乙女の祈りの難易度は?ピアノ何年目で弾ける?大人の再開組の練習法

バダジェフスカの乙女の祈りの難易度は、全音ピアノピースの評価で「C(中級)」です。子どもの頃、発表会で年上の子が弾いていた「乙女の祈り」に憧れた。自分も習っていたけれど、この曲にたどり着く前にやめてしまった。そんな記憶を持つ大人の方は多いのではないでしょうか。

大人になってピアノを再開すると、「今の自分にあの曲は弾けるのか」「ブランクがあっても届くのか」が気になります。乙女の祈りは、華やかに聴こえる一方で、同じ旋律が少しずつ飾られていく「主題と変奏」の仕組みを知ると、思ったより段階的に攻略できる曲です。

  • 乙女の祈りの難易度は、全音の評価や「エリーゼのために」と比べてどのくらい?
  • ピアノを習って何年目くらいで弾ける?大人の再開組でも届く?
  • オクターブ・連符・トリルなどの難所は、どんな順番で練習すればいい?

この記事は、子どもの頃にピアノを習っていて大人になって再開した方、あるいは再開を考えている方に向けて書いています。乙女の祈りの難易度の根拠から、何年目で弾けるかの目安、難所ごとの攻略法、大人ならではの練習の進め方まで順番にお答えします。

目次

乙女の祈りの難易度は全音ピアノピースで「C(中級)」

全音ピアノピースの難易度6段階(A〜F)と乙女の祈りの位置を示した図

乙女の祈りの難易度は、全音ピアノピースの基準で「C(中級)」です。全音ピアノピースでは「No.016 乙女の祈り」として出版されていて、A〜Fの6段階のちょうど真ん中にあたります。ソナチネに取り組んでいる段階の人が「次の目標」にしやすい位置づけです。

全音ピアノピースの6段階で見る乙女の祈りの位置

ランク レベル 同じランクの主な曲(全音ピアノピース)
A 初級 モーツァルト「メヌエット」など
B 初級上 ベートーヴェン「エリーゼのために」、モーツァルト「トルコマーチ」
C 中級 バダジェフスカ「乙女の祈り」(No.016)、ショパン「子犬のワルツ」、シューベルト「楽興の時」、サティ「3つのジムノペディ」
D 中級上 シューマン「トロイメライ」、モーツァルト「きらきら星変奏曲」
E 上級 ベートーヴェン「月光の曲」、ショパン「幻想即興曲」
F 上級上 ショパン「革命のエチュード」など

※全音ピアノピースの難易度分類にもとづく(2026年11月時点)。

同じCには、ショパンの「子犬のワルツ」やシューベルトの「楽興の時」も入っています。乙女の祈りは「子犬のワルツと同じくらいの段階の人が挑戦する曲」とイメージすると、自分との距離感がつかみやすいでしょう。教本でいえば、ツェルニー30番の後半から終了程度が一つの目安です。

「エリーゼのために」より一段階上。ただし難しさの種類が違う

乙女の祈りの難易度を測る物差しとして分かりやすいのが、ベートーヴェンの「エリーゼのために」です。エリーゼのためには全音でB(初級上)なので、乙女の祈りはちょうど一段階上にあたります。「エリーゼを弾き終えて、次は何を弾こうか」と考えている人にとって、手を伸ばせば届く位置にある曲です。

ただし、実際に両方を弾いた人の意見は割れます。Yahoo!知恵袋でも「エリーゼのためにと乙女の祈りはどちらが難しいか」という質問に、「同じくらい」「乙女の祈りのほうが難しい」と回答が分かれていました。理由を整理すると、次のようになります。

  • 乙女の祈りが難しいと感じる人:調号(フラット3つ)、オクターブ、アルペジオを流れるように弾く必要がある
  • エリーゼのためにが難しいと感じる人:調号はないが、中間部の速いパッセージをきれいに弾くのは意外と大変

つまり、これまでどんな練習曲をこなしてきたかで、どちらを難しく感じるかが変わるのです。乙女の祈りはオクターブと連符、エリーゼのためには中間部の速さ。難しさの「種類」が違うことを知っておくと、自分に合った順番で取り組めます。

