ショパンのノクターン第8番(Op.27-2)の難易度は、上級の入り口です。ヘンレ社の評価は9段階の6ですが、弾いた人の体感は10段階の8〜9まで上がります。第2番を弾けた方が次の目標にしたくなる曲ですが、同じ感覚で楽譜を開くと、音は読めるのに音楽にならない壁に当たります。
冒頭の左手が水面のように揺れ始める、あの数小節に惹かれて楽譜を買った方も多いのではないでしょうか。ところが、最初のページを弾けても後半で手が止まる。止まらずに弾けても、人に聴かせると何かが足りない。第8番の難しさは、この「弾ける」と「美しく聴こえる」の間の距離にあります。
- ノクターン第8番は自分のレベルで弾ける? ツェルニーはどこまで必要?
- ヘンレ6なのに、なぜ難しいと言われるの?
- 左手、重音、48連符はどう練習すればいい?
この記事では、複数の評価を並べて難しさの正体を整理し、全77小節の難所マップと、左手から48連符までの具体的な練習法、約6か月の計画をまとめました。第2番を弾いた経験がある方を想定しています。全曲の比較はショパン ノクターン 難易度一覧をご覧ください。
※本記事は一部PRを含みます
- 1 ノクターン第8番の難易度|ヘンレ6と体感8〜9の差
- 2 ノクターン第8番は弾ける?進度チェックで判断
- 3 ノクターン第8番の難所マップ|全77小節を見渡す
- 4 美しい左手の練習法|ノクターン第8番の土台
- 5 右手の歌と重音|音色で差がつく練習法
- 6 ペダルとクライマックス|濁らせずに響かせる
- 7 ノクターン第8番の楽譜の選び方|エキエル版とパデレフスキ版
- 8 ノクターン第8番の練習ステップ|約6か月の計画
- 9 ノクターン第8番の聴きどころと有名録音
- 10 ノクターン第8番の背景|貴婦人の夜想曲と若きショパン
- 11 ノクターン第8番でよくある失敗と直し方
- 12 ノクターン第8番のよくある質問
- 13 まとめ|ノクターン第8番の難易度は「仕上げ」で決まる
ノクターン第8番の難易度|ヘンレ6と体感8〜9の差

ノクターン第8番の難易度は、どの物差しで測るかで大きく変わります。公式に近い指標は中級の6ですが、演奏者の体感は上級です。結論としては、「楽譜は中級、仕上げは上級」と考えるのが実態に近いでしょう。
| 評価の出どころ | 第8番の評価 | 補足 |
|---|---|---|
| ヘンレ社 | 6(9段階) | ノクターンの大半が5〜6 |
| PTNAピアノステップ | 発展5・展開1 | 23段階のステップ |
| ショピニストへの道 | 8(10段階) | 第2番は4 |
| chopin-shopping | 9(10段階) | 全21曲中で最上位 |
| pianolevels | Lv7 | 投票による評価 |
| PianoQuest | 上級 | 第2番は初級の扱い |
| Yahoo!知恵袋の回答 | 約8(10段階) | 別れの曲と同程度との意見 |
全音ピアノピースの等級は確認できなかったため、掲載していません。お手元の楽譜でご確認ください。
ヘンレ6なのに難しいと言われる3つの理由
ヘンレの評価と体感が離れる理由を、編集部は次の3つだと考えています。
- 速い曲ではない:Lento sostenuto(ゆっくり、音を保って)の指示どおり、全体のテンポは遅く、譜面の見た目は穏やかです。
- 難しさが地味:ある大人の学習者は日記で、華やかさはないのに装飾音やトリルを細かく整える力がいる曲だと分析しています。難しさが耳に届きにくいのです。
- ごまかしが効かない:左手の16分音符は最後まで止まらず、その上で右手が自由に歌います。少しの乱れがそのまま聴こえます。
PTNAピアノ曲事典の演奏ヒントも、左手の流れを止めず右手を滑らかに弾くことが、この曲の要点だと説明しています。一方でショピニストへの道は、大部分はそれほど難しくなく、52小節の48連符の前半が突出して難しいという見方です。つまり、全体の繊細さと1か所の大きな山が同居しているのが第8番です。
ツェルニー30番で弾ける?
