彼の天才性は証明できる」と語ったと伝わっています。大げさに聞こえるかもしれませんが、3曲を続けて聴いてみると、その言葉の意味が少しわかる気がします。

モーツァルトの有名な曲TOP3|まず聴くならこの3曲(ピアノ・ピアノ協奏曲・交響曲)

モーツァルト有名な曲ランキング 「ピアノ・ピアノ協奏曲・交響曲」

「モーツァルトの曲を聴いてみたいけど、どれから始めればいいかわからない」——そう思っている方にまずお届けしたいです。

モーツァルトは生涯で600曲以上を作曲しました。交響曲・協奏曲・オペラ・ピアノ曲・室内楽……ジャンルも多岐にわたるため、入口を間違えると「思っていたのと違う」となりがちです。

そこでまず、知名度・演奏頻度・聴きやすさの3点を基準に、代表曲をランキング形式でご紹介します。「モーツァルトといえばこれ」と多くの人が思い浮かべる曲を厳選しましたので、ここから気に入った一曲を見つけてみてください。

トルコ行進曲(ピアノ・ソナタ第11番 第3楽章)K.331

「モーツァルトの曲は知らないけど、トルコ行進曲は聴いたことある!」という方が多いのではないでしょうか。あのリズミカルで耳に残るメロディーは、一度聴いたら忘れられません。

正式名称はピアノ・ソナタ第11番 イ長調 K.331 の第3楽章。

実は第1楽章は有名な「きらきら星変奏曲」と同じ「アリア」の主題による変奏曲で、全楽章通して楽しめる傑作です。

「トルコ行進曲」という名前は後世につけられたもので、当時流行していたトルコの軍楽(メフテル)を模したリズムが由来です。ピアノ初心者から上級者まで愛される定番曲で、難易度的には「ピアノ中級」程度ですが、本当に美しく演奏するには奥深さがあります。

 ▶ おすすめの聴き方:まず第3楽章のトルコ行進曲を聴いて、気に入ったら第1楽章の変奏曲にも耳を傾けてみてください。

アイネ・クライネ・ナハトムジーク K.525

「小夜曲(セレナーデ)ト長調」とも呼ばれるこの曲は、弦楽合奏のために書かれた4楽章構成の作品です。ドイツ語で「小さな夜の音楽」を意味するタイトル通り、優雅で軽やかな雰囲気が特徴的です。

1787年、モーツァルト31歳のときに作曲されましたが、当時の記録には残っておらず、なぜ作曲されたのかは謎のまま。それでも第1楽章冒頭の主題は、クラシック音楽の中で最も認知度の高いメロディーの一つといわれています。

ストリングスの音色が美しく、CMや映画のBGMでも頻繁に使われています。ピアノではなくオーケストラ曲なので、ぜひ弦楽四重奏や室内オーケストラの演奏で聴いてみてください。

交響曲第40番 ト短調 K.550

モーツァルトの交響曲の中でも特に有名なこの作品は、1788年の夏に作曲されました。暗く情熱的な冒頭の主題は、誰もが一度は耳にしたことがあるはずです。

長調が多いモーツァルトの交響曲の中で、短調で書かれた代表的な作品です。晩年の経済的困窮の時期に書かれたこともあり、切迫感と悲しみが全編にみなぎっています。

「三大交響曲」(第39番・第40番・第41番)の中でも、特に人気が高い一曲。オーケストラのコンサートで最も多く演奏されるモーツァルト作品の一つです。

モーツァルト名曲:ピアノ協奏曲の傑作たち

【画像】850×479px  タイトル:モーツァルト ピアノ協奏曲 オーケストラ  alt:モーツァルトのピアノ協奏曲演奏イメージ  内容:ピアノとオーケストラが共演する演奏会場

モーツァルトはピアノ協奏曲を27曲も書いており、これはどの作曲家よりも多い数です。中でも後期の作品群は、ピアノとオーケストラの対話が巧みで、クラシック音楽の醍醐味を存分に味わえる傑作ぞろいです。

ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466

モーツァルトのピアノ協奏曲の中で最も有名な作品の一つです。ニ短調という暗い調性で書かれた珍しい曲で、冒頭から緊張感あふれる弦楽器の刻みに引き込まれます。

第2楽章「ロマンス」は打って変わって穏やかで美しく、聴く人の心をほっと和ませます。ベートーヴェンも特に愛した曲として知られており、カデンツァ(独奏部分)を作曲したほどです。

 ▶ 聴きどころ:第1楽章の暗く劇的な開始部と、第2楽章の穏やかな対比をお楽しみください。

ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K.467

1967年のスウェーデン映画「みじかくも美しく燃え」(Elvira Madigan)に使用されたことから、「エルヴィラ・マディガン」の愛称でも知られます。第2楽章の夢見るような美しさは、多くのピアノ愛好家を魅了しています。

第2楽章のメロディーは「モーツァルトで一番美しい旋律」と呼ぶ人もいるほどの名旋律。静かな弦楽器の伴奏に乗せてピアノが歌うように紡ぐメロディーは、聴いているだけで涙が出そうになります。

ピアノ協奏曲第23番 イ長調 K.488

明るく親しみやすい曲想の中に、深い悲しみや陰影が織り込まれた傑作です。第2楽章は「モーツァルトの遺言」とも呼ばれるほど哀愁に満ちており、初めて聴く方でも強い印象を受けるでしょう。

テンポが速すぎず遅すぎず、クラシック音楽の「美しさ」を体感するのにぴったりの一曲です。モーツァルトのピアノ協奏曲の入門にも最適です。

モーツァルト名曲:オペラ・声楽の傑作

ソラ
オペラって、なんか難しそうで…正直、聴いたことないんですよね。言葉もわからないし、長いし。
カイ
わかります!でも実は、オペラ全曲を通して聴かなくていいんです。まずは有名なアリア(独唱曲)だけ、3〜5分のものをひとつ聴いてみるところから始めてみましょう。
ソラ
アリアだけ?それなら気軽に試せそうですね。
カイ

モーツァルトのオペラは特に旋律が美しいので、初心者にもとっつきやすいですよ。たとえば《フィガロの結婚》の「恋とはどんなものかしら」は、甘くて切ない旋律が印象的で、歌詞がわからなくても思わず聴き入ってしまう名曲です。《魔笛》の「夜の女王のアリア」は、超高音の連続が圧巻で、初めて聴いた人がみんな驚く曲ですね。

ソラ
「夜の女王」!なんかかっこいい名前ですね。
カイ
音も本当にドラマチックなんです。モーツァルトのオペラは旋律の美しさだけじゃなく、登場人物の感情がそのまま音になっているのが魅力。まずは好きなアリアをひとつ見つけて、気に入ったらそのオペラを通して聴いてみる、という順番がおすすめですよ。

魔笛(Die Zauberflöte)K.620―夜の女王のアリア

1791年、モーツァルト最晩年の作品です。ドイツ語で書かれた「ジングシュピール(歌芝居)」で、善と悪、光と闇の戦いを描いた壮大な物語です。主人公タミーノが魔法の笛を手に試練を乗り越え、夜の女王の娘パミーナと結ばれるというストーリーは、フリーメイソンの思想も織り込まれており、単なるおとぎ話を超えた深みがあります。

中でも圧倒的な存在感を放つのが、「夜の女王のアリア」(Der Hölle Rache)です。ハイF(ファ)という声楽で最高峰に位置する音域まで駆け上がる超絶技巧のアリアで、世界中のソプラノ歌手が「一度は歌いたい」と憧れる名曲です。怒りと憎しみをまるで稲妻のように音符で表現したモーツァルトの筆致は、初めて聴く方にも「これがオペラか!」と思わせる圧倒的な迫力があります。

また、パパゲーノとパパゲーナの二重唱「パ・パ・パ」のような愉快な場面もあり、笑いあり・感動あり・超絶技巧ありの娯楽大作としても楽しめます。オペラ初心者にこそ最初に観てほしい一作です。