「音を並べるなら中級、聴かせるなら中級上」が実感に近い

ピティナ・ピアノ曲事典の「演奏のヒント」では、乙女の祈りについて技術的にはそれほど難しくないが、最も難しいのは音楽的な変化のつけ方にあると解説されています。調は最初から最後まで変ホ長調のままで転調せず、和声も基本的な三和音が中心。しかも各セクションに繰り返し記号が付いているので、同じ進行が何度も戻ってきます。

楽譜に書かれた音を拾う作業は、実は早く終わります。問題はそのあとです。同じ旋律の繰り返しを、どう変化をつけて聴かせるか。ここに乙女の祈りの本当の難しさがあり、「オクターブやトリルもあるので中級上とみるべき」という評価もあります。「音を並べるだけなら中級、聴かせられる演奏にするなら中級上」と考えておくと、取り組んだときの実感に近いはずです。

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乙女の祈りはどんな曲?難易度に関わる曲の成り立ち

乙女の祈りの構成(前奏・主題・変奏1〜4・コーダ)と各部分の難しさを示した図

乙女の祈りの難易度を正しくつかむには、曲がどんな作りになっているかを知っておくのが近道です。乙女の祈りは、ポーランドの作曲家テクラ・バダジェフスカが書いた、短い前奏と主題、そして4つほどの変奏からなるピアノ小品です。原題はポーランド語で「Modlitwa dziewicy」、フランス語では「La prière d’une vierge」と呼ばれます。

まずは実際の演奏で、前奏から主題、変奏へと華やかになっていく流れを聴いてみましょう。

作曲者バダジェフスカと、世界に広まった経緯

テクラ・バダジェフスカ(1834〜1861)は、20代で亡くなったポーランドの女性ピアニスト・作曲家です。ピティナ・ピアノ曲事典によると、乙女の祈りは彼女が22歳のときに作曲した作品で、まずワルシャワで出版され、その後パリの音楽雑誌の付録として楽譜が配られたことをきっかけに、ヨーロッパ中に広まりました。

当時のヨーロッパでは、上流階級の家庭の娘たちがサロンでピアノを弾くことが一般的でした。そうした文化の中では、演奏効果が高く、かつ手頃な難易度の曲がとても好まれたのです。乙女の祈りはまさにその条件にぴったりで大流行し、バダジェフスカはその反響に応えて続編「かなえられた祈り」まで作曲しています。

一方で、本格的な音楽教育を受けていなかった作曲者の作品ということもあり、音楽史の専門家からは「感傷的なサロン音楽」と厳しく評価されてきた面もあります。しかしそうした評価とは関係なく、この曲は世界中で150年以上弾かれ続けてきました。プロの技巧を誇示する曲ではなく、弾き手が楽しめるように作られた曲。それが乙女の祈りです。

前奏・主題・変奏:同じ旋律がだんだん華やかになる

乙女の祈りは、最初に示された旋律(主題)が、伴奏や飾りを変えながら何度も繰り返される変奏曲の形で書かれています。全音ピアノピースの楽譜(全60小節)をもとに、弾き手の目線で整理すると次のようになります。

部分 小節 右手の役割 難しさの中身
前奏 1〜4 両手のオクターブで駆け上がる 8つのオクターブを均一に、勢いよく
主題 5〜12 オクターブで旋律を弾く 旋律を歌わせ、左手を控えめに
変奏1・2 13〜28 16分音符・32分音符、7連符・10連符 細かい音を均等に、親指のくぐり
変奏3 29〜36 低い音域で旋律、左手が交差 マルカートで旋律をはっきり出す
変奏4 37〜52 トリル付きの旋律 トリルを軽く、粒を揃えて
コーダ(終結部) 53〜60 オクターブの連続、Più allegro 重くならず、潔く明るく終わる

※小節番号はピティナ・ピアノ曲事典の解説にもとづく。

このように、乙女の祈りの難易度は「後半に行くほど少しずつ上がる」作りになっています。そして注目してほしいのは、左手の伴奏はわずか3パターンを覚えれば曲のほとんどができてしまうということ。最初の主題と左手のパターンが弾ければ、曲の半分以上は理解できたといってもよいでしょう。