「ツェルニー30番程度で弾けますか」は、ノクターン第8番でいちばん多い疑問の一つです。知恵袋の回答は、30番でも譜読みができれば弾ける、40番が無難、30番では少し難しいと分かれていました。
編集部の答えは、音を並べるだけなら30番から挑戦できるが、仕上げまで考えるなら40番に入っている方が安心です。ゆっくり取り組めるなら、好きな気持ちで始めて問題ありません。ただし発表会など期限がある場合は、下の進度チェックで判断してください。
ノクターン第8番の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | ノクターン第8番 変ニ長調 作品27-2 |
| 速度・拍子 | Lento sostenuto/8分の6拍子 |
| 調 | 変ニ長調(♭5つ) |
| 長さ | 全77小節、演奏時間は約5〜7分 |
| 作曲・出版 | 1835年作曲、1836年出版 |
| 献呈 | ダッポニィ伯爵夫人(貴婦人の夜想曲とも) |
| 形式 | A-B-A’-B’-A”-B”-コーダのロンド風 |
第1番・第2番との比較
| 比較項目 | 第2番 | 第1番 | 第8番 |
|---|---|---|---|
| ヘンレ | 6 | 6 | 6 |
| 体感(ショピニスト) | 4 | 5 | 8 |
| 主な難所 | 左手の跳躍 | 長い連符 | 左手の分散和音と重音 |
| 右手の形 | 単旋律と装飾 | 単旋律と長い連符 | 単旋律に加え3度・6度の重音 |
第1番はノクターン第1番の難易度、第2番はノクターン第2番の難易度で詳しく解説しています。
▶ 聴いてみる|ノクターン第2番 Op.9-2(マウリツィオ・ポリーニ)
▶ 聴いてみる|ノクターン第1番 Op.9-1(マウリツィオ・ポリーニ)
ノクターン第8番は弾ける?進度チェックで判断

ノクターン第8番を弾けるかどうかは、教本の進度より、次の6項目で判断するのがおすすめです。4つ以上にチェックが入れば挑戦の目安、2つ以下なら先に別の曲をはさむと遠回りになりません。チェックの基準は編集部の目安です。
| チェック項目 | できる? |
|---|---|
| ノクターン第2番を止まらず通せる | □ |
| 左手の幅広い16分音符を、弱く均一に弾ける | □ |
| 右手で2つの音を同時に鳴らし、片方を歌わせられる | □ |
| ♭5つの楽譜に抵抗がない | □ |
| 右手の3度・6度を続けて弾ける | □ |
| 和音の変化に合わせてペダルを踏み替えられる | □ |
先に弾きたいノクターン
チェックが足りない方は、次の順番を試してください。PianoQuestも、第2番のすぐ次に第8番へ進むより、中級の曲を経験してからを勧めています。
| 不足している力 | 先に弾きたい曲 | 理由 |
|---|---|---|
| 連符と歌 | 第1番 Op.9-1 | 右手の自由な連符に慣れる |
| 左手の分散和音 | 第20番 遺作 | ゆっくりで形をつかめる |
| 入門の幅を広げたい | 第9番 Op.32-1 | ヘンレ5で歌を学べる |
第20番はノクターン遺作の難易度、ショパン全体の順番はショパン難易度一覧が参考になります。
▶ 聴いてみる|ノクターン第20番 遺作(ブルース・リウ)
▶ 聴いてみる|ノクターン第9番 Op.32-1(マウリツィオ・ポリーニ)
【一次情報を追加:執筆者が第8番を弾いたときの感想、難しかった箇所を1〜3文】
ノクターン第8番の難所マップ|全77小節を見渡す