日本でも人気が高く、新国立劇場をはじめ各地の歌劇場で定期的に上演されています。まずはYouTubeで「夜の女王のアリア」を検索して、その衝撃を体験してみてください。

▶ おすすめ録音:エディタ・グルベローヴァ(鋭く完璧な技巧派)、ルチア・ポップ(温かみのある美声派)——まったく異なる個性の聴き比べも楽しいです。

フィガロの結婚(Le nozze di Figaro)K.492

786年初演のオペラ・ブッファ(喜劇的オペラ)。ボーマルシェの戯曲を原作に、ロレンツォ・ダ・ポンテが台本を書き、モーツァルトが作曲しました。

物語の舞台は結婚前夜のお屋敷。召使いのフィガロと花嫁フズザンナ、横恋慕する伯爵、嫉妬に揺れる伯爵夫人——さまざまな思惑が絡み合う一夜の大騒動を、笑いと涙と皮肉を交えて描いた傑作です。「身分の高い貴族が召使いたちにやり込められる」という当時としては革新的な内容が、聴衆の心をつかみました。

プラハで特に大人気を博し、モーツァルト自身も手紙に「ここはどこへ行ってもフィガロの歌ばかりだ」と書き記したほどです。ウィーンでの初演はやや不評でしたが、プラハの熱狂的な反応がモーツァルトを喜ばせ、翌年の《ドン・ジョヴァンニ》プラハ初演へとつながっていきます。

聴きどころは随所にあります。序曲はわずか4分ほどの小品ながら、溌剌としたリズムと愉快なメロディーが詰まっており、オーケストラ曲として単独演奏されることも多い名曲です。ケルビーノのアリア「恋とはどんなものかしら」は、初めて恋を知った少年の戸惑いと甘い感情をメゾソプラノが歌い上げる名曲で、しっとりとした美しさが胸に染みます。また伯爵夫人のアリア「愛の神よ、安らぎを与えたまえ」は、夫の愛を失った悲しみを切々と歌い上げる場面で、オペラ史上屈指の名アリアの一つに数えられています。

▶ オペラ初心者へ:まず序曲とケルビーノのアリアだけ聴いてみてください。「オペラって楽しいかも」と感じるきっかけになるはずです。

アヴェ・ヴェルム・コルプス K.618

1791年6月、モーツァルトが世を去る半年前に作曲されたわずか46小節の合唱曲です。

この曲が生まれた背景には、友人のアントン・シュタードラー(クラリネット協奏曲を捧げた同じ人物)の妻が指揮する合唱団への贈り物だったという説があります。依頼に応じてさらりと書いたとされながら、その仕上がりはモーツァルト最晩年の境地を示す傑作となりました。

「アヴェ・ヴェルム・コルプス」とはラテン語で「めでたし、まことのおんからだよ」を意味するキリスト教の聖体賛美歌です。歌詞はわずか数行。それでも旋律と和声の美しさは、聴く者を静かな祈りの世界へと引き込みます。

特に印象的なのは、曲の後半で音楽がふっと短調に転じる瞬間です。ほんの数小節のことですが、そこに差し込む陰影が、この曲全体の美しさを決定的なものにしています。まるでモーツァルト自身が自らの死を静かに受け入れているかのような、言葉にならない感情が漂います。

合唱曲としてだけでなく、弦楽合奏やピアノ編曲でも広く演奏されます。演奏時間は5分足らず。しかしこれほど短い曲で、これほど深く心を動かされる作品はそうありません。

▶ 聴くタイミング:夜、静かな部屋でヘッドフォンをつけて聴いてみてください。モーツァルトの音楽の中でも、特別な時間が流れます。

モーツァルト名曲:レクイエム・弦楽・その他の傑作

ピアノ曲・ピアノ協奏曲・オペラと見てきましたが、モーツァルトの名曲はまだまだ尽きません。

交響曲・室内楽・管楽器の協奏曲・宗教音楽——どのジャンルを掘り下げても、「これがあったか」と驚かされる傑作が次々と現れるのがモーツァルトの恐ろしいところです。生涯で600曲以上を書いたという事実が、ここにきて改めて実感できるかもしれません。