ソラ
乙女の祈りって、聴くと音がいっぱいで難しそうなのに、実は同じメロディの繰り返しなんだね。
カイ
そうなんだ。飾りの音がどんなに増えても、聴き手の耳には旋律が聴こえていなきゃいけない。しかも転調もしないから、4回も同じ進行を聴かせることになる。そこが乙女の祈りの本当の難しさだよ。

台湾ではゴミ収集車の音楽としても有名

乙女の祈りは、台湾でゴミ収集車が流す音楽として使われていることでも知られています。ベートーヴェンの「エリーゼのために」と並んで、住民に収集車の到着を知らせる定番のメロディになっているのです。日本でも、オルゴールや街頭のBGM、各地の生活音として耳にすることが多く、「曲名は知らなかったけれどメロディは知っている」という方も多いのではないでしょうか。

クラシックの名曲というより「暮らしの中の音楽」として親しまれてきたからこそ、発表会で弾くと客席がすぐ反応してくれる。乙女の祈りが発表会の定番曲であり続けている理由の一つです。

乙女の祈りの難しいポイント5つ

乙女の祈りの難しいポイント5つ(オクターブ・連符・トリル・左手の交差・繰り返しの弾き分け)の図解

乙女の祈りの難易度を決めているのは、主にオクターブ・連符・トリル・左手の交差・繰り返しの弾き分けの5つです。ピティナや経験者のブログ、Yahoo!知恵袋の相談内容から「実際につまずく人が多い順」に整理しました。順番に見ていきましょう。

1. 前奏と主題のオクターブ

乙女の祈りの最初の壁は、冒頭から出てくるオクターブです。前奏は両手のオクターブが8つ、駆け上がるように続き、主題に入ると今度は右手がオクターブで旋律を弾きます。コーダ(終結部)でもオクターブの連続が待っています。

オクターブの指使いは、白鍵は親指と小指、黒鍵は親指と薬指が基本です。手が小さい方は「1オクターブが届かない」と悩みやすいところですが、楽譜によっては4小節目をアルペジオ(和音を1音ずつばらして弾く)で弾くよう指示しているものもあります。届かない和音は堂々とアルペジオにして大丈夫です。

練習のコツは、指を少し丸めて、1と5の指の幅を固定したまま横に移動すること。指の付け根が隣の鍵盤に触れて雑音が入るのを防げます。オクターブで「ミ♭・ファ・ソ・ラ♭・シ♭・ド・レ・ミ♭」と上がって下りる練習を、スタッカートや付点のリズムに変えて繰り返すと、なめらかに動くようになります。

2. 7連符・10連符の細かい音

変奏1・2(13〜28小節)に入ると、16分音符や32分音符、7連符・10連符が登場します。楽譜を開いた瞬間に「音が多い」と身構える箇所ですが、実は使われている音はとても少ないのです。

たとえば変奏1の旋律は、読んでみると「シ・ソ・シ・ミ・ソ・シ・ミ・ソ…」と、ソ・シ・ミの3つの音だけでできています。10連符の部分も、弾く音は「レ・ファ・ラ♭・シ♭」の4音のみ。音と運指さえ覚えてしまえば、反復練習で必ず弾けるようになる部分です。

難しいのは、途中で親指をくぐらせる動きです。くぐる瞬間に音が大きくなったり、一瞬止まったりすると、なめらかに聴こえません。おすすめの練習手順はこうです。

  1. 休符のあとの16分音符を弾き、親指をくぐらせたら、次の3音を「和音」でポンとつかむ
  2. それが自然にできるようになったら、和音をばらして1音ずつ(アルペジオで)弾く
  3. つなげて弾けるようになったら、少しずつテンポを上げる

10連符の間隔をできるだけ均等にする意識も大切ですが、最初から完璧を目指す必要はありません。手を横にスライドさせる動きを素早くすることを優先しましょう。

3. トリルを軽く、粒を揃えて

変奏4(37〜52小節)では、旋律にトリル(隣り合う2つの音を素早く交互に鳴らす装飾)が加わります。乙女の祈りはトリルが何度も出てくるので、2本指で交互に動かす時間が長く、指のスタミナも必要になります。