ノクターン第8番の難所は、曲の形を知ると予想できます。主題Aと主題Bが交互に3回現れ、戻ってくるたびに装飾が増えていくからです。PTNAピアノ曲事典によると、ショパンがロンド風の形式で書いたノクターンは、この曲だけです。
| 小節 | 場面 | 難しいこと | 対策 |
|---|---|---|---|
| 1 | 序奏 | 最初の左手で音楽が決まる | 両手で取る方法も検討 |
| 2〜9 | 主題A | 最初の音から歌う | 指を選び、長い音の減衰を聴く |
| 10〜 | 主題B | 3度・6度の重音 | 上下の声を別々に練習 |
| 16 | 主題B | 右手の複雑な音型と連符 | 指使いを先に決める |
| 18 | 主題Bの高まり | オクターブに広がる | con forzaと直後の弱音の対比 |
| 20 | 主題B | オクターブの32分音符 | 2拍目に時間を取る |
| 24 | 転調 | 同じ音をド♯からレ♭へ読み替え | 音色を少し変える |
| 32 | A’ | 3音ごとの跳躍 | 真ん中の音を軸に練習 |
| 34 | B’ | 一瞬でイ長調へ | 33小節の左手の跳躍に注意 |
| 42〜45 | クライマックス | fzと左手のバス | 響きを優先 |
| 46〜 | A” | ffのまま主題へ戻る | 静かに戻らない |
| 52 | A” | 48連符 | 前半と後半に分割 |
| 62〜 | コーダ | 静かな回想と6度の上行 | 音量を落としても歌う |
小節は版によって確認しながら読み進めてください。特に51〜52小節と32小節は、知恵袋でも練習法の質問が集まる場所です。
美しい左手の練習法|ノクターン第8番の土台

ノクターン第8番の練習は、左手から始めるのが近道です。左手の16分音符は全小節で続き、1オクターブを超える跳躍も含みます。左手が安定すれば右手は自由に歌えますし、左手が崩れると何をしても崩れて聴こえます。
6音を1つの波として弾く
8分の6拍子の第8番では、左手が1小節に12音動きます。大きな1拍に6音なので、6音を1つの波と考えましょう。最初のバスにわずかな重みを置き、残りは弱く弾きます。全部を同じ強さで弾くと、右手の旋律を覆ってしまいます。
- 1小節の左手を、和音としてまとめて押さえ、手の形を確認する
- ゆっくり分散して、手首を小さく回しながら移動する
- バスを少し深く、残りを弱く弾く
- ペダルなしで音が途切れないか確認する
- 最後に右手を足す
指使いと手首|55にこだわらない
ロサンゼルス在住のピアニストによる日本語のレッスン動画では、小節の最後の音から次の音へ移るとき、版にある5-5の指使いを取らず、3-5でつないでいると紹介されていました。理由は、そのほうが手首が使えて音楽的につながるからです。もちろん5-5でも問題なく、手の大きさや指の長さで答えは変わります。
大切なのは、次の音へ移りやすい指を自分で決めることです。次の跳躍が遠いなら、1の指で終えておくと5の指へ移りやすくなります。動画でも、ショパン自身も手が大きいわけではなかったとして、肘や手首の使い方を重視していました。手が小さい方ほど、指を広げるより腕全体で運ぶ意識が役立ちます。
左手が崩れないテンポが、今の自分のテンポ
同じ動画で印象的だったのが、目標のテンポがあっても、左手が音楽的に弾ける速さをその曲の速さと考えるという話です。テンポは付点4分音符を1拍に感じる流れがあるとよい、というのが動画の講師の希望でしたが、無理に合わせると左手が崩れます。
編集部も、大人の学習者にはこの考え方を強くすすめます。まず左手が落ち着いて歌える速さで完成させ、そのあとで少しずつ流れを足しましょう。
最初の1小節は両手で取っていい?