この章では特に、モーツァルトの音楽人生の「締めくくり」とも言える晩年の傑作を中心にご紹介します。死の影が迫る中で書かれた《レクイエム》、盟友シュタードラーに捧げたクラリネット協奏曲、そしてハイドンへの敬意を込めた弦楽四重奏曲——いずれも、モーツァルトという人間の深さが滲み出る作品ばかりです。

レクイエム ニ短調 K.626―未完の遺作

モーツァルトの最後の作品であり、最大の謎を秘めた作品です。1791年秋、謎の依頼人(後にワルゼック伯爵と判明)から作曲を依頼され、病に倒れながらも筆を進めました。

「ラクリモーサ(涙の日)」は、第8小節で絶筆となっています。この短い旋律に、モーツァルトがすべての感情を込めたかのような哀しさがあります。

弟子のジュースマイヤーが補筆して完成させましたが、モーツァルト自身が書いた部分の深さは別格です。「怒りの日(Dies irae)」の劇的な迫力と、「ラクリモーサ」の静謐な美しさのコントラストは、聴く者の胸を打ちます。

 ▶ 名盤:カール・ベーム指揮ウィーン・フィル(1971年)、コリン・デイヴィス指揮BBC交響楽団などが名録音として知られています。

クラリネット協奏曲 イ長調 K.622

1791年、モーツァルト最晩年の器楽曲傑作です。クラリネット奏者のアントン・シュタードラーのために書かれました。第2楽章の滑らかで歌うような旋律は、クラリネットという楽器の魅力を最大限に引き出しており、「クラリネット協奏曲の最高傑作」と評されることも多い作品です。

管楽器の協奏曲の中でもとりわけ人気が高く、クラシック初心者にもおすすめの一曲です。

弦楽四重奏曲第19番「不協和音」 K.465

1785年に作曲された、ハイドンに捧げられた6曲(ハイドン・セット)の最後の曲です。冒頭の序奏が調性を故意に曖昧にした斬新な書法で書かれており、「不協和音」の愛称がついています。

当時の聴衆には「誤植ではないか」と驚かれたほどの前衛的な出だしですが、その後に続く主部の美しさとのコントラストが見事です。室内楽の名曲として、弦楽四重奏のレパートリーに欠かせない作品です。

ピアノ初心者にもおすすめ!モーツァルトのピアノ曲入門

「モーツァルトの曲、弾いてみたいけど難しそう……」と感じている方はいませんか?

確かにモーツァルトのピアノ曲には、プロのピアニストが生涯かけて向き合うような深い作品が多くあります。しかし実は、ピアノを始めたばかりの方でも挑戦できる名曲がいくつもあるのです。

この章では、難易度別にモーツァルトのピアノ曲をご紹介します。「まず弾いてみたい初心者向けの一曲」から「中級者が次のステップとして目指したい曲」まで、それぞれの魅力と練習のポイントも合わせてお伝えします。

まず弾いてみたいなら:ソナタ K.545 ハ長調

「初心者のための小ソナタ」——モーツァルト自身がそう記したこの作品(正式名称:ピアノ・ソナタ第16番 ハ長調 K.545)は、シンプルな構成の中に美しさが凝縮されています。第1楽章冒頭のハ長調の音階を使った主題は音楽の教科書にも載るほど有名で、ピアノを習い始めた方が最初に目指す曲の一つです。

難易度的にはソナチネアルバム程度。音符の数は少なく、技術的なハードルも高くありません。しかしだからこそ、一音一音の質が如実に表れるのがこの曲の怖さでもあります。

たとえば第1楽章の右手の旋律。楽譜通りに弾くだけなら比較的すぐ弾けますが、それを「歌うように」弾けるかどうかは別の話です。音の粒を揃え、フレーズの頂点に向かって自然に膨らませ、ため息をつくように着地させる——そういった細かい表現の積み重ねが、この曲の美しさを決めます。