トリルを安定させるコツは2つあります。

  • 指番号を決めて固定する:2・3の指か2・4の指など、自分がやりやすい組み合わせを決め、毎回同じ指で練習する
  • 回数を決めて固定する:勢いで弾くと毎回長さが変わって拍が崩れる。テンポを落とした段階で「何回入れるか」を決めておく

また、鍵盤の右端(高音域)のトリルは、体から離れていて指に体重がかかりにくいため、うまくできないという声がよくあります。肘が伸びきらないように少し曲げ、指先に重みがかかる姿勢を意識してみてください。鍵盤が上がりきった状態から押し込むより、少し沈んだ状態をキープして指を交互に動かすと、軽く粒の揃ったトリルになります。

4. 左手が右手を越える「交差」

変奏3(29〜36小節)では、左手が右手の上を越えて高い音を弾く「交差」が出てきます。手を交差させる曲は「ねこふんじゃった」以外では初めて、という方も多く、初めて出会うと手元が混乱しがちです。

ここは音を間違えるというより、動作の段取りを覚える練習です。両手の高さの関係を先に確認し、腕をどの高さに置くかを決めてから合わせましょう。ピティナの解説では、この部分は「乙女というより、男性のテノール歌手が歌っているイメージ」で、マルカート(はっきりと)で旋律を出すとよいとされています。右手は低い音域で旋律を担当するので、大人っぽく、少し力を抜いて弾くと雰囲気が出ます。

左手がジャンプするので力が入りやすいのですが、伴奏の音がうるさくならないよう注意が必要です。ただし高音域は音が小さくなりやすいので、ほんの少しだけ意識して鳴らすとバランスが整います。

5. 同じ旋律の繰り返しをどう弾き分けるか

技術的な難所をクリアしたあとに残る、最後にして最大の壁が「繰り返しの弾き分け」です。ピティナの解説によれば、変奏1と変奏2(13〜28小節)は最後の小節を除いてまったく同じ内容で、しかも各セクションに繰り返し記号が付いています。つまり同じことをほぼ4回繰り返すことになるのです。

楽譜どおりに弾くと、聴いている側には「さっきと同じところをずっと弾いている」という印象になりがちです。対策は、強弱・テンポの揺らし方・アーティキュレーション(音の切り方・つなげ方)を変えて、4回が同じにならないようにすること。曲全体としては、後半に進むにつれて感情が高ぶっていく設計なので、少しずつ盛り上げていき、最後のコーダで頂点を迎えるように組み立てると、聴き手を退屈させません。

なお、ピティナの解説でも「各セクションの繰り返しは省略してもよい」とされていて、実際にYouTubeの演奏動画でも繰り返しを省く人は少なくありません。発表会で弾く場合は、先生と相談して繰り返しの有無を決めておくと安心です。

番外編:ペダルで響きを濁らせない

乙女の祈りでは、響きを豊かにするためにダンパーペダル(右のペダル)を使います。ただし、連符やオクターブの駆け上がりの間ずっと踏みっぱなしにすると、前の和音と次の和音が混ざって響きが濁ってしまいます。基本は左手の和音が変わるところで踏みかえることです。

ペダルは両手が弾けるようになってから足すのではなく、主題の段階から少しずつ入れておくと、後半の変奏でも慌てずに済みます。

ソラ
手が小さくてオクターブがつらい…。先生に「手が小さいのは大きなマイナス」って言われたらピアノを諦めるべき?
カイ
諦める必要はまったくないよ。届かない和音はアルペジオにしていいし、指を丸めて1と5の幅を固定する練習で、雑音はかなり減らせる。乙女の祈りは「手の大きさ」より「旋律を歌わせられるか」で差がつく曲なんだ。

乙女の祈りはピアノ何年目で弾ける?教本の進度で見る目安

乙女の祈りはピアノ何年目で弾けるかを教本の進度で示した階段図

「ピアノ何年目で乙女の祈りが弾けるか」は、習い始めた年齢や練習量によって大きく変わります。そのため年数より「今どの教本を弾いているか」で判断するのが確実です。ここでは、日本のピアノ教室でよく使われる教本の進度を基準に目安をまとめます。