冒頭1小節の左手だけの序奏は、緊張が最も高い場所です。動画では、本番でここを外すと最後まで引きずるので、演奏会なら両手で取ることを勧めていました。コンクールなど条件がある場合は別ですが、発表会で不安な方は先生に相談してみる価値があります。
右手の歌と重音|音色で差がつく練習法

ノクターン第8番の右手は、主題Aの単旋律と、主題Bの重音で性格が違います。どちらも鍵は、音を出す前にどう鳴らすかを決めることです。
最初の音に気持ちを込めて準備する
主題Aの最初の音は、この曲の印象を決めます。3でも4でも5でも、音楽的に弾ける指を自分で見つけ、準備してから弾きましょう。
もう一つ覚えておきたいのが、ピアノの音は弾いた瞬間から弱くなるという事実です。長い音のあとに次の音を強く置くと、ぶつかって聴こえます。消えていく音の音量に、次の音を合わせる意識を持つと、旋律がつながります。22小節以降のように右手が長く伸びる場所では、ゆっくりしすぎると音が消えてしまうので、少し先へ進みましょう。
3度・6度の重音を歌い分ける
第10小節からの主題Bでは、1つの手で2人が歌うような場面が続きます。基本は上の音が主役ですが、下の声が半音階で動く場所では、下を出すと効果的なこともあります。動画でも、場面ごとにどちらの声を出すかを判断していました。
- 上の声だけを、本番の指番号で弾く
- 下の声だけを、弱く弾く
- 上を強く、下を弱く同時に弾く
- バランスを逆にして、下を強く弾く
- 再び上を主役に戻す
逆のバランスは遠回りに見えますが、指の独立に効きます。差を近づけるか離すかで音色も変わるので、自分の耳で比べてみてください。鍵盤から手を離しすぎないことも、滑らかに弾くコツです。
16小節の4連符・5連符と細かい音型
16小節からの右手は、なんとなく始めると、なんとなく崩れます。動画でも、指使いを決めてから弾き始めることを強調していました。左手との合わせが難しければ、はじめは合う位置に鉛筆で線を引いても構いません。慣れたら線を外し、左手に対して自然に流れる感覚に近づけます。
右手が忙しくなると左手がうるさくなりがちなので、ここでも左手は支え役のままです。
32小節の跳躍は真ん中の音を軸にする
32小節の2拍目は、速い3音ごとの跳躍です。PTNAの解説では、3連符の形どおりに区切らず、1つ前の音から3音を取り出して練習する方法を紹介しています。真ん中の音を2の指で押さえたまま、外側の音を行き来する練習です。
さらに参考になるのが、原因は右手とは限らないという指摘です。33小節で左手が低い音へ飛ぶ不安から右手を間違えやすいので、32小節の最後で止める練習も試してみましょう。
52小節の48連符は分けて練習する

52小節の48連符は、ノクターン第8番の最大の山です。ショピニストへの道は前半を特に難しいとし、PTNAも前半と後半に分ける練習を勧めています。4音ずつでも速くならないという悩みは知恵袋にもありました。そんなときは同じ分け方を続けず、指が止まる位置の前後を重ねて練習すると、つなぎ目が見つかります。
速さを見せる場面ではありません。音の粒が流れていくように弾くと美しく聴こえます。インテンポにこだわらず、PTNAの解説にあるルバート(テンポを自然に揺らす表現)の考え方で、左手の流れが止まらない範囲で時間を取りましょう。
▶左手と重音のバランスをオンラインで見てもらう(オトノミチシルベ)
ペダルとクライマックス|濁らせずに響かせる
ノクターン第8番のペダルは、楽譜どおりに踏みっぱなしにしないのが基本です。今のピアノは当時の楽器より響きが豊かなので、そのままでは重く濁ります。PTNAの解説にも、当時の楽器は踏み続けても高音が透明に響いた、という説明があります。
少しずつ踏み替え、深さも変える
和音が変わるところで踏み替えるのが基本ですが、1回で全部を切り替えるのではなく、少しだけ踏み替える方法もあります。動画では、ペダルの深さを調節することで、ショパンの繊細さが増すと説明していました。ボイシング(和音の中の音量バランス)も、ペダルを細かく変えないと作れません。
19小節前後のように、左手の最低音を伸ばす指示がある場所は、低音を残したまま上だけを澄ませる意識が必要です。ペダルを変えても、低音がなくならないように耳で確かめましょう。
18小節のcon forzaと対比を作る
18小節に出てくるcon forzaは「力を込めて」という意味です。意味を調べたら、直後の弱いフレーズとの交代を作りましょう。動画では、ここからcon forzaと柔らかいフレーズが交互に出てくる点を、大事な対比として取り上げていました。
