70代のピアノ初心者が最初の1年でやること|指・目・耳に合わせた始め方

「70代からピアノを始めるなんて、さすがに遅いでしょうか」。70代でピアノ初心者になる方の多くが、最初にこの不安を口にします。ところが実際に止まってしまう理由は、年齢そのものよりも「楽譜の字が小さくて読めない」「指が思うように開かない」「1時間練習すると肩が痛い」といった、体の小さなズレであることが少なくありません。

そもそも、70代からピアノを始めること自体は珍しくなくなっています。たとえば島村楽器 錦糸町マルイクラシック店のピアノサロンは、「実は60~70代の方が一番多く通われています」と紹介しており、ミーナ町田店でもレッスン生の半分近くが60代以上だといいます(島村楽器 錦糸町マルイクラシック店)。

つまり、そのズレを最初に整えておけば、70歳からのピアノは十分に楽しめます。この記事は、こんな疑問を持つ方に向けて書きました。

  • 70代のピアノ初心者は、何から手をつければいいの?
  • 指・目・耳の衰えがあっても、練習を続けられる工夫はある?
  • 教室・オンライン・独学のうち、高齢者がピアノを始めるならどれが合う?

始める前の心構えと、ピアノが70代の頭と心にもたらすメリット、楽器の準備から教本・曲選び、習い方の選び方と費用の目安、最初の1年のロードマップまで順番に解説します。まだ鍵盤に触ったことがない方も、子どもの頃に少しだけ習っていた方も、気になる見出しから読んでみてください。

目次

70代のピアノ初心者でも大丈夫|始める前に決めておきたい3つのこと

70代のピアノ初心者が始める前に決めたい3つのこと(1年後に弾きたい1曲・1日15〜20分の練習・比べる相手は先週の自分)の図解

70代のピアノ初心者が最初にすべきことは、楽器を買うことよりも「目標」「練習のペース」「比べる相手」の3つを決めることです。ここが曖昧なまま始めると、若い人向けの情報に振り回されて「自分には無理だ」と感じやすくなります。

目標は「1年後に両手で弾きたい1曲」にする

70歳からのピアノでいちばん続きやすい目標は、「1年後に、この1曲を両手で最後まで弾く」という具体的なものです。「上手になりたい」「楽譜をすらすら読みたい」といった漠然とした目標は、達成したかどうかが分からず、やる気が続きません。

曲は、昔から好きだった童謡や唱歌、テレビで聴いて心に残っているクラシックの一節など、口ずさめる曲を選ぶのがおすすめです。メロディーを知っている曲は、楽譜を読む負担が半分になるからです。「孫の誕生日に弾いてあげたい」「夫婦で同じ曲を弾きたい」のように、誰に聴かせたいかまで決めておくと、練習をさぼりたい日の支えになります。

上達のペースについては、音楽教室の案内などで「3か月ほどで簡単な童謡、1年ほどで好きな曲に挑戦」という目安がよく示されています。もちろん個人差はありますが、1年で両手の1曲という目標は、決して高すぎるものではありません。

実際、ピアノ講師のnoteでは、70代半ばでまったくの未経験から始めた女性が、月に2回・30分のレッスンを1年続け、お孫さんのものだった子ども向けの入門教本を4冊目まで進めて、譜読みを自分でできるようになった例が紹介されています(ピアノ講師のnote記事(Música))。筆者の講師自身も「誰にでも当てはまるかは分からない」と断っていますが、70代からでも基礎を積めば着実に進めるという一つの実例です。

練習は「1日15〜20分を毎日」から

練習時間は、長さよりも頻度を優先します。週末にまとめて2時間弾くより、毎日15〜20分を積み重ねたほうが、指の動きも楽譜の読み方も身につきやすくなります。70代の方は特に、長時間座り続けると肩や腰がこわばりやすいので、20分弾いたら一度立ち上がって腕を回すくらいの区切りがちょうどよいでしょう。