教本の進度と乙女の祈りの目安表

今の段階 おすすめの取り組み方 ポイント
導入教本・バイエルの途中 簡単版(初級アレンジ) 旋律を覚えて曲を楽しむ段階
バイエル終了〜ブルグミュラー25の前半 原曲の主題と左手3パターンから部分練習 オクターブが届けば主題は弾ける
ブルグミュラー後半〜ソナチネ・ツェルニー30番前半 原曲(全音ピアノピースNo.016)に挑戦 連符・トリルの部分練習に時間をかける
ツェルニー30番後半〜終了 原曲を「聴かせる演奏」に仕上げる 繰り返しの弾き分け・表現を磨く段階

年数に無理やり換算すると、子どもの頃から習っている場合で4〜6年目あたりが多い印象ですが、ピアノ歴2年で小学6年生が弾いた例もあれば、中学生になってから挑戦する例もあり、本当に人それぞれです。年数は気にせず、上の表で「今の段階」を見つけてください。

また、ピティナ・ピアノステップ(ピティナが運営する進度の目安)では、乙女の祈りは「応用1・応用2」に分類されています。23段階あるステップの中では中ほどにあたり、全音のC(中級)という評価とも一致しています。

子どもの頃に習っていた大人の場合

子どもの頃にブルグミュラーやソナチネまで進んでいた方なら、ブランクがあっても数か月の準備で原曲に手が届くことが多いです。指は忘れていても、楽譜の読み方や曲の形の感覚は体に残っているからです。

言われるままに弾いていた曲でも、大人になって改めて楽譜を読むと、強弱記号やフレーズのまとまりに込められた意味に気づくことがあります。同じ曲でも、大人の再開組は「理解して弾く」ことができるのが強みです。再開のステップ全体については、大人のピアノ再開の記事でも詳しく解説しています。

大人になってから始めた初心者の場合

大人になってから始めた方は、教本の進度に加えて、1日の練習時間と仕上げたい時期から逆算するのが現実的です。乙女の祈りは主題と変奏の形なので、「今月は主題、来月は最初の変奏」というように、区切りやすいのが大きな利点です。

目安として、経験ゼロから独学で始めて2年ほどで全音の原曲版に挑戦したというブログの記録もあります(10連符とトリルで苦戦したものの、反復練習で通して弾けるようになったそうです)。大人からピアノを始める方向けの記事もあわせて参考にしてみてください。

大人の再開組にこそ乙女の祈りをすすめる理由

大人の再開組が乙女の祈りに向いている理由(強み3つとつまずきやすい点)の図解

乙女の祈りは、ピアノを再開した大人が「最初の目標曲」にするのにぴったりの曲です。全音Cという手応えのある難易度でありながら、構造がわかりやすく、練習の成果が目に見えやすいからです。

大人ならではの3つの強み

  • 手が大きい:子どもの頃に届かなかったオクターブが、無理なく届くことが多い
  • 曲の構造を理解できる:主題と変奏の仕組み、左手3パターンの伴奏を頭で理解して、効率よく練習できる
  • 「聴かせたい」動機がある:家族や友人に聴いてもらう目標を立てやすい

特に1つ目は大きな違いです。子どもの頃に乙女の祈りで挫折した理由が「オクターブが届かなかった」なら、大人になった今は条件が変わっているかもしれません。

そして3つ目。乙女の祈りは誰もが知っている旋律で、演奏時間も4〜5分と手頃なので、発表会やちょっとした披露の場にぴったりです。「次の発表会でこれを弾く」と決めると、練習のモチベーションが続きます。

大人がつまずきやすいポイントと対策

一方で、大人の再開組がつまずきやすいのは、「昔はもっと弾けたはず」という焦りと、練習時間の確保です。最初から全曲を通そうとすると、思うように指が動かず落ち込んでしまいがちです。主題だけ、左手の3パターンだけ、と小さな目標を積み重ねていくほうが、結果的に早く全曲にたどり着けます。

もう一つ、大人に多いのが「プロの演奏と比べて自分の演奏がしょぼく聴こえる」という悩みです。楽譜どおりに弾けていても、強弱の付け方や音の余韻、ちょっとしたタイミングのズレで曲の雰囲気はまったく変わります。これは技術不足というより、表現の設計図をまだ持っていないだけ。次の章で紹介する「設計を決める」ステップを取り入れてみてください。