もう一つの山が、42〜45小節のクライマックスです。fzと左手バスのアクセントで高まり、46小節ではffのまま主題へ戻ります。静かに戻る曲が多い中で、ここは珍しい場面です。ただし音量より響きの豊かさを優先し、頂点のあとに訪れるコーダの静けさを大きく聴かせましょう。
同じ音でも意味が変わる場所
24小節では、右手のド♯が次にレ♭として読み替えられます。ピアノでは同じ鍵盤ですが、調が変わる合図です。弦楽器なら音高を変えるところですが、ピアノでは音色で表現するしかありません。少しだけ色を変えるだけで、転調の驚きが伝わります。
ノクターン第8番の楽譜の選び方|エキエル版とパデレフスキ版
ノクターン第8番は、楽譜の版で強弱やスラー、音符まで違う場合があります。信頼できる版を1冊決め、もう1冊と比べるのがおすすめです。動画でもエキエル版を使い、主題の強弱やタイの有無が版で違う例を示していました。
| 版 | 特徴 | 向いている人 |
|---|---|---|
| エキエル版(ナショナル・エディション) | 資料を精査した原典版。ポーランドの国家事業として編纂 | 迷わず1冊選びたい人、中上級者 |
| パデレフスキ版 | 長く使われてきた定番。実用的な運指 | 解釈の違いを比べたい人 |
| ヘンレ版 | 原典性と読みやすさの両立 | 運指も参考にしたい人 |
| 全音版 | 国内で手に入りやすい | まず楽譜を手にしたい人 |
IMSLPでは、版を見比べることもできます。楽譜を買う前に確認すると、選びやすくなります。
楽譜への書き込み
- 和音が変わる位置に、ペダルの印
- 主題が戻る場所に番号
- 主役の声に色ペン
- 24小節と34小節に、読み替えの印
- 52小節に分割の線
♭5つでも、指の位置を覚えれば怖くありません。特に34小節は見た目が大きく変わるので、鍵盤上の位置が同じであることを先に確認しましょう。
ノクターン第8番の練習ステップ|約6か月の計画

ノクターン第8番の仕上げには、1日30分以上で約6か月を見込むと現実的です。PianoQuestは中級で4〜6か月、上級で3〜5か月を目安としています。下の表は、第2番を弾いた経験がある方を想定した編集部の目安です。
| ステップ | 内容 | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | 左手だけを全曲読む | 1〜4週目 |
| 2 | 右手の旋律を、装飾なしの骨格で弾く | 3〜5週目 |
| 3 | 主題Aを両手で合わせる | 6〜10週目 |
| 4 | 主題Bの重音と装飾を部分練習 | 11〜16週目 |
| 5 | クライマックスと48連符 | 17〜22週目 |
| 6 | コーダと全体の仕上げ | 23週目以降 |
主題の変化を味わう
主題が戻るたびに装飾が増える点を、楽譜で並べて確認しましょう。同じ旋律でも、1回目は素朴に、2回目は豊かにと弾き分けると、物語が生まれます。
録音して自分の耳で確認する
スマートフォンで十分です。左手が右手に勝っていないか、音が濁っていないかは、弾きながらだと分かりません。第8番のような繊細な曲ほど、録音の効果が出ます。
ある大人の学習者は、先生の前では難所をミスして、優雅に弾くべき場所が一生懸命に聴こえると書いていました。同じ悩みを持つ方は、自分の録音を聴いて、先生に一度見てもらうと改善点が早く見つかります。
ノクターン第8番の聴きどころと有名録音
ノクターン第8番の練習では、同じ場所を別の演奏家で聴き比べると、理想の音が見えてきます。聴き比べは、次の3か所に絞るのがおすすめです。
- 冒頭の左手:どれくらい弱く、どんな音色で始めるか
- 主題Bの重音:どちらの声が聴こえるか
- 52小節:速さを聴かせるか、流れを聴かせるか
| ピアニスト | 聴きどころ |
|---|---|
| アルトゥール・ルービンシュタイン | 自然な揺れと、歌の品格 |
| ウラディーミル・アシュケナージ | 癖が少なく、基準にしやすい |
| マリア・ジョアン・ピリス | 静けさの中の表情 |
| マウリツィオ・ポリーニ | 構成の明快さ |
| 辻井伸行 | ショピニストへの道の音源にも掲載 |
| 山本貴志 | ショパン弾きとして聴き比べに |