もっと弾きたい日は、朝に15分、夕方に15分のように2回に分けると、体への負担を増やさずに練習量を確保できます。反対に、通院や用事で忙しい日は5分だけ鍵盤に触れるのでも構いません。「毎日ピアノのふたを開ける」こと自体を習慣にしてしまうのが、長続きのいちばんの近道です。

15分の中身は、次のように配分すると迷わずに済みます。

時間 やること ポイント
1分 指ほぐし グー・パーと手首回しで指を温める
4分 基礎練習 ドレミファソを5本の指で上り下り
10分 目標の曲 前回弾けた所を1回通してから、新しい2小節をゆっくり

比べる相手は「昨日の自分」だけ

動画サイトには、数か月で難しい曲を弾けるようになった若い学習者の動画があふれています。しかし、そうした動画と自分を比べても得るものはありません。70代のピアノ初心者が見るべきなのは、先週の自分の録音です。スマートフォンで週に1回だけ録音しておくと、自分では気づかない上達がはっきり聞き取れます。

録音は、ご家族にLINEで送ってみるのもひとつの方法です。「上手になったね」という一言が返ってくるだけで、次の1週間の練習が楽しみになります。

ソラ
70代から始めても、本当に両手で弾けるようになるのかな…?
カイ
曲を簡単なアレンジにして、片手ずつ順番に練習すれば大丈夫だよ。大事なのは、最初の目標を小さく具体的にすることなんだ。

60代から始める場合の上達の目安は60代からピアノを始めても遅くない理由と練習法でも解説しています。年代が近い方の参考になるはずです。

70代からピアノを始めるメリット|頭・指・心への効果

70代からピアノを始める4つのメリット(頭の二重課題・手指の運動・気分や生活の満足度・人とのつながり)の図解

70代からピアノを始めるメリットは、「好きな曲が弾ける楽しさ」に加えて、頭と指を同時に使う習慣が自然に身につくことです。高齢者を対象にした研究でも、ピアノのレッスンによって注意力や気分によい変化が見られたという報告があります。ただし「ピアノを弾けば認知症にならない」とまで言い切れる段階ではないので、期待しすぎず、楽しみながら続ける習慣として取り入れるのがおすすめです。

両手・目・耳を同時に使う「二重課題」になる

ピアノの練習は、それ自体が「二重課題(デュアルタスク)」になっています。二重課題とは、2つ以上のことを同時に行うことで、老化予防のトレーニングにも取り入れられている考え方です。年齢を重ねるほど、2つのことを同時にこなすのは難しくなるといわれています。

ピアノでは、右手と左手でそれぞれ違う動きをしながら、目で少し先の音符を読み(先読み)、耳で今鳴っている音を確かめる、という作業を同時に行います。わざわざ「脳トレ」をしようと意識しなくても、1曲を練習するだけで頭をフル回転させているわけです。楽譜の先読みは、情報を一時的に覚えておくワーキングメモリ(作業記憶)を使う作業でもあります(一音会ミュージックスクール「ピアノと脳トレ」)。

研究で報告されている高齢者への効果

高齢者とピアノの関係を調べた研究として知られているのが、スペインの研究チームが2013年に学術誌『Frontiers in Psychology』に発表した研究(Seinfeldら)です。この研究では、4か月間ピアノのレッスンを受けた高齢者13名と、運動・パソコン・絵画など別の習い事をした16名を比べました。

  • 注意力・切り替えの力:ピアノのグループは、実行機能(注意を切り替えたり、余計な反応を抑えたりする力)を測るテストで改善が見られた
  • 気分・生活の質:落ち込んだ気分が減り、心と体の両面で生活の質(QoL)の向上が見られた

ピティナ(全日本ピアノ指導者協会)の読み物では、この研究を紹介しながら、ピアノを弾くことや楽譜を読むことが、脳の衰えに対する「余力」である認知予備能を高める方法の一つになり得る、とまとめています(ピティナ「最新の脳科学研究から〜ピアノ練習は脳の老化予防に効果〜」)。参加者の少ない小規模な研究ではあるものの、「70代から始めても意味がある」と考える一つの根拠にはなるでしょう。