「モーツァルトは音符が少ないぶん、一つひとつの音に意味がある」とよく言われます。まず「弾ける」を目指し、次に「歌える」を目指す——そのプロセス自体が、ピアノの上達そのものです。

親しみやすさで選ぶなら:きらきら星変奏曲 K.265

「きらきら星」のメロディをもとにした、12の変奏からなるピアノ曲です。正式な曲名は「『ああ、お母さん、あなたに申しましょう』による12の変奏曲」で、主題はフランスで親しまれていた歌。1781〜82年ごろにウィーンで書かれたと考えられています。

冒頭の主題はピアノを始めたばかりの方でも弾けるほどシンプルですが、変奏が進むにつれて右手の細かい音符、左手の速い動き、短調の変奏と、技術と表現の幅が一気に広がります。主題といくつかの変奏だけでも、モーツァルトらしい装飾の美しさを味わえるので、K.545と並んで「最初のモーツァルト」の候補になる一曲です。

中級者向け:トルコ行進曲と幻想曲 ニ短調 K.397

中級者になったらぜひ挑戦したいのが、前述のトルコ行進曲(ソナタ K.331 第3楽章)です。

軽やかに跳ねるリズムと、左右の指が独立して動く細かいパッセージが特徴で、指の独立と均一なタッチが問われます。テンポを上げると一気に華やかな仕上がりになりますが、焦らずゆっくりから練習するのがコツです。「知っている曲を自分で弾ける」喜びは格別で、発表会の曲としても人気があります。

もう一曲おすすめしたいのが、幻想曲 ニ短調 K.397です。演奏時間は約5分と短いながら、モーツァルトの短調の世界が凝縮された奥深い作品です。

冒頭は即興的で自由な雰囲気から始まり、中間部では長調の穏やかな美しさが顔をのぞかせ、再び短調の陰影へと戻っていく——その感情の揺れを表現するのが、この曲最大の難しさです。音符の難易度は「ピアノ上級入口」程度ですが、どれだけ豊かな感情を音に乗せられるかに上限はありません。技術的にひと段落したピアノ経験者が、表現の深さを追求するのにぴったりの一曲です。

「モーツァルトは弾くのが難しい」は本当?

ソラ
モーツァルトのピアノって、ショパンより難しいって聞いたことあるんですけど…?
カイ
技術的な難易度はショパンのほうが高い曲も多いですが、モーツァルトは「誤魔化しが利かない」んです。余計な音がなく、透明度が高いので、わずかなミスが目立ちやすいんですよ。

モーツァルトのピアノ曲は、華やかな超絶技巧こそ求められませんが、均一なタッチ・自然なフレージング・美しい音色作りが問われます。「やさしいようで難しい」——それがモーツァルトのピアノ曲の本質です。だからこそ、プロのピアニストも生涯かけて向き合う作品が多いのです。

まとめ:モーツァルト名曲の世界をもっと楽しもう

この記事では、モーツァルトの生涯と名曲についてご紹介しました。最初に挙げた3つの疑問に対する答えをまとめます。

  • モーツァルトの有名な曲は「トルコ行進曲」「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」「交響曲第40番」などが代表的。ピアノ協奏曲第20・21・23番も名作ぞろいです。
  • 聴き始めるなら、まずピアノ曲(トルコ行進曲)か弦楽(アイネ・クライネ)から。気に入ったらオペラ(魔笛・フィガロ)や交響曲・ピアノ協奏曲へと広げましょう。
  • モーツァルトが「すごい」理由は、美しい旋律・古典派の均整美・短調の深い感情表現の三拍子が揃っているから。35年の生涯で600曲以上を書いた創作の密度も驚異的です。

モーツァルトの音楽は、何百年経っても色褪せない普遍的な美しさを持っています。まずはお気に入りの一曲を見つけて、その世界の入口を叩いてみませんか。

当サイトでは、ピアノ曲の弾き方や各作品の深掘り解説記事も随時公開しています。気になる曲があれば、ぜひ他の記事もチェックしてみてください。