再開して最初の1か月にやっておきたいこと

ブランクのある方が乙女の祈りを目標にするなら、最初の1か月は指を慣らす期間と割り切るのがおすすめです。

  • ハノンの最初の数曲で指の独立を取り戻す
  • ブルグミュラーなど昔弾いた曲を1〜2曲弾き直す
  • 変ホ長調の音階をゆっくり弾いて、フラット3つ(シ・ミ・ラ)の感覚に慣れておく
  • オクターブで変ホ長調の音階を上がり下りして、手の幅を思い出す

こうした準備は遠回りに見えますが、乙女の祈りの譜読みと指の動きが格段に楽になります。準備期間を設けることで、「思ったより弾けない」というショックを和らげることもできます。

乙女の祈りを仕上げる練習ステップと楽譜の選び方

乙女の祈りを仕上げる練習4ステップ(譜読み・部分練習・表現の設計・通し)の図

乙女の祈りの練習は、譜読み→難所の部分練習→表現の設計→通しの4ステップで進めるのが効率的です。曲の最初にある前奏のオクターブから順番に攻略するのではなく、骨組みである主題と左手から入るのがポイントです。

4ステップで進める練習プラン

  1. ステップ1|譜読み(1〜2週間):左手の3パターンを先に覚える。主題を片手ずつ、次に両手で。装飾音は省いて骨組みの音だけ拾ってもよい
  2. ステップ2|難所の部分練習(2〜4週間):オクターブ、7連符・10連符、トリル、左手の交差を取り出して単独で練習する。通し練習に混ぜない。トリルの回数と指番号はここで決める
  3. ステップ3|表現の設計:「ここは前より弱く」「ここで一番盛り上げる」「この繰り返しはテンポを少し落とす」と楽譜に書き込む。繰り返しを省略するかもここで決める
  4. ステップ4|通しと仕上げ:テンポを落として全曲を通し、少しずつ上げる。録音して聴き返すと、繰り返しの弾き分けができているかがはっきり分かる

前奏のオクターブは曲の最初にありますが、練習の順番としては後回しでかまいません。最初にここで時間を使いすぎると、肝心の主題や変奏に進めないまま気持ちが折れてしまうことがあるからです。

「エリーゼのために」を仕上げた経験がある人なら、おおむね2〜3か月が通して弾けるようになる目安です。ただし、納得のいく演奏にしようとすれば半年かけても終わりません。期間を目標にせず、ステップごとに何ができたかで進み具合を測ってください。

楽譜は「全音ピアノピースNo.016」から

乙女の祈りの楽譜を初めて買うなら、全音ピアノピース No.016「乙女の祈り」が扱いやすい選択です。原曲どおりの譜面に運指が付いていて、1曲だけの薄い冊子(550円程度)なので譜面台にも安定して置けます。この記事で紹介した全音Cという難易度も、この原曲版に対する評価です。

バダジェフスカは1861年に亡くなっているため、乙女の祈りの原曲はパブリックドメインです。IMSLPなどの楽譜アーカイブでは当時の楽譜を無料で閲覧できますが、運指や強弱の指示が現代の学習者向けに整えられていないものがほとんど。「まず譜面を見てみたい」段階には十分ですが、実際に取り組むなら運指付きの市販譜のほうが確実に速く進みます。

簡単版を選ぶときのチェックポイント

乙女の祈りは人気曲なので、初心者向けの簡単版も多く出版・配信されています。簡単版の難易度は版によってまったく違うので、選ぶときは次の点を確認しましょう。

  • 原曲の変ホ長調のままか、フラットの少ない調に移調されているか
  • 前奏や主題のオクターブが、単音や和音に簡略化されているか
  • 7連符・10連符やトリルが省略・簡略化されているか
  • 変奏の数が省略されて、短くなっているか

子どもの頃に習っていた再開組の方は、簡単版を経由せず、原曲の主題から部分練習するほうが近道になることも多いです。原曲の響きを知っている人ほど、簡単版では物足りなく感じやすいからです。逆に「いつか原曲で弾きたいが、今は形にしたい」という方は、まず簡単版で曲全体の流れを体に入れてから原曲に進む順番も現実的です。

\繰り返しの弾き分けは、先生に聴いてもらうのが近道/

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乙女の祈りの難易度に関するよくある質問

エリーゼのために・乙女の祈り・子犬のワルツの難しさの種類を比較した表

最後に、乙女の祈りの難易度について迷いやすいポイントをQ&A形式でまとめます。

子犬のワルツと乙女の祈りはどちらが難しい?