手指を動かし、人とつながるきっかけになる

ピアノは座ったまま弾ける楽器なので、体への負担が比較的少なく、天気の悪い日でも自宅で続けられます。鍵盤を押すたびに指先を細かく動かすため、手指を使う習慣づくりにも向いています。

もうひとつ見逃せないのが、人とのつながりです。教室に通えば発表会やアンサンブルで同年代の仲間ができますし、家族の前で1曲弾くことが、お孫さんとの会話のきっかけにもなります。ピアノは一人で黙々と練習する趣味に見えて、実は人に聴いてもらう楽しみがある趣味でもあるのです。

ソラ
ピアノを弾いていれば、認知症にならないって聞いたことがあるけど本当?
カイ
「ならない」とまでは言えないんだ。ピアニストでも認知症になる人はいるからね。でも、頭と指を同時に使う楽しい習慣として続ける価値は十分あるよ。

70代のピアノ初心者が最初にそろえるもの|楽器・椅子・楽譜・明かり

70代のピアノ初心者が最初にそろえる4点セット(88鍵の電子ピアノ・高さ調整椅子・拡大楽譜・手元ライト)の図解

70代でピアノを始めるときの道具選びは、「良い楽器」よりも「体に負担をかけない環境」を基準にします。楽器・椅子・楽譜・明かりの4つが整うだけで、練習のしやすさは大きく変わります。

楽器は88鍵・重みのある鍵盤の電子ピアノが現実的

アコースティックピアノがあればもちろん理想的ですが、置き場所や騒音、調律の手間を考えると、70代の初心者には電子ピアノが現実的な選択肢です。選ぶときは、鍵盤の数が88鍵(本物のピアノと同じ数)で、鍵盤に適度な重みがある機種を選びましょう。鍵盤が軽すぎるキーボードで覚えると、あとで本物のピアノを弾いたときに指が負けてしまいます。

また、ヘッドホンが使える電子ピアノなら、家族や近所に気兼ねなく練習できます。「下手な音を聞かれたくない」という気持ちは、始めたばかりの時期ほど強いものです。早朝や夜でも時間を気にせず弾けるのは、生活リズムが人それぞれの70代にとって大きな利点です。

椅子は高さを調整できるものを選ぶ

ダイニングチェアで代用しがちですが、椅子の高さが合わないと肩や手首に余計な力が入り、練習のたびに疲れてしまいます。目安は、鍵盤に手を置いたとき、肘から手首までが床とほぼ平行になる高さです。座る位置は椅子の前半分に浅めに腰かけ、足の裏が床にしっかり着くようにします。腰に不安がある方は、背もたれ付きの高さ調整椅子も検討してみてください。

楽譜は拡大コピーし、明かりは手元から

市販の教本は、70代の目には音符が小さく感じられることがあります。そんなときは、使うページをA4からA3へ拡大コピーして譜面台に置きましょう。五線の間隔が広がるだけで、ドとレの見間違いが目に見えて減ります。

タブレットをお持ちなら、楽譜アプリで画面いっぱいに拡大して表示する方法もあります。足元のペダルでページをめくれる機器と組み合わせれば、両手を鍵盤から離さずに次のページへ進めます。

あわせて、譜面台を照らすライトも用意したいところです。天井の照明だけでは楽譜に自分の影が落ちやすいため、クリップ式の手元ライトがあると目の疲れが和らぎます。ふだんの眼鏡で楽譜と鍵盤の両方が見えにくい場合は、譜面台までの距離(50〜60cm程度)を伝えたうえで、眼鏡店や眼科に相談してみてください。