PTNAピアノ曲事典のページでは、複数のピアニストの演奏動画も見られます。下はそのうちの一つ、藤田めぐみさんの演奏です。
▶ 聴いてみる|第8番を別の演奏で(エリック・ルー/ショパン研究所公式)
ノクターン第8番の背景|貴婦人の夜想曲と若きショパン
ノクターン第8番は、作品27の2曲目として1835年に書かれ、翌1836年に出版されました。ショパンが20代半ばの頃です。オーストリア駐仏公使の夫人に捧げられたことから、「貴婦人の夜想曲」と呼ばれることがあります。
第7番 嬰ハ短調の暗さと対をなすように、第8番は甘く明るい曲です。嬰ハと変ニはピアノでは同じ鍵盤の音なので、2曲を続けて聴くと、闇から光へ抜けるように聴こえます。
▶ 聴いてみる|ノクターン第7番 Op.27-1(マウリツィオ・ポリーニ)
作品が世に出た1836年は、ショパンの人生でも大きな年でした。マリア・ヴォジンスカに求婚し、ジョルジュ・サンドと出会い、シューマンのもとを訪ねてバラード第1番を聴かせています。第8番の若々しい美しさは、そんな時期の空気とともに聴くと、また違って感じられるのではないでしょうか。メンデルスゾーンも、ショパンが弾いたこのノクターンに感銘を受け、一部を耳で覚えたと姉に書き送っています。
▶ 聴いてみる|バラード第1番 Op.23(クリスチャン・ツィメルマン)
ノクターン第8番でよくある失敗と直し方
ノクターン第8番で起こりやすい失敗を、原因と直し方で整理しました。
| よくある失敗 | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 左手が目立ちすぎる | 跳躍で力む | バス以外を弱く |
| 左手がギクシャクする | テンポが速すぎる | 弾ける速さまで落とす |
| 音が濁る | ペダルの踏み替えが遅い | 和音の変化に印をつける |
| 旋律がぶつかる | 次の音が強い | 減衰した音に合わせる |
| 重音がそろわない | 片方の指が遅れる | 上の声から足す |
| 主題の反復が単調 | 変化を意識していない | 装飾の違いを比べる |
| 48連符で崩れる | 一気に弾こうとする | 前半と後半に分ける |
| 頂点で乱暴になる | 力の入れすぎ | 響きを優先する |
ノクターン第8番のよくある質問
ピアノ何年目で弾ける?
年数より進度で考えましょう。第2番を止まらず弾け、ツェルニー40番に入っている頃が一つの目安です。大人の方は、年数が短くても、十分な練習時間があれば挑戦できます。
最も難しいノクターンは第8番?
評価サイトによって異なります。chopin-shoppingでは最上位ですが、ショピニストへの道や知恵袋の回答では第13番 Op.48-1のほうが上です。ヘンレでも第13番と第3番が7で、第8番の6より上です。
▶ 聴いてみる|ノクターン第13番 Op.48-1(マウリツィオ・ポリーニ)
発表会で弾いても大丈夫?
演奏時間は約5〜7分で、発表会に向いています。音が多すぎず、歌で聴かせられる曲です。ただし準備は余裕を持ち、6か月前を目安に始めると安心です。
手が小さくても弾ける?
弾けます。左手は跳躍を手首と腕で運び、指使いを自分の手に合わせて決めましょう。無理に広げて痛みが出たら、すぐに休んでください。
ノクターン第8番と別れの曲はどちらが難しい?
知恵袋の回答では同程度とされていますが、別れの曲は全音Fで、中間部の技術的な山が大きい曲です。詳しくは別れの曲の難易度をご覧ください。
▶ 聴いてみる|別れの曲 Op.10-3(マウリツィオ・ポリーニ)
まとめ|ノクターン第8番の難易度は「仕上げ」で決まる
最初の疑問に答えます。
- 弾ける? 第2番を弾け、ツェルニー40番に入っている頃が目安です。30番でも時間をかければ挑戦できます。
- なぜ難しい? 速さではなく、止まらない左手、重音の歌い分け、繊細なペダルが聴こえてしまうからです。
- どう練習する? 左手から始め、重音は声を分け、48連符は前半と後半に分けます。
ノクターン第8番の難易度は、数字だけでは測れません。まずは今日、左手の最初の2小節を、一番きれいに聴こえる速さで弾いてみてください。その速さが、この曲との付き合いの出発点です。同じレベルの曲を探す場合は、ピアノ曲の難易度一覧表も参考にしてみてください。
参考資料:PTNAピアノ曲事典/ショピニストへの道/うきうきピアノ楽譜.com/PianoQuest/Yahoo!知恵袋/文月路実さんのnote/Hollywood Bowl 楽曲解説