全音ピアノピースでは、ショパンの子犬のワルツと乙女の祈りはどちらもC(中級)です。ランクは同じでも、子犬のワルツは右手の速く細かい動き、乙女の祈りはオクターブと連符・旋律の弾き分けが中心で、難しさの種類が異なります。指を速く回すのが得意な方は子犬のワルツ、ゆったり歌わせるのが好きな方は乙女の祈りのほうが取り組みやすいでしょう。

トルコ行進曲と乙女の祈りはどちらが難しい?

モーツァルトのトルコ行進曲(トルコマーチ)は全音でB(初級上)、乙女の祈りはC(中級)なので、評価のうえでは乙女の祈りが一段階上です。ただしトルコ行進曲は後半のオクターブの連打とテンポの速さで苦戦する人が多く、「トルコ行進曲のほうが大変だった」という声もよく聞きます。こちらも難しさの種類が違う組み合わせです。

手が小さくてもオクターブは弾ける?

1オクターブがぎりぎり届く程度の手でも、乙女の祈りは弾けます。指を丸めて1と5の指の幅を固定する、届かない和音はアルペジオにする、といった工夫で対応できます。ただし雑音が入りやすいので、オクターブの練習にはいつもより時間をかけてください。手の小さい子どもが発表会で弾くことも多い曲なので、大人の手なら心配しすぎなくて大丈夫です。

電子ピアノでも練習できる?

電子ピアノでも練習できます。乙女の祈りは前奏のオクターブなどで広い音域を使うため、88鍵のモデルで、ペダルが付いているものが安心です。鍵盤のタッチが軽すぎるモデルだと、旋律と飾りの音の弾き分けを練習しにくいことがあるので、できれば重さのある鍵盤を選びましょう。トリルは鍵盤の構造上アップライトピアノでもやりにくいことがあるので、電子ピアノでも大きな差はありません。

独学でも弾ける?

譜読みまでは独学で十分進められます。転調がなく和声もシンプルだからです。難しいのは繰り返しの弾き分けで、ここは自分の演奏を録音して聴き返す習慣があるかどうかで差がつきます。誰かに聴いてもらえる機会があれば、仕上がりは格段に早くなります。大人向けのピアノ教室・先生の探し方も参考にしてみてください。

乙女の祈りの次に挑戦するならどの曲?

乙女の祈りを全曲弾けたら、同じC(中級)のショパン「子犬のワルツ」やサティ「ジムノペディ第1番」、一段階上のD(中級上)ではシューマン「トロイメライ」が候補になります。オクターブと旋律の歌わせ方を身につけた乙女の祈りの経験は、ショパンのノクターン第2番のような「歌う曲」にも直接つながっていきます。

まとめ|乙女の祈りの難易度を知って、大人の再開の1曲に

この記事では、バダジェフスカの乙女の祈りの難易度と、ピアノ何年目で弾けるかの目安、大人の再開組向けの練習法を解説しました。冒頭の3つの疑問への答えをまとめます。

  • 難易度は?:全音ピアノピースでC(中級)。エリーゼのためによりも一段階上で、子犬のワルツと同じランク。音を並べるなら中級、聴かせるなら中級上
  • 何年目で弾ける?:年数より教本の進度で判断。原曲はブルグミュラー後半〜ソナチネ・ツェルニー30番の段階から、簡単版ならバイエル〜ブルグミュラーの段階から
  • 難所と練習の順番は?:オクターブ・連符・トリル・左手の交差・繰り返しの弾き分けの5つ。左手3パターンと主題から入り、難所は単独で部分練習、最後に表現の設計図を作る

乙女の祈りは、子どもの頃の憧れを、大人になった今の手で取り戻せる曲です。乙女の祈りの難易度を正しく知ったうえで、焦らず主題の1フレーズから、もう一度ピアノとの時間を始めてみてください。

次の目標曲を探している方はショパンのワルツの解説記事を、再開後の練習メニューに迷っている方は大人の独学練習メニューの記事もあわせてご覧ください。