準備するもの 選ぶときの目安 70代ならではのポイント
電子ピアノ 88鍵・重みのある鍵盤 ヘッドホンで気兼ねなく練習できる
椅子 高さ調整ができる 肘から手首が床と平行になる高さに
楽譜 使うページを拡大コピー A3に広げると読み間違いが減る
明かり クリップ式の手元ライト 楽譜に影が落ちず目が疲れにくい

楽器がまだない場合は、教室から始めてもいい

「電子ピアノを買ってから続かなかったらどうしよう」と迷う方は、楽器を買う前に教室で始めるのも一つの手です。カワイ音楽教室の「60歳からのピアノコース」は、ピアノを持っていなくてもまずは教室で始められると案内しています(カワイ音楽教室「60歳からのピアノコース」)。島村楽器のピアノサロンのように、会員が店舗の練習室を予約して使える教室もあります。

楽器がない間は、楽譜を見ながら机の上で指を動かしたり、練習する曲の音源を聴いてメロディーを覚えたりするだけでも、立派な準備になります。数か月続けて「これは長く続けられそうだ」と感じてから楽器を選べば、買い物の失敗も減らせます。

指・目・耳に合わせた70代のピアノ練習法

70代のピアノ初心者向け1日15分の練習メニュー例(指ほぐし1分・基礎練習4分・目標の曲10分)と指・目・耳の工夫

70代のピアノ練習で大切なのは、指・目・耳それぞれの変化を「工夫で補う」ことです。若い人と同じ練習法をそのまま真似るのではなく、体の状態に合わせて手順を少し変えるだけで、無理なく続けられます。

指:弾く前の1分ウォームアップと「痛みが出たら中止」

弾き始める前に、指をゆっくりグーとパーに開く、手首を軽く回すといった1分ほどのウォームアップをしてから鍵盤に向かいましょう。冬場は手を温めてから弾くだけでも、指の動きがかなり変わります。

ピアノは本来、腕の重さを鍵盤に乗せて弾く楽器で、指先の力だけで強く押す必要はありません。届かない音を無理に指を広げて取りにいくのも避けましょう。それでも指や手首に痛みが出たときは、その日の練習はすぐに切り上げてください。痛みが続く場合や関節の持病がある方は、整形外科やかかりつけ医に相談しておくと安心です。

目:音符に色をつけ、指番号を書き込む

楽譜を読むのがつらい場合は、ドの音だけ赤、ソの音だけ青のように、目印になる音に色ペンで印をつける方法があります。すべての音に音名を書き込むと楽譜が読めるようにならないので、目印は2〜3音に絞るのがコツです。

あわせて、どの指で弾くかを示す指番号(親指が1、小指が5)を大きく書き込んでおくと、弾くたびに迷わずに済みます。

耳:音量は控えめに、ゆっくりのテンポで

電子ピアノは音量を自由に変えられるのが利点です。大きな音で長時間弾くと耳が疲れるので、普段の会話くらいの音量を目安にしましょう。テンポも、最初は思い切ってゆっくり。電子ピアノの多くに付いているメトロノーム機能を使い、正確に弾ける速さから少しずつ上げていくと、間違いの癖がつきにくくなります。

暗譜にこだわらず、楽譜を見て弾いていい

70代のピアノ初心者が意外とつまずきやすいのが「暗譜(楽譜を見ずに弾くこと)」です。Yahoo!知恵袋には、70歳でピアノを始めた72歳の方が「去年は暗譜で弾けたのに、今年は覚えられず指も動かない」と落ち込み、練習が義務のようになってしまったという相談が寄せられていました(Yahoo!知恵袋)。

この相談には、同じように70代でピアノを楽しんでいる方々から「暗譜はせず楽譜を見て弾いている」「1年に1曲ずつ、確実に弾ける曲を増やしていけばいい」といった回答が寄せられています。大人のレッスンでは、楽譜を見て弾くことを認めている教室も少なくありません。覚えることより、楽しく弾き続けることを優先しましょう。

あわせて覚えておきたいのが、ドレミファソの上り下りや簡単な和音のような単純な繰り返し練習を「楽しめるか」が上達の速さを左右する、という指導者の見方です(前出のMúsica)。地味に見える基礎練習も、「この指の動きは、目標の曲のこの部分で使う」と分かれば、ぐっと取り組みやすくなります。

ソラ
楽譜に音名を全部書いちゃダメなの?そのほうが早く弾けそうなのに。
カイ
全部書くと、文字だけ読んで音符を見なくなっちゃうんだ。目印は「ド」と「ソ」くらいにして、そこから数えて読む練習をすると、次の曲がどんどん楽になるよ。

指の基礎トレーニングの方法はピアノの基礎練習のやり方で詳しく紹介しています。

高齢者がピアノを始めるときの教本と曲の選び方

70代のピアノ初心者が最初の曲を3段階で両手に進める方法(右手だけ・左手を1音・左手で和音)の図解

高齢者がピアノを始めるときの教本は、「1冊目は薄く、易しく、知っている曲が多いもの」を選ぶのが基本です。分厚い教本を最初から最後まで順番にこなそうとすると、終わりが見えずに挫折しやすくなります。

大人・シニア向けの入門教本の例

楽器店などで大人の初心者向けとしてよく紹介されている入門教本には、次のようなものがあります(2026年10月時点で販売されている版の情報です。内容は書店や楽器店で実物を確認してください)。

教本名 出版社 特徴
シニア・ピアノ教本 ドレミ楽譜出版社 鍵盤と楽譜の読み方から始まる超入門。全3巻
おとなのためのピアノ教本 ドレミ楽譜出版社 大人の初心者向けの定番。和音や伴奏も学べる
大人のためのピアノ悠々塾 入門編 ヤマハミュージックメディア 座り方や腕の角度から解説。CD付きで有名曲を収録

このほか、『60歳からのピアノ超入門』のように大きく読みやすい五線譜を使ったシニア向けの本もあります。また、先ほど紹介した70代の女性のように、子ども向けの導入教本を使う方法もあります。子ども向け教本は1曲が短く、要素を一つずつ増やしていく構成のものが多いため、「大人向けは説明が多くて疲れる」という方には意外と相性がよいのです。

迷ったら、書店で中を開き、音符の大きさと1曲の長さを確かめてから選びましょう。見開き1ページで1曲が終わる構成なら、1日の練習で「今日はここまでできた」と区切りをつけやすくなります。

最初の曲は「知っているメロディー×片手から」

最初の曲は、「きらきら星」や「ふるさと」のように、誰もが口ずさめるメロディーを右手だけで弾くところから始めるのがおすすめです。歌いながら弾けるので、楽譜を追うのが遅くても音楽として楽しめます。

慣れてきたら、ベートーヴェンの「喜びの歌」(交響曲第9番の旋律)のように、5本の指をほとんど動かさずに弾けるメロディーへ進みます。左手は最初は1音だけ、次に2音の和音、と段階的に増やしていきましょう。初心者向けの曲選びはピアノ初心者でも弾ける簡単な曲も参考になります。

実際に大人・シニア向けのレッスンでは、次のような曲がよく題材になっています。

ジャンル 曲の例 紹介されている教室・コース
歌謡曲・J-POP いとしのエリー/涙そうそう/少年時代 カワイ「60歳からのピアノコース」
歌謡曲・洋楽の名曲 愛燦燦/赤いスイートピー/アニー・ローリー 島村楽器 ミーナ町田店
クラシック・童謡 パッヘルベルのカノン/季節の童謡 島村楽器 ミーナ町田店

いずれも、原曲そのままではなく初心者向けにやさしく編曲された楽譜を使うのが前提です。青春時代に口ずさんだ歌謡曲は、メロディーもリズムも体が覚えているので、70代の方には特に取り組みやすいジャンルといえます。

「いつか弾きたい曲」は簡単アレンジ版で叶える

「エリーゼのために」のように、ずっと憧れていた曲がある方も多いのではないでしょうか。原曲は初心者にはハードルが高いものの、冒頭部分だけを易しく編曲した「やさしいアレンジ版」の楽譜なら、1年目のゴールとして現実的です。エリーゼのためにの難易度と弾き方もあわせて読んでおくと、どこが難しいのかを事前に把握できます。

反対に、気をつけたいのが「易しい」と紹介されがちな本格的なクラシック曲です。前出の知恵袋の相談者は、70歳で始めて2年目の発表会にショパンの「ワルツ イ短調(遺作)」を選んで苦戦していました。回答者からは「ショパンのワルツは比較的易しい部類でもやはり難しい」「無理をすると手を痛めるおそれもある」という声が上がっています。原曲に挑むのは、やさしいアレンジ版で曲に慣れてからで十分です。

70歳からピアノを習うなら|教室・オンライン・独学の選び方

70歳からピアノを習う方法の選び方フローチャート(通う教室・オンラインレッスン・独学+時々レッスン)

70歳からピアノを習う方法は、大きく「通う教室」「オンラインレッスン」「独学」の3つです。結論から言うと、楽譜を読んだことがない70代の初心者は、少なくとも最初の数か月は先生に見てもらうほうが遠回りになりません。独学では、手の形や座り方の癖に自分で気づきにくいからです。

習い方 向いている人 気をつけたい点
通う教室(対面) 外出が苦にならず、先生や仲間と会うのが楽しみな人 通う距離・天候・体調で休みがちにならないか
オンラインレッスン 通うのが負担、家の楽器で習いたい人 タブレットやスマホの操作に慣れが必要
独学 子どもの頃に習った経験があり、楽譜が少し読める人 手の形や姿勢の癖に気づきにくい

通う教室は「通いやすさ」と「体験レッスン」で選ぶ

対面の教室は、先生に手の形を直接直してもらえることと、教室に通うこと自体が生活の張り合いになることが魅力です。選ぶときは、自宅から無理なく通える距離か、雨の日でも通えるかを最優先にしましょう。シニアがピアノ教室に通うメリットや教室選びのポイントは定年後の趣味としてシニアからピアノを始めるメリットでまとめています。

大手の音楽教室には、シニア向けのコースを用意しているところもあります。たとえばカワイ音楽教室の「60歳からのピアノコース」は、次の3ステップで進むと案内されています。

  1. STEP1:音符に「ドレミ」を振った楽譜を使い、楽譜を読まずに弾くことから始める
  2. STEP2:両手でメロディーを弾くことに挑戦する(先生の伴奏に合わせて弾くことも)
  3. STEP3:弾きたかった曲に、難易度を少しずつ上げながら挑戦する

「楽譜が読めないから習えない」と思っている方でも、このように読まずに弾くところから始められるコースなら安心です。

外出が負担ならオンラインレッスンも選択肢

足腰に不安がある方や、冬場の外出がつらい方には、自宅の電子ピアノでそのまま受けられるオンラインレッスンも選択肢になります。たとえば音楽教室のオトノミチシルベは、公式サイトのよくある質問で、小学1年生から80代半ばの方まで受講していると案内しています。体験レッスンは1コースにつき2,500円、入会金は無料です(2026年10月時点、公式サイトより)。教室とオンラインの両方に対応しているため、天候や体調に合わせて受け方を選べるのも、70代には心強い点です。

オンラインレッスンで最初に戸惑いやすいのは、ビデオ通話の準備と、手元が先生に見える位置へのカメラの置き方です。初回だけご家族に設定を手伝ってもらうと、2回目からは一人でもスムーズに受けられるでしょう。

\まずは体験レッスンで相性を確かめる/

▶70代からでも受けられる体験レッスンを見る

独学は「楽譜が少し読める人」向け

子どもの頃に数年習っていた方なら、独学で再開する道もあります。ただし、自己流の癖がついたまま進むと、指や手首を痛める原因にもなりかねません。動画サイトの無料レッスンは手軽で便利ですが、自分の手の形が正しいかまでは教えてくれません。独学で進める場合も、数か月に1回は体験レッスンなどで先生に見てもらうと安心です。独学の進め方は大人のピアノ独学の練習の順番を参考にしてください。

費用の目安と、体験レッスンで確認したいこと

ピアノ教室の月謝は、教室の形態や回数によって幅がありますが、月5,000〜30,000円程度が一つの目安です。具体例として、島村楽器 ミーナ町田店のピアノサロン(1回30分の個人レッスン)は、月4回までのAコースが月14,300円、入会金13,200円と案内されています(2026年3月掲載の記事時点・税込)。入会金や教材費が別にかかることも多いので、体験レッスンのときに総額を確認しておきましょう。

体験レッスンでは、料金以外にも次の点を確かめておくと、入会後の「こんなはずでは」を防げます。

  • レッスンを休んだときに、別の日へ振り替えられるか
  • 体調や家庭の事情で、一時的に休会できるか
  • 楽譜を見ながら弾くことや、暗譜しないことを認めてくれるか
  • 弾きたい曲を相談でき、教本を一緒に選んでくれるか
  • 発表会への参加は自由か(出たくない場合に断れるか)

70代のピアノ初心者のための最初の1年ロードマップ

70代のピアノ初心者のための最初の1年ロードマップ(1〜3か月目から10〜12か月目までのゴール)

70代のピアノ初心者が1年で「両手で1曲」にたどり着くには、3か月ごとに小さなゴールを置くのが効果的です。下の表は、毎日15〜20分の練習を想定した目安です。進み方には個人差があるので、遅れても気にせず、自分のペースで調整してください。

時期 ゴール 練習の中心
1〜3か月目 右手だけで知っている曲を1曲 座り方・指番号・ドの位置を覚える
4〜6か月目 左手1音を添えて両手で弾く 右手と左手を別々に練習してから合わせる
7〜9か月目 左手で簡単な和音を弾く ドミソなどの和音の形を手で覚える
10〜12か月目 目標の1曲(やさしいアレンジ版)を通して弾く 録音して聴き返し、家族の前で1回弾く

1〜6か月目:片手から両手へ

最初の半年は、右手でメロディーを弾ける喜びを味わう時期です。焦って両手に進まず、右手だけで1曲を通して弾けたら、左手を1音だけ加えます。両手で合わせるときは、テンポを半分に落として、右手と左手が同時に鳴る瞬間だけを確認するのがコツです。

この時期にいちばん大切なのは、座り方と指番号を体に覚えさせることです。ここで身についた手の形は、2年目以降にどんな曲へ進んでも土台になります。「なかなか曲が進まない」と感じても、基礎を飛ばさずに積み上げた時間は、後から必ず効いてきます。

7〜12か月目:和音と「人前で1回」

後半の半年は、左手で和音を弾けるようになると、一気にピアノらしい響きになります。そして1年の締めくくりに、家族や友人の前で1回だけ弾いてみることをおすすめします。間違えても構いません。人に聴いてもらう経験は、次の1年の大きなモチベーションになります。

2年目に向けては、「1年に1曲ずつ、確実に弾ける曲を増やす」くらいのペースで十分です。新しい曲に進みながらも、1年目に仕上げた曲をときどき弾き直しておくと、自分だけのレパートリーが少しずつ増えていきます。

【一次情報を追加:シニアの生徒さんが初めて人前で弾いたときの様子や、そのあと練習がどう変わったかを1〜3文】

70代のピアノ初心者によくある質問

最後に、70代でピアノを始めようとしている方からよく寄せられる疑問にお答えします。

楽譜がまったく読めなくても始められますか?

始められます。入門教本の多くは、鍵盤の位置と「ド」の読み方から説明が始まります。最初から五線譜をすらすら読む必要はなく、1曲ごとに必要な音だけを覚えていくうちに、自然と読めるようになっていきます。教室によっては、最初は5つほどの音から少しずつ読み進めたり、ドレミを振った楽譜で始めたりと、読めない人向けの進め方を用意しています。

指が太い・短いと不利ですか?

入門段階の曲は、手を大きく広げなくても弾けるように作られています。指の長さや太さよりも、指を寝かせず、少し丸めて鍵盤に置く手の形のほうがずっと大切です。手の形は自分では確認しにくいので、先生に一度見てもらうと安心です。

家族に聞かれるのが恥ずかしいのですが…

電子ピアノならヘッドホンをつけて練習できるので、音が外に漏れません。家族に聴いてもらうのは、1曲弾けるようになってからで十分です。

ピアノは脳トレや認知症予防になりますか?

ピアノの練習は、両手を別々に動かしながら楽譜を先読みする「二重課題」になっており、高齢者を対象にした研究では、注意力や気分によい変化が報告されています。ただし研究の規模は小さく、「ピアノを弾けば認知症を防げる」とまでは言えません。効果を目的にするより、楽しく続けた結果として頭も使っている、くらいに考えるのがちょうどよいでしょう。

楽器を持っていなくても始められますか?

始められます。教室によっては、ピアノがなくても通いながら始められるコースや、店舗の練習室を予約して使える仕組みがあります。まずは体験レッスンを受け、続けられそうだと感じてから電子ピアノを選んでも遅くありません。

練習を休んでしまった日が続いたら、やめたほうがいいですか?

やめる必要はまったくありません。70代でピアノを始めると、通院や旅行、家族の行事などで1週間ほど鍵盤に触れない時期は必ず出てきます。久しぶりに弾くときは、新しい曲に進まず、前に弾けていた曲を1回通して弾くところから再開しましょう。指が思い出すまでに数日かかっても、ゼロに戻ったわけではありません。練習カレンダーに「弾いた日」だけ印をつけておくと、休んだ日ではなく続けた日が目に入るので、気持ちを立て直しやすくなります。

子どもの頃に少し習っていた場合は、どこから始めればいいですか?

子どもの頃にバイエルなどで習った経験がある方は、ドの位置や指番号を体が覚えていることが多いものです。その場合も、いきなり昔弾いていた曲に戻るより、入門教本の中盤あたりを試しに弾いてみて、つかえずに弾けるページから始めるのがおすすめです。昔の感覚が戻ってくるのは早いので、最初の目標曲は、まったくの初心者より一段高めに設定しても構いません。

まとめ:70代のピアノ初心者は「環境」と「小さな目標」から

この記事では、70代でピアノ初心者になる方に向けて、始め方と最初の1年の進め方を解説しました。冒頭の3つの疑問への答えは次のとおりです。

  • 何から始める?:「1年後に両手で弾きたい1曲」を決め、電子ピアノ・椅子・拡大楽譜・手元ライトを整える。楽器がなければ教室から始めてもいい
  • 指・目・耳の衰えへの工夫は?:1分のウォームアップ、目印の音に色をつける、控えめな音量とゆっくりのテンポで練習する。暗譜にはこだわらない
  • どう習う?:楽譜経験がないなら、最初の数か月は教室かオンラインで先生に見てもらう。体験レッスンで費用と振替・休会の制度も確認する

70代からのピアノは、上達の速さを競うものではありません。好きな曲が少しずつ自分の指から聞こえてくる時間そのものが、何よりの楽しみです。頭と指を同時に使い、家族や仲間に聴いてもらう楽しみも増えていきます。70代のピアノ初心者として、まずは今日、1日15分から鍵盤に触れてみてはいかがでしょうか。

▶ こちらの記事もあわせてどうぞ:60代からピアノを始めても遅くない!上達できる理由と練習法/シニアからピアノを始めるメリットと上達のコツ

\自宅からでも教室でも始められる/

▶オトノミチシルベの体験レッスンを見る